第6話 戦場の天使は翼をもがれる
ノイグリア帝国軍から逃げて数日後、私はまだ戦場から離れられずにいました。
私は隠れ家である洞窟の中で休憩し、捕まえた川魚を木の枝に刺して焼く。炎がパチパチと音を立て、魚の皮が焦げる匂いが漂う。私はじっくりと焼きながら、胸の奥でため息をつきました。
「でも……私がいることで戦争が長引いてしまうのなら、いっそのこと……」
焼き上がった魚を口に運び、パリパリの皮を噛む。苦くてしょっぱい味が広がり、私は目を細めそうになった。
「戦争を終わらせたいのは……私だって……」
争いを見たい訳ではない。でも戦場にいる。争いを続けたい訳でもない。でも、兵を治療する。私は…………何を間違えているのだろうか。
「でも……今の私には何もできない。怪我を治すだけ」
私は木の実の殻を剥きながら、杖を握る手に力を込める。天使としての役目を果たさなければ、という思いと、現実の重さが交互に胸をよぎる。
「さて……そろそろ戦場を彷徨いますか……天使としての役目を果たすのです」
私は立ち上がり、杖を手に洞窟の外へ出た。冷たい夜風がローブを揺らし、髪が頰を叩く。
遠くから複数の足音が近づいてきたので、私は素早く木陰に身を隠し、息を殺す。
「まだこの辺りにいるはずだ!! 探せ!!」
「必ずこの近くにいる! 帝国につく前に捕らえるぞ!!」
「あの悪魔は生かして帰すな!!」
王国軍の兵士たちのようですね。私は静かに距離を測り、彼らが通り過ぎるのを待ってから、別の隠れ家を探すことにしました。胸の奥が少し痛む。
その後、しばらくしてから移動して近くの平原にたどり着くと、そこは大きな戦場となっていました。
私は木々の間から様子をうかがい、戦地に足を踏み入れる。爆風と叫び声が体を震わせ、足元の草が血で濡れているのがわかる。人前に姿を現す。そこに負傷者がいるのだから。
「っ!! 天使だ!!」「悪魔が戦場に来たぞ!!」「あいつ何しにきやがった!」「邪魔ものが!!!!」「先に殺してやる!!!!!」「戦場を荒らす化け物が!!!!!!」
帝国軍兵士が剣を振り上げて斬りかかってくる。私は即座に防御結界を展開し、光の膜が剣を弾き返す。次の瞬間、火球まで飛んできましたが、私は結界の内側にその兵士を引き入れ、治癒魔法をかけた。掌から淡い緑の光が広がり、焼けた皮膚を優しく包み、痛みを和らげていく。
周囲に人が集まり、治療を終えた兵士は私を悍ましそうに見つめる。私は胸が締め付けられるのを感じながら、静かに光を収めます。
防御結界の持続時間が切れた。私は平原の中心に立ち、両手を広げて範囲治癒魔法を発動する。淡い光が両手から放射状に広がり、平原全体をゆっくりと包み込んでいく。光の粒子が傷を癒し、痛みを消していく感覚が、私の体を通り抜ける。
「な、なんだこの光は!!」「身体から痛みが消えた!?」「傷が……癒えていく」「これが戦場の悪魔……いや、天使か?」
光が消えると、両軍の負傷兵がすべて治癒されていた。
私の治療で元気になった王国軍の人たちは歓声を上げる。
「なんだあの範囲魔法は!?」「すごい……傷が治った」「これでまた戦える!」
私はその言葉を聞きながら、胸の奥が冷たくなるのを感じた。癒した命が、再び戦うために立ち上がる――その現実が、はっきりと目の前にあった。
私は平原の端まで歩き、振り返った。戦場は再び動き出し、叫び声と金属音が響き始める。
「人間を救いたい。苦しんでいる人を助けたい……その気持ちを、どこに向ければいいんでしょうか」
私は戦場を背に、ゆっくりと歩き出した。ローブの裾が血に染まった草を擦り、杖を握る手がわずかに震えた。私はこの日を境に、この戦場に姿を現すことはなくなった。
序章 完




