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関西弁の銀髪ハーフ美少女が俺を照れさせたいらしいが照れてるのはいつもキミだ  作者: 夜天 颯


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41. …お前、これ普通のキャンプだと思ってる?

夏休みも、もう終わりが見えていた。


 八月の終わりに近づいた空は、まだ暑いくせに、少しだけ色が薄くなっている気がする。蝉の声も、前ほど勢いがない。


 そんな午後。


 桐谷湊のスマホが、昼過ぎからずっと落ち着かなかった。


「……」


「……何でこうなるんやろな」


 白銀ルナが、グループ通話越しにぼそっと言う。


『知らないけど、原因の中心にいる自覚は持ったほうがいいよ』


 福原七海の声は、相変わらず落ち着いている。

 その落ち着き方が少しだけ腹立つ。


「何でうちなん」


『反応が一番早かったから』


「それは……」


 白銀が少し言葉に詰まる。


『否定しないんだ』


「うるさい!」


 そのやり取りの間に、土井海斗が笑った。


「いやもう、行く前から面白いな」


「土井、楽しんでるやろ」


 湊が言う。


「ちょっとな」


「だって普通、キャンプの計画ってもっと平和だろ」


 その通りだった。


 事の発端は、一昨日の土井の一言だ。


「夏休み最後だし、どっか泊まりで行かない?」


 軽いノリだった。

 湊も、最初はいいんじゃないかと思った。


 近場のキャンプ場。

 二泊三日。

 自然が多くて、川もあって、バーベキューもできる。

 学生五人で行くにはちょうどいい。


 その提案自体は、たしかに普通だった。


 でも。


 そこに白銀が

『行く』

と即答して。


 七海が

『面白そう』

と乗って。


 美羅李が

『私も行く』

と静かに決めたあたりから、空気が普通じゃなくなった。


「でも、決まったんやしええやろ」


 白銀が言う。


「今さらやめるとか言わへんよな?」


『言わないけど』


 七海が返す。


『白銀さん、その確認の仕方ちょっと怖い』


「怖ない!」


『ちょっと圧はあるね』


 倉持美羅李が静かに言う。


「倉持さんまでそういうこと言うんや」


『本当のことだから』


「静かに刺してくるな……」


 白銀が少しだけ唸る。


 湊はその会話を聞きながら、スマホを見た。


 グループチャットには、すでに大量のメッセージが並んでいる。


誰が何を持つか

食材どうするか

テントかコテージか

夜何するか

どこ集合か


 なのに。


 話の中心が妙にそこじゃない。


『で、部屋どうするの?』


 七海が投げた一言で、空気がまた少し変わる。


「部屋?」


『コテージでもテントでも、寝る場所の話』


『そこはちゃんと決めないとでしょ』


 正論だ。


 でも、その正論の中に少しだけ余計なものが混ざっているのも分かる。


「普通に男女で分けるんちゃうん?」


 白銀が言う。


「それが一番平和だろ」


 土井が続けた。


「……」


「……」


「何その間」


 土井が少し笑う。


「今の間、ちょっと怖かったんだけど」


 白銀が先に言う。


「うちは別にそれでええで」


『私も別に』


 七海が続く。


『私も大丈夫』


 美羅李も言う。


「……」


「……」


「お前ら、“どこでもいい”の圧すごいんだけど」


 土井が真顔で言った。


 湊は小さく息を吐く。


 絶対来る話題だとは思っていた。

 でも、通話始まって十分で来るとは思わなかった。


「まあ、そこは普通にやろうよ」


 湊が言う。


「それが一番面倒ないし」


『それはそう』


 七海が言う。


「普通に分けるのが一番や」


 白銀も頷く。


「じゃあその話は終わりでええやろ」


 その言い方が若干早口なのを、たぶん全員が聞いていた。


『白銀さん、今ちょっと焦ってない?』


 七海が言う。


「焦ってへん!」


『早いなあ』


「福原さんほんまうるさい!」


 通話の向こうで土井がまた笑った。


「もうこの時点で、だいぶ面倒なんだけど」


「誰のせいやと思ってるん」


 白銀が言う。


「中心やん」


「いや、俺は発案しただけだって」


 土井は即座に返す。


「ここまで膨らませたのは別の力だろ」


『それは否定できないかもね』


 七海が言う。


『特に白銀さん』


「何でうちだけやねん!」


 でも、その反応の速さが余計に白銀らしくて、湊は少しだけ笑ってしまった。


     ◇


 結局その日の通話は、一時間以上続いた。


 決まったことは多い。


土井が親戚の車を借りられる

朝集合で出発

コテージ泊

買い出しは現地近くのスーパー

バーベキューあり

二日目は川遊びと散策


 ただし、決まったこと以上に残ったものもあった。


 白銀の反応の速さ。

 七海の余裕。

 美羅李の静かな熱。

 そして土井の、全部見えている感じ。


 通話が終わったあと。


 湊は机の前でスマホを置いて、小さく息を吐いた。


「……」


「……疲れた」


 その瞬間、スマホがまた震える。


 土井だった。


『今ちょっと通話できる?』


 湊は少しだけ目を細める。


『できる』


 と返す。


 すぐに着信。


「もしもし」


「おう」


 土井の声は、さっきのグループ通話のときより少し低かった。


「なあ」


「何」


「お前、今どこまで分かってる?」


 直球だった。


「何の話」


「全部の話だ」


 土井は小さく笑う。


「白銀さん、七海さん、美羅李さん」


「三人とも、だいぶ来てるだろ」


 湊は少しだけ黙る。


 花火大会。

 白銀の変化。

 七海のキス。

 美羅李の言葉。


 見えていないわけではない。


「……前よりは」


「前よりは、な」


 土井は少しだけ息を吐く。


「別に答え出せとは言わないけど」


「ちゃんと見ろよ」


 その言い方は冗談っぽくなかった。


 だから湊も、すぐには軽口で返せない。


「キャンプなんて二泊三日だぞ」


「逃げ場ないからな」


「言い方」


「事実だろ」


 でも、事実だった。


 五人で二泊三日。

 近い距離。

 長い時間。

 夜もある。


 何も起きないほうがおかしいのかもしれない。


「まあ」


 土井が少しだけ明るい声に戻る。


「俺は普通に楽しみだけどな」


「どっちだよ」


「半分本音、半分怖いもの見たさ」


「最低だな」


「お前にだけは言われたくない」


 通話を切ったあと、湊はしばらくスマホを見ていた。


 キャンプは、たぶん普通には終わらない。


 それだけは、さすがにもう分かり始めていた。

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