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DF
彼女が去っていくのを彼はここに立って見ていた。
ここに彼を残して彼女がじぶんたちがいつか話し合った全てを捨てる意味、彼女が彼の隣からは永遠にいなくなることの意味、それらもおそらく完璧に理解した上で彼女は立ち去っていった。
彼が彼のままでいつづけることの意味。
これから先、彼はそれを幾度となく考えるだろう。そして何度も問うことになる。
きっとどんな時も、それは同じ一つの言葉に集約されるに違いなかったけれど。
彼は言葉によってじぶんの気持を捕まえるが、同時に捕まりもする。彼はいつも藻掻く。同じことをひたすらに繰返す。たんなる事実でしかないことをどうしてもそのまま認めるということが彼はできなかった。
彼は彼女のことを呼び続けていくに違いない。しかし決まってそれは聞こえない声でだ、ずっとここで、彼じしんのままでいるしかない場所で、彼は彼女だけを呼び続けていく。始めから届かないと知りつつ。
ときに、手を抑えこんでいる手を彼は見ることにもなる。
いつ離すのか? そもそもまず手は何をしようとしていたのか?
彼は視線だけで問う。まるで、心の底からじぶんには理解できない行動を眼前にした時みたいにだ。
しかし動きを抑えこんでいるのも動こうとしているのも、どちらも常に彼じしんの手なのだった。




