表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(貧乏)男爵令嬢エムリーヌ・ホルベインの結婚~ワケアリ伯爵様と結婚することになったのですが私もワケアリなので溺愛はいりません~   作者: 澳 加純 


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/82

64. わたくしの黄金色の月 ☆

最終回です!





 いつのまにか天空に上った月は、モリスの端正な顔に、深い影を作り出しておりました。


「ヨラ侯爵派の追求を撒くためです。

 幸か不幸かホルベイン家の知名度は高くありませんし、マチアス卿の顔も各方面に知られているわけでもありません。それを利用して名を変え、別人になっていただくのですが、疑い深い者が探りを入れて、ホルベイン家の行方を探そうとするかもしれません。足跡をたどられないように細工は致しますが、万が一の場合を考え、移動の途中で事故に遭って馬車が大破し、行方が分からなくなったことにしておきましょう。口裏を合わせてくださいね、エム。

 今回、尼僧(サァル)アイリスこと元カステ領主ミロリー将軍の後妻が持っていた毒薬という重要な証拠品が出たことと、ホルベイン男爵やあなたの証言で、ジョリイ伯爵はレンブラント侯爵暗殺未遂事件の犯行が証明されました。ただ彼は主犯ではありませんし、ジョリイ伯爵の寄親としてヨラ侯爵にも嫌疑が掛かっているのです。かの侯爵家への風当たりが強くなるのは、目に見えています」


 なるほど。後ろに隠れて操っている奴をあぶり出したいのかぁ。養父上とモリスは、主犯まで縄を掛けたいのね。『黒伯爵(現侯爵)』の面目躍如って感じになって来たわよ。


「そうなった場合ヨラ侯爵や近親の者たち、ヨラ侯爵派の貴族が、ホルベイン家に意趣返しをしようとすることも考えられるでしょう。あの場所に留まるのは、危険です。そういった世間の厳しい追及が止む頃までの辛抱です。逆恨みというのは、厄介ですからね。

 既にホルベイン卿とヨランダ夫人には、同意をいただいております。今頃パトリス殿にも、お父君が説明しているはずです」

 

「大丈夫でしょうか、まだ幼いパトリスに領主などという大任は」


 (わたくし)が不安を口にすると、


「誰でも最初は不慣れな初心者ですよ。後見人がいますから、そこはどうにでも」

「ですから!娘の私がこう申すのも憚られますが、あの父では……」

 

「確かに、それは酷い言い草ですね。ホルベイン卿とて、これまでホルベイン村を収めて来た立派な領主様でしょう」

「ホルベイン村はちいさな農村ですわ!街道が通る宿場町でもあるデイランとは比べ物にならないくらい規模が違います」


 あなたと地理の勉強をしておいて、よかったぁ~。的を得た反論ができますわね。

 すると、面白そうな顔をしたモリス。


「お忘れのようですが、カステの領主はわたしですよ。そんなに弟君のことがご心配なら、優秀な家令や使用人も手配いたしましょう。それにパトリス殿の実の姉上はガランダッシュ宰相の養女で、レンブラント侯爵夫人。ニネット王妃のお話相手でもある。若年とはいえそんな後ろ盾のいる領主においそれとちょっかいを出せる者が、このクレルフォンに存在()ると思いますか?」

「それ、私が宮廷勤めをして、あなたの妻になることが前提で成り立っていますよね?」

「やはり、わたしとの結婚はお嫌ですか?」


 あ!そういえばそんなこと言ったわね、私。ヤだわ、モリスったら、覚えていらっしゃたの。つい表情(かお)が険しいものになってしまう。


「ええ。しっかりと。

 ですから、もしエムがわたしとの結婚を厭っているのならば、あなたをトゥール子爵にするつもりだったんです。

 でも、止めました。エムには、なにがなんでも私の妻になっていただきます」


 そう言うと、モリスは私の身体を強引に引き寄せ、抱きしめてしまうのです。うっ、脱出不可能じゃん!


「あん、待って! だから、どうして私なのです?」

「いけませんか」

「どうして『クレルフォンの軍神』とも称えられる侯爵様が、貧乏男爵令嬢と結婚しようと思ったのですか?」


 なんでも父が関係しているみたいだけど……。訳わからん!納得できないわ!


「わたしは物心つく前に両親と別れ、陛下――当時は王太子殿下でしたが――の元に出仕()がってしまったので、家族の記憶がありません。そのあとすぐ父も、母も亡くなってしまったので、その後も親子関係というものを知らずに育ちました。ですから、家族や結婚というものに、理解も興味も無いまま成長したんです。

 ところが先だっての戦役の折、偶然ホルベイン卿にお会いして、道中をご一緒したのですが、卿はずっと家族の自慢をなさっていました。特に、親孝行な娘のことを」


 それ、私のこと?

 月明かりを背に、周囲のばらの花にも劣らない華やかさを纏った、妖精の王にも見まごうばかりのモリスがうなずきます。


「馬術と剣術が自慢の娘が、結婚をあきらめてタビロ辺境騎士団へ入団したのだとも」


 やだ~~、モリスったら、私が馬に乗れることちゃーんと知っていたんじゃない。なのに、馬術の稽古をしろですって。ひどいわ!


「貴婦人教育に辟易していらっしゃるご様子でしたから、気分転換にでもと」


 うんうん、そうでしたわ。

 あ!乗馬が得意なこと知っていたから、名馬(デヴィ)を贈ってくださったのね。


「でも、まさか、いきなり暴走するとは誰も考えていなくて。ナムーラ隊長も驚いておりましたよ」


 黒歴史ですから、それ以上は言わないでくださいませ。もう!


「不思議でした。ホルベイン卿がご家族の話をしているときは、とてもうれしそうで、周りの空気も暖かくなるのです。失礼ながら、そんなに良いものかとお尋ねしたら『伯爵も結婚して家族を持てばそう思う』と教えられました。卿に同行していた村人たちも、皆明るくて、卿を敬愛しているのですよ」

「あら、それはモリスだって……」

「少し違います。もっと和やかで居心地の良さがあって、慣れ慣れしさやエゴも見え隠れしているのに、それさえ包み込んで胸が温まる空気が流れていたのです。

 晩餐の際の、あなた方ご家族の醸し出す雰囲気を拝見していて『ああ、家族というのはこんな感じなのか』と羨ましく思いました」


 はぁん。なんとなく言わんとすることはわかりましてよ。でもモリスはレンブラント()()なのですから、部下や使用人との関係は、アットホームまで砕けない方がよろしいと思いますの。威厳が無くなります。


「これまで味わったことのない感触でした。さらに鍛冶屋の親父という方から『伯爵様(当時)もそんなに知りたいんなら、男爵のお嬢様と結婚すればいい』とも言われました」


 鍛冶屋のアンリ親方ね。なに無茶言ってんの~~~~! 上級貴族様相手に、無礼にもほどがあるでしょうがっ! 多分みんなぐでんぐでんに酔っぱらっていたはずよ。

 私の結婚を酒の肴にしたに違いないわ!


「ま、まさか、アンリ親方の言葉を真に受けたわけじゃ……。天下のレンブラント侯爵が……」

「さすがに、その時は」


 その頃王子宮で一緒に少年侍従をしていた仲間のひとりが結婚することになり、同朋との祝いの席にノリで、ついでにモリスもそろそろ結婚を――という話(もちろん冗談)になったそうです。

 けれどモリスの結婚祝いに陞爵なんて破格のプレゼントをしちゃう、サプライズ大好きの怪物(モンスター)プレゼンターの国王陛下がメンバーにいらっしゃたのだから、冗談では終わらなかったのでしょうね。不敬ながら、ウキウキワクワクで縁談話を進める陛下が想像できるわ。


 プラス。その話を王妃様が小耳に挟み、本気(マジ)顔でヨラ侯爵へ相談したらしいのね。そこからお相手候補に私の名が挙がったらしいのだけど、どういう経由で私の名が出てきたかなんて、ヨラ侯爵にでも確認しないとわからない。でも、しにくいでしょ。


「ある日突然、縁談がまとまったという話を陛下から伺ったのですが、どういう経緯なのかよりもホルベイン卿のご令嬢だと聞いて興味を持ち、つい承諾(OK)をしてしまいました。なにより陛下のご推薦ですから、縁談を断れる道理はありませんし、貴族の結婚など皆こんなものでしょうし」


 本当に興味が無かったのね。私もあなた(モリス)のことは非難できないけれど。


「しかしお顔も気質も知らぬままというのはあまりにもあなたに失礼かと思い、変装してタビロスの辺境騎士団の宿舎までお姿を拝見に伺わせていただきました」

「――っ!?」


 知らないわよ、私!!

 いつ来たのよ? モリスが来たんなら、かなり目立ったはずなのに! だって辺境(タビロス)に貴公子よ、掃き溜めに鶴――状態じゃない。それにキャンデル団長なら、『軍神』の顔は知っているはずよね。


「わからなかった――と。

 当たり前です。そのために変装して行ったのですから」


 わが良人は、結構、酔狂なお方だった。彼が普段派手に目立つお洒落しているのは、非常(こういう)時に人ごみに紛れるためなのか!?(マジで有り得るかも)


「その時、一目惚れしたのです。あなたの会心の一撃に!」

「――はぁ!?」

「ちょうど剣術の稽古の時間を見学することが出来ました。ギャレル・ダルシュに、鋭い突きをお見舞いする勇ましいあなたの姿に一目惚れしたのですよ」


 そ、それ、喜んでいいのかしら。うん、喜ぶところよ、ね。きっと。


「マスケット銃を構えるあなたの『鷹の目』も魅力的でした」


 え~っとぉ。元職業騎士としては、かわいいとか美しいとか言われるより嬉しいかもしれないけれど、なんか……なんなんだろう……素直に喜べないのは。

 ほらあ。後ろに付いてきたマルゴ(貴婦人はどこに行くにも、当然あいびきも、侍女同伴が鉄則なのよ!)も、こらえきれずに笑ってるじゃない。口説かれているのか、からかわれているのか。なんか、ビミョ~~な気分。


 モリスってば、どんな反応(アクション)を取っていいのか戸惑う私を見て、楽しんでいるのだから。むくれ顔をしていると彼の指が顎を持ち上げ、唇に優しい感触。

 同時に、もう片方の手でマルゴに下がって良いという合図を出していました。


「ここからは酔っ払いのたわ言だと、忘れてくださって結構ですよ。

 今宵の晩餐の席でも、そう思いました。家族とは暖かいものなのだと。わたしには家族で過ごした記憶はありませんからね。うらやましい限りです。だからエムも含めてホルベ……いえ、これからはティボー家の方々をお守りしたい」


 モリス、あなたはウチの家族を美化し過ぎです。火の車の内情とか、その他諸々問題あり!なのはナムーラ傭兵連隊の諜報部隊がバッチリ調べ上げてあるでしょうに。


「なによりご両親に愛され、家族の愛情に育まれた真っ直ぐなエムは、わたしには南ターレンヌの、初夏の涼しさをまとって爽やかに吹き抜ける風のように愛おしく感じています。

 わたしは幼い頃から王宮勤めで、ここレンブラント館に帰省することも滅多にありませんでしたが、一度だけ大病を患って病気療養のために長期帰省していた時期がありました。その頃にはすでに両親も亡くなっていたので、家に戻って来たといってもかえって寂しいばかりで。侍女や使用人たちは優しく大切に接してくれましたが、ホルベイン家の家族のように感情豊かにこちらの心情にまで踏み込んでは参りません。今思えば当然ですが、まるでわたしは腫れ物になった気分でした。

 季節が初夏に移り変わる頃、ようやく館の周辺を歩き回れるくらいには元気を取り戻したのです。が、ゆっくり初夏の景色を楽しむ前に陛下――当時は王太子殿下でしたが――からお手紙をいただき早急に王宮へと戻らねばならなくなりました。王都へ向かう馬車の中では王太子殿下のお召しが光栄で喜んでいたのですが、いざ王都へ着くと、今度は爽やかな南ターレンヌの初夏の風が恋しくなりました。だから今度は手放さないようにしようと考えるのは、いけませんか?」


 ズルいわ。ダメ!とは言えないじゃない。完璧な貴公子なのに、ヘンなところが好事家なんだからぁ。いろんな意味で泣けてくるわよ。


「ようやくエムの元に帰ってくることが出来たのです。明るすぎる月あかりも、少し邪魔ですね」


 まさか、月がモリスの声を聴いていたとは思えませんが、燦然と光っていた天上の黄金色の月は薄い雲の向こう側に隠れようとしているのです。

 偶然よね?


 ですが私にとっての黄金色(きん)の月はモリス・クリストフ・ジャン・マリー・レンブラントと云う名の、強くて勇敢で、時に大胆な。そして少々狡猾で意地悪なところも持ち合わせた、伊達で酔狂な妖精の王様のような方なのですのよ。

 


   挿絵(By みてみん)

 



 


「エムこん」にご来訪、ありがとうございます。


ようやくハッピーエンドで、終止符を付けることが出来ました。

振り返れば5年前、遥彼方様、長岡更紗様、相内充希様が合同で企画してくださった『共通恋愛プロット企画』に参加する形で始まったこの連載。途中何度もエタりそう&玉砕しそうになりながら、なんとか初志貫徹してハッピーエンドまで持ち込むことが出来ました。

元々のプロットは遥彼方様提供のものだったのですが、なにせプロットどおりに書けない加純さんのことですから、かなり改変しまくりで彼方様には申し訳ないほどなのですが、それでも最後まで書ききったことでお許しいただければ幸いです。大きな胸をお借りしまくりましたっ!

完結に至るまでの期間、短歌を詠みだしたり、絵を描くことだけは止められずそちらにばかり力を注いでいた時期もありました。昨年末に突然「エムこん」を3月末までに完結しようと思い立ち、運営様の企画にも便乗して毎週更新するとかいう無謀(誰もが認める遅筆なのに!)にも挑戦し、春先の不調にも悩まされつつ、ついにエンドマークまでたどり着きましたよ!!やればできるものですねぇ(←死にそうになったけど……)

実はまだ描きかけの挿し絵がいくつか残っておりまして(偏頭痛と腱鞘炎が暴れ出したので同時進行はできなくなった)、描き次第そちらも追加していく予定ではあります。

当初こんなに長い物語になるとは考えていませんでしたが、最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。


また、別の物語でお会い出来たらとてもうれしいです(^▽^)/

それでは、また。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
共通恋愛プロット企画 a6im8fdy9bt88cc85r5bj40wcgbw_slv_go_b4_24jw.png
― 新着の感想 ―
完結おめでとうございます。 今、自分がまた絶賛風邪ひき中で、文章がまとまらないのですが。とりあえず完結おめでとうございますだけでも先に言わせていただこうと思って来ました(笑)。 尼僧アイリス素敵キャラ…
完結おめでとうございます。 おそらくあと何話かで……と思い、感想書くのを待ってました。 ああ、終わってしまったか。 幕間劇をのぞけば徹頭徹尾、エムリーヌの視点で進行しましたね。 本当に卓越した筆力だ…
完結お疲れさまでした! 家族のことはウルトラCという感じですけど、バックに強力な方たちがいらっしゃるので、銅にでもなりそうですね。 黒幕も引きずり出せそうでよかったです! 変装の名人は騎士団時代のエム…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ