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20・ヴェラを守るために

僕が父様の執務室にユピテルと呼び出されてきていたのは約束の半月後になったからに他ならない。

執務室は(扉が閉まってれば)防音がしっかりしているため重要な話をするにはうってつけだ。

執務室内にあるソファーには母様も座っていた。


「それでリギル、話とは?」


執務机についていた父様が机の前に立っている僕たちを真剣な面持ちで見つめた。

父の言葉に促すようにユピテルを見る。


「僭越ながら、私から申し上げさせていただきます」


ユピテルが頭を下げると父様は分かったと頷く。


「ヴェラ様についてのことなのですが」


「ヴェラかい?」


「はい、ですが私は専門家ではないので予測にしか過ぎませんがその事をまず念頭に置いてお聞きください」


ユピテルがそう言うと父様も母様も頷いた。


「ヴェラ様は魔力枯渇症かもしれません」


「ヴェラが…魔力枯渇症…?」


「ええ、可能性は高いかと」


「父様、ヴェラの側でコップに魔法で水を入れようとした際、魔法が使えませんでした」


あれから一度ちゃんと裏付けのためにこっそり試してみてこれは確実にそうだと言えることになった。

ヴェラの側だと本当に魔法が使えない。


「…、もしそうならまずいな」


貴族である父様にはこの事態の深刻さが分かったようだった。

病気自体は命に関わる事ではないけど、間接的にはどうなるかわからない。


「ユピテルがそう判断した理由は?」


「ヴェラ様の近くで魔法が使えないことくらいしか裏付けはないですが…、他に思い当たる事はないですから」


父様はそうか、と答えると少し考え込んでしまった。

僕は手をギュッと強く握りしめる。


「とりあえず信頼できる場所で検査するべきだが…、まずはこのことは二人は誰にも口外しないこと」


「はい」


「もちろんでございます」


「ヴェラにはこちらでキチンと話そう。絶対に口外しない専門家を探してみるが、とりあえずヴェラにはしっかり話して本人には気をつけさせるしかないな。あとは、まあヴェラの入学までは幸い時間がある。それまでに何とかなればいいが……」


父様が僕の顔をじっと見た。


「リギル、そんな顔をするんじゃない。心配なのは分かるが、病気を理由に他の貴族たちにヴェラを利用されるような事は絶対させない。大丈夫だから任せてくれ」


「え………」


僕がそんなに不安そうな顔をしていたのか。

父様は僕にそう言うと優しく笑って、席を立った。

乱暴に僕の頭をわしわし撫でるとわ、わ、と情けなく声を出す僕を見て今度は優しく抱きしめた。


「不安だったろう。よく頼ってくれた」


どうしていいのか分からなくなった。


僅かでも、微分子レベルでも、疑っていた自分が恥ずかしいくらいに父様の言葉は真っ直ぐで、暖かった。

いつのまにか母様も来て父様と一緒に僕を抱きしめている。


「ヴェラの、ことは、家族の問題ですから…」


一人でなんとかしていたくせによく言うよ、なんて自分で思う。

ユピテルに言われなければ一人で抱えていただろう。


「ヴェラのことじゃなくても気軽に頼めば良い、無下にはしないし、一緒に悩む。家族だからな」


優しく諭すように父様がそう言うと、すっと胸が軽くなったような気がして、ああ、これがユピテルの言ってた嫌な物は分けて食べるってことか、と思った。


両親の腕の隙間からユピテルを見ると、ユピテルは微笑んでいるようだった。






「だから言ったでしょう?」


部屋に戻るとそう言ったユピテルはドヤ顔をしていた。


「…、そうだな、ユピテルの言う通りだった」


僕の心情を感じ取って慰めてくれた両親。


頼れと言ってくれたし、ヴェラのことを真剣に受け止めて考えてくれた。

他の貴族に利用させるなんて絶対ないと言い切ってくれた。


ユピテルの言う通りあの人たちは親の無償の愛を持っている人たちだった。

ヴェラと僕のことを一番に考えて行動してくれる。

うまくヴェラの病気を利用することより、ヴェラのためにヴェラの病気を隠すことを考えてくれる。


僕たちはちゃんと愛されている。


不安になることも疑うことも全くいらなかった。

ユピテルを通さないで僕が僕の意見で進言してもきっと真面目に捉えて解決策を考えてくれただろう。


「ありがとう、ユピテル」


ユピテルをまっすぐ見つめる。

あんなに励まして貰ったのにお礼を言っていなかったから。


「…、いえ、貴方はここで壊れては勿体ないですからね」


「なにそれ」


「緊張して疲れたでしょう。ハーブティーでも淹れますよ。すぐお持ちします」


ユピテルはそう言ってお茶を淹れに行く。


一時部屋に一人になった僕は椅子に腰掛けて窓から空を見上げた。


ふと、足元ばかり見ていた気がするなと思った。


足元を踏み外さないか、障害物はないか、僕はずっと気にして歩いていたんだろう。

下ばかり気にして、下ばかり見て視野が狭くなって、空が広いと忘れていた。


道が拓けたような気がする。


父様と母様と、ヴェラと、家族で幸せになる未来はきっともう遠くない。


問題が解決したわけではない。


ヴェラの病気は治さないといけないし、両親が事故に遭う可能性だってまだある。

でもヴェラのことは進展したから、きっと大丈夫だ。

一人で解決しようとしないでみんなで立ち向かえばいい。


両親のことより先にアトリアと友達になった以上、来年からの第1作目『昏き星の救世主』の事がらにも巻き込まれることになるだろう。


「あの聖女…、いや」


転生者かもしれない。


一瞬よぎった可能性に首を振った。

転生者ならパレードでつまらなそうに無表情だったのもなんとなくわかる気がするからだ。


聖女が転生者ならお互いの知識を共有して様々な事でヒントが得られるかもしれない。

そうなればいいけど、理想だ。

最悪の場合も考えないといけない…聖女と協力出来なかった場合、聖女がむしろ敵になる可能性がある場合…。


「僕がなんとかしなきゃ…」


いや、それじゃこれまでと一緒だ。違う…。

リオにもアトリアにも協力してもらってきっといい方向に向くよう相談すべきだ。


2人とも優しいからきっとその時は笑って受け入れてくれるはず、そう信じることにした。









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