表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
関西弁の銀髪ハーフ美少女が俺を照れさせたいらしいが照れてるのはいつもキミだ  作者: 夜天 颯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/43

13.思い出せなくてもいいよ。――もう一回、好きにさせるから

土曜日。


 六月の空は薄く曇っていて、日差しはやわらかい。


 梅雨の合間らしい天気だった。


 俺――桐谷湊は、駅前の時計台の下でスマホを見ていた。


 時間は、十一時ちょうど。


 画面にはメッセージ。


『遅れたら怒るから』


 短い一文。


 昨日のやり取りを思い出しながら、少しだけ息を吐く。


 倉持美羅李。


 同じ高校に通っていて、俺のことを知っているらしい女子。


 そして、おそらく――幼馴染。


 でも、それがまだ“確信”になっていない。


「……」


「悩んでる顔」


 声がした。


 顔を上げる。


 そこに、美羅李がいた。


 白いブラウスに薄いカーディガン。黒髪とメガネがよく似合っていて、落ち着いた雰囲気は学校で見たときと変わらない。


「待った?」


「今来たところ」


「その言い方、信用していいの?」


「たぶん」


「たぶんなんだ」


 少しだけ笑う。


「行こっか」


「うん」


 並んで歩き出す。


 少しだけ、間が空く。


 でもそれは気まずいというより、“何かが始まる前の間”だった。


     ◇


「それで」


 駅前の通りを歩きながら、美羅李が言う。


「どこまで思い出した?」


「少しだけ」


「どこ」


「遊園地」


 美羅李の目が、ほんの少しだけ揺れた。


「……ほんとに?」


「たぶん」


「たぶん多いね」


「まだ断片だけ」


「それでもいい」


 美羅李は少しだけ優しく笑う。


「ちゃんと進んでるから」


「……」


「ヒント出す?」


「いいの」


「全部は出さないけど」


「それは分かってる」


「意地悪だから」


「自覚あるんだ」


「ある」


 軽く言い切る。


 でもそのあと、少しだけ視線を逸らした。


「全部一気に思い出されたら、もったいないし」


「何が」


「今」


 その言い方に、少しだけ引っかかる。


     ◇


 本屋に入る。


 人は多いけど、奥のほうは静かだった。


 美羅李は迷いなく児童書コーナーへ向かう。


 その動きに、妙な既視感があった。


「ここ、覚えてる?」


 一冊の本を差し出される。


 古いシリーズの冒険小説。


 表紙を見た瞬間、何かが引っかかった。


「あ……」


「何かある?」


「読んだことある」


「誰と?」


 そこまで言われると、曖昧になる。


「そこまでは」


「そっか」


 責めるでもなく、ただ頷く。


「でも、いいよ」


「一個でも思い出したなら」


 その言い方がやけに優しかった。


     ◇


 本屋を出て、モールを歩く。


 昼前で、人が増えてきていた。


「昔さ」


 美羅李がぽつりと言う。


「湊、選ぶの遅かったよね」


「何の」


「お菓子とか」


「今もそうだけど」


「変わってない」


 少しだけ笑う。


「遊園地で、ずっと悩んでた」


 その言葉で、また少し記憶が動く。


 暑い日。


 並ぶ列。


 横にいた、小さな女の子。


「……あれ」


 思わず足が止まる。


「どうしたの」


「白い帽子」


「うん」


「泣きそうな顔」


「……うん」


 美羅李の声が少しだけ小さくなる。


「あと」


「名前」


「……」


「呼んでた気がする」


「誰の?」


「……みはり」


 言った瞬間。


 空気が、少しだけ変わった。


 美羅李が、静かに息を吸う。


「それ」


「ちゃんと呼んでた」


「……」


「思い出した?」


「……少し」


「そっか」


 その一言だけだった。


 でも、十分だった。


     ◇


 フードコート。


 少し離れた席に座る。


「……ごめん」


 自然に出た言葉だった。


「何が」


「気づかなかったこと」


「いいよ」


 即答だった。


「ちょっとだけ寂しかったけど」


「……」


「でも、それも含めていいかなって思った」


「なんで」


「もう一回できるから」


「何を」


「最初から」


 その言い方が、やけに静かで、強かった。


「思い出せなくてもいいよ」


 美羅李は、まっすぐこっちを見る。


「――もう一回、好きにさせるから」


 一瞬、言葉が出なかった。


「それは」


「困る?」


「いや」


 困るというより、準備がなかった。


「昔ね」


 美羅李は少しだけ視線を落とす。


「湊、言ったんだよ」


「何を」


「“美羅李って名前、きれいだよな”って」


 その瞬間。


 はっきりと、思い出した。


 夕方の公園。


 ブランコ。


 少し泣いたあと。


「……言った」


「うん」


「覚えてる」


「ずっと」


 その言葉が、軽くなかった。


     ◇


 食事を終えて、モールを歩く。


 さっきよりも、距離が自然だった。


 完全に思い出したわけじゃない。


 でも、“知らない人”ではなくなっていた。


「同じ高校だって、最近知ったの?」


「うん」


「春くらい」


「なんで声かけなかったの」


「すぐは無理だった」


「なんで」


「緊張したから」


 あっさり言う。


「十年ぶりだよ」


「……」


「湊は普通だったけど」


「普通?」


「うん。いつも通りだった」


 少しだけ笑う。


「それ見て、ちょっと安心した」


「何に」


「変わってないなって」


     ◇


 夕方。


 駅前に戻る。


「なあ湊」


「何」


「月曜、普通に話しかけてもいい?」


「いいけど」


「よかった」


 一歩、近づく。


 距離が少しだけ縮まる。


「あと一個だけ」


「何」


 少しだけ間。


 それから、美羅李はさらっと言った。


「あの子、分かりやすいね」


「……」


「……」


「誰のこと」


「さあ」


 わざとらしく目を逸らす。


「でも」


「何」


「可愛いと思うよ」


 その言い方が、妙に意味深だった。


「何が言いたいの」


「別に」


「ただの感想」


 でも、その“ただの”が全然ただじゃない。


「じゃあね、湊」


「ああ」


「また月曜」


 手を振る。


 美羅李も、小さく振り返した。


     ◇


 一人になって、少しだけ息を吐く。


 十年ぶりの再会。


 思い出した記憶。


 思い出せていない時間。


 そして最後の一言。


「あの子、分かりやすいね」


 あれは、たぶん。


 気づいている。


 全部。


 月曜。


 確実に、何かが動く。


 そう思いながら、俺はゆっくりと駅を離れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ