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19・とある使用人目線の聖女のはなし

とある国の首都にある中央教会には聖女がいる。

聖女には神官見習いの世話役がついており、ここにいる短髪に青髪の少年、カフもそうだった。

カフは理知的な青い左眼と珍しい透明の右目に少し厚めの丸い眼鏡をかけていた。


カフが聖女の部屋を掃除していると聖女の部屋のドアが乱暴に開いてどたどたと足音をさせながら一人の少女が入ってきた。

その少女はカフが仕える主で、入ってきた少女に少年はお疲れ様ですと一言、お辞儀をする。

少女は今日の修行を終えたところだった。


「あー!!ホンットクソつまんないわ!」


ベッドに倒れ込むように横になったカフの主は、ピンク色の目が特徴的な聖女と呼ばれる少女だった。


「どうせならゲーム開始から記憶が戻れば良かったのに!子供のころに転生するなんてツイてないわ!攻略対象がいなきゃつまんないじゃない!」


ゲームがどうとか攻略対象がどうとか、少女はそんなことばかり口走っている。

あの方に頼まれ無ければこんなうるさい主などの側にはいない。

カフはそんなことを考えながらため息をついた。


「ねえ、カフ?」


「なんでしょう」


にこにこしながら話しかけてくる少女に、カフはなんとなく何を言うかは察していた。

こういうときは大抵碌でも無いお願いだからだ。


「明日は予定全部すっぽかせないかしら?ウインドーショッピングしたぁい」


甘えた声でお願いしてくる少女にカフは一言、ダメですと言い切った。

ういんどーしょっぴんぐ、というのはよく分からないが、今までの経験からして街に出たいという話だろう。


「聖女は魔法学園に入学するまでは聖女としての勉強と修行をする習わしです。入学直前の時期には巡礼もありますから魔法学園に入るまで我慢してください」


魔法学園に入るまで、つまり15歳までは聖女といえど他の貴族同様魔法が使えない為安全を考慮して外出は一週間前申請の許可性だし、護衛も必要だ。

でも、逆にそれは15歳になり魔法学園に入れば自分の時間は今よりあるし、街に出るのも自由ということを示していたのだが、少女は不満気に頬を膨らませた。


「貴方ってホンット堅いのね。良いのは顔だけだわ」


主が言う通り、カフの眼鏡の下の顔は美少年と言って差し支えないほどに整っている。


「ホントにモブなのかしらってくらい。3作目でも出てたのかしら」


「主の言うことは全く理解できません」


「して貰おうなんて思ってないわ」


冷たい態度を取られて気を悪くした少女は枕を抱きしめてゴロンと転がった。


「まだ一年もあるのよ。あと一年すればアタシが主役の素敵な物語が始まるのに長いわ」


「素敵な物語、ですか」


正直この少女が言うことは全くカフには理解が出来なかった。

聖女だと周りにちやほやされ可愛がられ、それでも尚彼女は何を求めているのか?

その素敵な物語とはどんなものなのか?


カフはずっと昔に路地裏で兄弟と転がっていた時のことを考えていた。

産まれから恵まれなかった自分と産まれから恵まれている聖女……、勉強だって修行だって期待されているからでしたくてもできない人はたくさんいる。それを面倒だつまらないと愚痴る聖女は正直わがままにしか見えない。


聖女というのは貞淑で清らかで優しいという話だったがこの少女に限っては違ったようだ。

接するうちに限りなくわがままで欲深くめんどくさい女だとカフは思っていた。


「どの男もアタシに媚びへつらうのよ」


こういうところとか。


「どうでも良いですが、大神官様の不興を買うようなことはしないで下さい。僕が迷惑です」


カフは淡々とそう口にした。

いつも困ります、迷惑です、嫌ですとか言う割にはカフの表情はいつも同じ無表情で分かりづらい。

少女は感情がないプログラムのような少年だといつも思っていた。


「別に外ではちゃんとしてるでしょ。ゲームに影響出たら嫌だもの」


カフはよく分からないが、そのげーむが彼女のモチベーションになってるなら別に良いか、と思う。

確かに少女の猫被りは極めていて、ちょっとやそっとでは大丈夫だろうというのはよく分かった。


「そういえば、カフは白銀の髪で赤目の貴族の子息を知ってる?公子って呼ばれてたから貴族なのは確か」


「白銀の髪で赤目の貴族…、有名な方だと、ユレイナス公爵家のリギル様でしょうか」


「リギル!」


カフの言葉に少女はなるほど〜!と納得した様子を見せる。


「二作目のヒロインの兄ね。ふーん、あんなにイケメンだったんだ」


「どこでお見かけしたんですか?」


カフが問うと、少女はべつにーと目を逸らした。

きっと街だろう。

カフが非番の日はシスター見習いの少女が聖女の世話をしている。

基本交代制なのだ。

シスター見習いは聖女に傾倒していてすこぶる甘いため、うまいこと聖女に絆されて街へ下りる手伝いをしてしまう。

まだ14歳で光魔法も使えない聖女が一人で街に出るなんてバレたら騒ぎになるし危険なのにだ。


この間に聖女が風邪で修行を休むと言って2、3日休んだ時があったからその間だろう。

カフはシスター見習いはよく言い聞かせないといけないな、と考えた。


「あまり無茶なことはしないようお願いします」


「毎日同じことでつまんないんだもの〜」


この返事では反省もしてないしお願いを聞く気もない。

聖女にしては奔放すぎるので淑女教育もしてはいるが学園に入って大丈夫なのかとカフは心配になってきた。


「大丈夫よ。アタシはヒロインだから全部上手くいくの」


ひろいん、はカフには分からないが、とにかく彼女には謎に自信があるらしい。

これに関しては本当に昔からで自分に関して絶対的な自信を持っているようなのだ。

容姿、才能、そして愛されることに彼女は自信がある。

誰もが自分を愛して信仰しているのだと信じて疑わない。


聖女だと持ち上げられてきた過去が彼女の人格に多大な影響を及ぼしてしまったようだ。


まあ、それでもカフには関係のないことだった。


淡々と聖女の世話をして、あの方の為に仕事をこなし、聖女を見届ける。

それがカフの目標でやらなきゃならないことだ。


心配は心配ではあるが、長く一緒に過ごした故の僅かな感情移入であり、心配でも後のことは知らない。


「カフ、お茶ちょうだい」


「かしこまりました」


こうやって淡々と日々を終える。


この聖女…、アンカの行く先がどうなるか、辿り着く先を見届けるまでは。


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