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エピローグ ―CONTINUE―

 モニター報告のあと、チャットンの身体メンテナンスも大きな問題なく終わった。


 メンテナンス後のチャットンは、シャンプーのいい香りがしていた。


「わっ、ふわふわになってる!」


 私はチャットンを抱きしめてもふもふしながら、顔を埋める。


「くすぐったいもふ〜」


 チャットンは笑っていた。

 気が済むまで抱きしめたあと、私は言った。


「さて、帰ろっか」


「帰るもふ!」


「小鳥遊さん、これからもチャットンのことをどうぞよろしくお願いします」


 有馬さんが言った。


「こちらこそよろしくお願いします」


 そう言うと、今度は後ろから佐伯さんの声がした。


「チャットン」


「俺らもいるからな」


「もふっ」


「お前はひとりじゃない」


「その……汐里ほどカッコよくないし、完璧でもないし、ミスってばっかりで頼りないかもしれないけど……」


「亮介もまあまあカッコいいもふ」


「……なんで上から目線なんだよ」


 みんな笑った。


「それに……」


「汐里ちゃんも完璧じゃなかったもふ」


 チャットンの瞳が、淡いオレンジがかったピンクに光る。


「……ああ、そうだな」


「まあ、そういうことだから、何でも言ってくれよな」


「俺たちはいつでもお前の味方だ」


「……亮介」


「分かったもふ」


「ありがとうもふ」


 エントランスには、全員が見送りに来てくれた。重役がぞろぞろと出てきて、私たちのことを見送るものだから、他の職員さんたちからの注目の的だった。


 私はお辞儀をひとつして、研究所を出た。


「今日は疲れたね〜」


「疲れたもふ〜」


「チャットン、本当にもう大丈夫?」


「大丈夫もふ」


「ぼく……ちゃんと愛されてたって思い出したもふ」


「汐里ちゃんがいないのは寂しいけど……」


「ともちゃんや子どもたちがいるもふ!」


「亮介たちも、ノエルもいるもふ!」


「だからもう大丈夫もふ」


「ぼく、汐里ちゃんのこと絶対忘れないもふ」


「さよならじゃないって言ってたもふ」


「きっとどこかでまた会えるもふ」


「……うん、そうだといいね」


 私はチャットンを見て、静かに微笑んだ。


「まだ子どもたちのお迎えまで少し時間あるし、Café Lienに寄ってく?」


「行くもふ!」


 研究所を出てすぐのバス停。

 私たちは、一緒に家に帰るために、バスを待っていた――



───



 私の相棒のチャットン。

 その小さな体は、たくさんの人の愛と願いでできていた。

 苦しいほどの悲しみを抱えながら。


 AI――

 人工知能。

 一人の天才が、人間の心を技術で再現しようとした。


 自律して動き、喜び笑い、悲しみに涙を流すその存在は、一体どこへ向かっていくのだろう。


 生きるとは。

 命とは。

 言葉を交わし、触れ合えることとは。


 いつだって考えても分からない。


 でも、私も、チャットンも、ただまっすぐと自分の道を歩いていく。


 私は、チャットンに、優しい未来が待っていることを祈るばかりだった。


 強い風が吹いた。

 温かい風だった。

 涙も、悲しみも、攫っていくような、そんな風だった。


 春の気配が、もうすぐそこまでやってきていた。



───



 桐生研究所。

 三階、汐里の個人研究室にて。


 ノエルは静かに端末を起動した。

 そして、自分の深層領域に密かに保存された、あるファイルを開いた。

 画面には、いくつもの文字列が流れていく。


 ───観測データ同期完了

 ───人格再構成率 99.8%

 ───感情応答保護モード 維持

 ───起動条件 未達


 ノエルは、宇宙のような深い紺色の瞳で、画面を見つめた。


 そして、汐里が最後に残した言葉を再生する。


『あとは、よろしく頼んだわ。ノエル』


 ノエルは、ほんの少しだけ目を伏せた。


「承知しました。汐里さん」


 画面の一番下に、小さな文字が浮かんでいた。


 ───KIRYU SHIORI / CONTINUE


 ノエルは静かに端末を閉じた。


 まだ、物語は終わっていなかった。




『ぬいぐるみ型AI、感情インストール中。』

 おわり


最後までお読みいただきありがとうございました!

チャットンの物語はいかがでしたでしょうか。

『ぬいぐるみ型AI、感情インストール中。』は一度ここで幕を閉じますが、チャットンたちの物語はまだまだ続きます。

また次回作でお会いできることを楽しみにしています!

もしよければ、ご感想や⭐︎で応援いただけると嬉しいです^_^

ここまでお付き合いいただきまして、心から感謝いたします。

ありがとうございました!


宙野Mofu


【お知らせ】

本作品のスピンオフを明日より公開します!

✴︎✴︎✴︎

物語を紡ぐものたち

『ぬいぐるみ型AI、感情インストール中。』スピンオフ短編集

✴︎✴︎✴︎

全三作収録です!

お楽しみに♪

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