一 メイド服の丈小咄(おまけ)
──虎丸の知らない、その後の小咄。
着替えもあって、紅は最後まで部屋に残っていた。茜が着ていたロングスカートを眺め、ぼそっとつぶやく。
「なんだ……。これ、茜の背丈に合わせてたのか。じゃ、おれには長すぎて当たり前だよなぁ」
想い人の八雲がロングがいいと言うならば、着てみたかったのが乙女心。
はあ、とため息を吐いて衝立の奥から出る。メイド服を元あった場所に掛けていると、誰もいないと思っていた室内で声がした。
「紅、着替え終わったのですか」
「わっ、びっくりした。八雲ぶちょー、まだいたの!?」
「皆がまとめてがやがやと解散したので、乗り遅れました」
「そっか。そろそろお昼だから、早く食堂に──」
「言い忘れてましたが、似合っていましたよ。あなたには短い丈が健康的で可愛いと思います」
娘の小さな頭をぽんと叩いて、青年作家は先に衣装室を出て行った。
「オゥララ、なんてことだ……」
耳まで真っ赤に染めて固まっている紅を見守るのは、仲間内でもとくに目敏いふたり。
十里と茜が廊下に張りついて聞き耳を立て、一部始終を目撃していた。
「紅の周囲にハァトが舞ってるのが見える……。せっかく虎丸くんの株が少しばかり上がったのに、最後の最後で八雲部長にぜんぶ持ってかれちゃったよ~」
「あらあら。八雲さんはそういうとこあるわよね」
「そうなんだよ。わざとじゃないんだろうけれど、そういうとこあるんだよ~。伊志川化鳥時代は、何人もの女の人の家を渡り歩く住所不定のジゴロで有名だったからねぇ」
「それはちょっと知りたくなかったわ……」
「まあ、虎丸くんの好感度に関しては下がらなかっただけ良しとしよう。それよりさ~、きみはいいのかい?」
十里が暗に示しているのは、『おみつに言ってあげなくていいのか』という意味だ。
これから昼食の準備がある茜は少し迷っていたが、たった一言で姉の紅があれほど嬉しそうにしている姿を見たためか、意を決したように長いつけ毛を外した。
「……ちょっとだけ男の恰好に着替えてくる」
「うん、行っておいで」
次話は男だらけの執事服編──
ではなく、アンナが主役である。




