第18話 喪失
落ちる。
熱。
肋の奥で、
異物が燃える。
肺が拒む。
息が入らない。
――違う。
これは、
貫かれたのではない。
内側で、
何かが引いている。
裂け目の奥。
閉じたはずの経路が、
開いている。
そこから、
止まらない。
私が、
薄くなる。
形が保てない。
思考が、
続かない。
削られていく。
残らない。
――遅い。
地面。
間に合わない。
それでも――
触れる。
光。
金。
外からではない。
内側から、
引き出される。
私ではない。
経路が掴む。
即座に。
容赦なく。
取る。
流れが、
変わる。
引かれるのではない。
流れ込む先が、
反転する。
削るものが、
支えるものに変わる。
同じ道を通って。
意味だけが違う。
――広がる。
境界が張られる。
押し返すのではない。
そこに、
在る。
薄い膜。
だが、
破れない。
銃声。
光に触れる。
そこで止まる。
貫通しない。
弾が、
弾かれる。
落ちる。
音が、
遅れて届く。
重さが、
消えている。
――内側。
乱れていた流れが、
揃う。
削られていた部分が、
埋まる。
継ぎ足されるのではない。
整えられていく。
無理はない。
ただ、
崩れない。
呼吸が戻る。
静かに、深く。
痛みは、
消えていない。
だが、
広がらない。
分散している。
一箇所に、
留まらない。
触れている。
外から。
包まれている。
圧ではない。
押さえつけでもない。
ただ、
在ることを許されている。
――視界。
戻る。
輪郭が定まる。
光の中。
顔がある。
近い。
目だけが、
こちらを見ている。
離れていない。
指が、
食い込んでいる。
布越しに、
震えが伝わる。
――安定。
維持されている。
漏れない。
引かれない。
流れは閉じている。
整っている。
乱れていない。
思考が繋がる。
一つずつ。
連続する。
私は――
在る。
その認識が、
途切れない。
――音。
鋭い。近い。
割れる。
一拍。
理解が、
追いつかない。
――金。
境界が消える。
光が落ちる。
温度が抜ける。
廊下が戻る。
冷たい。
音が戻る。
警報。
遠く。
重い。
――落ちたもの。
床。
反射。
金。
欠片。
形が違う。
戻らない。
手が動く。
頭へ。
触れる。
――ない。
あったはずの重みが、
ない。
指が、
空をなぞる。
もう一度。
確認する。
ない。
視線が落ちる。
掌。
そこに在る。
破片。
欠けている。
繋がらない。
形を保っていない。
理解が、
追いつく。
遅れて。
確定する。
――砕けた。
後ろ。
呼吸。
近い。
荒い。
布を掴む力。
弱まらない。
離れない。
温度がある。
震えがある。
ここに在るもの。
失われていないもの。
そして――
もう在らないもの。
指が閉じる。
残ったものを、
握る。
第18話「喪失」。
間に合ったのは、身体だけ。
間に合わなかったものが、
床に落ちています。
金が砕ける音だけが、
まだ残っている。
次回、第19話。
日曜日20:10頃、更新予定です。




