葉月(6)
深夜十一時、俺は部屋の窓から小さい屋根に飛び降りて、そこから地上に降りた。
さすがにこの時間から親に出かけますなんて言ったら怒られちゃうから、バレないようにしたかった。
幸いにも、親はお酒に酔って早く寝てるから、しばらく起きないと思う。
ひとりで暗い田舎の夜道を歩いて、山の公園まで行く。この町に山の公園って呼ばれる場所は一箇所しかないからすぐ分かった。なんでも、人気が少ないで有名らしい。
公園に着くと、ジャングルジムの上に誰か座っていた。街灯の逆光で顔はよく見えないけど、緑髪の少し長い髪を結ってあるのをみた感じ
「神崎……雷斗?」
そう言うと、彼は立ち上がって
「よぉ守護者。ちゃんと会話するのは初めてか。名前を知ってる辺りから見て、華代かひなみから話を少し聞いてるんだろ」
そう言った。
「うん。華代とひなみからあなたのことを聞いたことがある」
「あぁそうか。まぁ、正直そんなのはどうだっていいんだが」
そう言うと、雷斗は鞘から短刀を抜いた。本来短刀であるそれは、途中で青く光りはじめて、普通の長さの刀になった。
「俺はお前が気に食わねぇ。お前が守護者であることが特に気に入らねぇ。まともに誰かを守れないようなやつに、守護者なんか務まらねぇよ」
守護者なんか務まらない……それも間違ってないと思う。現に、この間のひなみも、花火大会のときの華代も。守りたくても上手く守れなかった。
「……それでも」
「あ?」
「それでも、俺には守らないといけない人ができた。守りたい人が出来た。だから俺は守護者の役目を果たすよ。何を言われてもそれだけは変える気はない……!」
上手く守れなかったからって諦めたくなかった。今度こそ、ちゃんと守りたいって心から思った。守護者としてというよりも、大切だと思った友達くらい、守りたかった。
「はぁ……綺麗事抜かすなや。だったら証明しろよ。俺より強えってこと、守護者に相応しいってことをなぁ!!」
そう言うと雷斗はジャングルジムから刀をこちらに向けて飛び降りて来た。それをとっさに避ける。本当は戦いたいわけじゃない。けど、俺はリストバンドを銃に変えて、銃口を雷斗に向けた。
放った弾丸は軽々と避けられて距離を詰めて来る。
「んなもん当たらねぇよ」
刀が俺の左腕を掠った。めっちゃくちゃ痛いけど、不思議と切れてる感じはない。血も出ていない。
「刀なのに……?」
「そりゃどーも悪かったね。じゃあ切ってやるよ」
気がついた時には雷斗は俺の背後にいた。
「いつの間いっ!?」
言い終わる前に自分の頬に鋭い痛みがした。そしてすぐ、生あたたかいものが溢れるのが分かった。今度は切れてる。
俺が振り返ると同時に撃った弾は、雷斗の横髪辺りを過ぎ去って行ったのを見た。
銃と刀ならこっちの方が有利なはずなのに、連射出来ないところと、雷斗の動きが早いことから、どうしてもこちらが不利だった。
リロードの時間を稼ぐために物陰に隠れる。暗さで視界が悪いのは同じ条件だと思う。
この状況でずっと戦ってたら俺が負けるのは目に見えてる。なにか、策を考えないといけなかった。
この公園はあまり広くない。どちらかが動けば足音が聞こえそうなのに、聞こえるのは虫の声くらい。つまり、雷斗も動いていないのだと思う。
ふわっと生ぬるい風がふく。あまり気持ち良くない。
それと同時に紙が飛んでいる音が聞こえた。
「裂!」
雷斗の声がしたすぐ後、背後で爆発音がした。爆風がすごい今なら、動いてもバレはしない。しかも、後ろから爆発音がしたってことは、俺が今いる位置よりも後ろにいる可能性が高い。
こっちは銃だから、飛距離を考えて、あえて爆発と反対の方向に向かって走った。そこからフッと振り返って銃を撃とうとした時
「頭ねぇなお前」
腹辺りに刀が当たって吹っ飛んだ。口から空気が漏れる。どういう仕組みか分からないけど、血は出ていない。強く殴られたような感じだった。
少しよろけて立ち上がると近くには御札みたいなものが浮いていた。
「弱すぎるにも程があるぞ、クソザコが」
そう言ってすぐにまた
「裂!!」
と言った。爆風に吹っ飛ばされる。さすがに全身痛い。
でも、このまま負けて終わる訳にはいかない。雷斗とは話さないといけないこともあるし、なにより、守護者が務まると言うことを証明したい。
だから……
「っ!?」
銃を放った。声のようなものが聞こえた辺り、どこかしら痛い所に当たったのだと思う。その数秒後、カンっと音が聞こえたと思ったら、雷斗はジャングルジムに寄りかかっていた。見た感じ、弾丸がふくらはぎ辺りに当たったように見える。俺の弾も、血が出るような大怪我させるものではないみたい。
「なんだ、よめてたのかよ」
下を向きながら少し小声で呟いたのが聞こえた。表情はよく見えないけど、少し笑っているように見える
「なんとなく……ね」
そう答えると雷斗は顔を上げた。
……やっぱり笑っていた。
「クハハ、なんだよおもしれぇじゃねぇかよクソザコ野郎……!」
足を撃たれてるにも関わらず、ものすごい速さで距離を詰めてくる。刀で攻撃しようと見せかけて、御札を投げる動作が見えた。
サッと御札から遠ざかる。それでもまだ御札を投げてくる。それを避けるを繰り返した。避ける途中で弾を放つとそれは雷斗の肩を掠っていった。けどそれを気にせずずっと御札を投げる。
いくつの御札を避けたかわからない。リロードも完了してる頃だと思って、銃口を雷斗に向けると、彼は笑っていた。
「札に数の制限なんてねぇんだよ……つまりまぁ……」
「しまっ」「裂!!」
多方向からの爆風で吹っ飛ぶ俺をまた雷斗の刀が狙っていた。
「でも……俺も馬鹿じゃないからさ!」
空中で体勢を変えて刀を避ける。刀は腕を掠っていったけど、俺の撃った弾丸も、雷斗の頬を掠めていった。
吹っ飛んだ先に木があって、それにぶつかる。葉っぱがガサガサと揺れて、木に止まっていた蝉がジジっと鳴いて飛んで行った。留まると隙ができるから、痛い体を引きずるように移動する。
公園の遊具を横目に、街灯の下まで走る。それを見て雷斗は御札を投げて起爆させる。これはよめていたから早めに避けてジャングルジムに向かった。
カンカン音を立てて上り、あえて1番上に立った。
「何、バカにしてんの?」
そう言われた俺は、ただフッと笑った。それが気に食わなかったのか、表情を一変させてジャングルジム付近を爆発させた。ジャングルジムが大きく揺れて、俺は体勢を崩して落ちた。
それを雷斗が見過ごすわけがなく、近寄って来る音が聞こえる。……でもこれが俺の作戦だった。
落下地点辺りで刀を構える彼が動くはずもなく。そこに超至近距離で、銃弾を撃ち込む。綺麗なヘッドショットだったと思う。でも俺も、落下地点を変えることは出来なかったから、腹辺りにまた刀が突き刺さった。声が出ないくらいめっちゃめちゃ痛い。
それでも奥までしっかり刺さってる訳じゃなかったから、痛いのを我慢して刀を引い抜いた。そこから血が出ることはなかった。
ふと目をやると、雷斗は頭を抑えてよろめいていた。
「ぁぁ……これでも……」
何か言ってるけど、よく聞こえなかった。そして声が聞こえなくなったと思ったら、彼はバタッと倒れてしまった。
「……勝った?」
状況はよく理解できないけど、とりあえず勝ったみたい。あぁ、ひなみにお友達になれたら……って言われてたのに、気絶させちゃったんじゃそれどこじゃないよね。様子を確認しようと思って彼に近づこうとしたその時、暗闇の中から拍手が聞こえた。
「ずっと見させてもらってたよ。いやぁ、ジャングルジムを使うやつ、あれ作戦でしょ?よく考えたねぇ……」
大正時代っぽい和服を着た男性がこちらに向かって歩いて着た。大人に見える。
「……見てた?」
「あぁ失礼。君の目にかかるのは初めてだろう。僕は織田原雅之。ウチの雷斗が迷惑かけたね。」
ウチの、ということは雷斗のお兄ちゃん……? いやでも全然似てない。
「まぁあれだよ。僕もひなみと同じで妖怪なのさ。ひなみのこと見たあとだし、信じれないことはないだろ?」
「あぁ……まぁはい」
「呵呵、まぁいいさ。君は……まぁ全身傷だらけだけど、歩いて帰れそうだね。この近辺には人間の不審者は出ないから、安心して帰っていいよ」
雅之はそう言うと、雷斗を抱えた。
「まぁ、まさか気を失うレベルの負け方をするとは思ってなかったけど……雷斗には必要な経験だったかもしれんな」
そう言うと、こちらを少し見て、
「付き合ってくれてありがとうねぇ。気をつけて帰ってくれ」
そう言うと、彼らはまた闇の中に消えていった。
緊張の糸が解けたような感じがして、少しふらついてしまった。
公園の時計を見ると、深夜二時を過ぎていた。後日また話せたらいいんだけどなと思いながら、俺は公園を後にした。




