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33話 しょぼめの錬金術師

 右手に最強の剣を持ち。

 左手には特に何も持たず。

 嘘、ギンの紐持ってたわ。


 最強無敵のチート能力者の俺が今日も行く。


 とにかく何でもいい、なんか斬りたい。

 なんかすごく危ない人のようだがしょうがない。

 この最強の剣で何かを斬って斬って斬りまくってあわよくば「ありがとう抱いて!」して欲しい。


 さあ誰か俺に倒されたいものはいないのか。

 「わん!」

 あそこら辺にいるぞ。

 そう言うかの如くギンが何かを見つけたのか走っていく。


 よしなんだか分からないけど待ってろ俺の剣の錆。


 近づいていくと何かがすすり泣くような声が聞こえる。

 なんか怖い。新手の魔物だったら嫌だな。

 

 そうは思うがギンが走るのを止めないので引っ張られるように近づいてしまう。


 暗くて遠くからは分からなかったがそこに居たのは人間の女の子だ。

 そして近くにはぐったりした3匹の洞窟犬がいてそれを守るように座り込んでいる。

 具合が悪いのだろうかその犬達はかなり苦しそうにしている。

 少女の髪の色が銀色のためなんか洞窟犬の母親みたいだ。

 もしかして洞窟犬が人間化した姿なのかもしれないなんて馬鹿な事を考える。


 「わん。」

 ギンが案内は終えたとばかりにひと鳴きした。


 「・・・誰?」

 それで少女は気が付いたらしい。

 こちらを見るために顔を上げた瞬間、息をのんだ。

 こっちの世界の人は総じて堀が深く美形だがこの少女はそれに輪をかけて整った顔をしている。

 銀色の髪と真っ白な肌。少し切れ長な目には青い瞳があり、それがこちらをじっと見ている。

 なんかゾクゾクする。

 もし彼女が洞窟犬が変身した姿だとすれば、ギン早く変身するんだ。そしたらギンとわんわん。

 駄目だ。ギンはオスだった。それじゃ変身しても男の娘じゃん。


 「人?・・・・・・それにゴブリンが3匹。・・・もしかして噂のゴブリン使い?」


 少女のつぶやきが聞こえた。なんだろう俺の事知っているのかな、やっぱ俺ってば有名人なんじゃなかろうか。

 そんな訳ないか。急に出てくる困った人。そして俺の事を知っている風を装ってディスるこのパターン最近よく見る夢のやつだ。まあディスられてはいないけど。


 これは夢という事は明晰夢とかいうやつか。

 そう言えば明晰夢ってコントロール出来るとか聞いたことがある。

 つまりは・・・。


 「もしかして犬達は具合悪いの?」

 「ん。・・・病気で動けなくなった。」


 なるほどね病気パターンね、という事はしょぼめの錬金術師の出番と言う訳ね。

 背嚢の中から回復薬を3本取り出してぐったりしている犬に順番にかけていく。

 まずは体力回復をさせる。

 次に病気を治す簡易治療薬をかけようかと思ったが最近作ってないので携帯しているものがなかった。

 しょうがないので『抗病魔』のスキル石を1.0になるように与えていく。


 3匹とも『抗病魔』1.0になったがまだ体調は回復してないのかまだぐったりしているので追加で回復薬をどんどんかけていく。


 「ちょ、そんなにかけたら」

 「ごめん。ビショビショになっちゃうよね。」

 やばいビショビショで怒られた。


 「いや・・・ビショビショはいいんだけど。」

 ビショビショはいいらしい。なんだ何時もより寛大じゃん。


 「そんなに薬を使われても。・・・お金ない。」

 そっちね。大丈夫大丈夫。


 「お金はいらない。それよりも欲しいものがある。後は分かるよね。」

 そうお金なんていらないのだ。

 こんな美少女の事を助けてあげたのだ。

 たとえ夢だとしても、いや夢だからやっていいことがあるだろう。行こう行けば分かるさ。


 そう言って彼女に近づいていき彼女の綺麗な髪に触れていく。

 なんか結構ゴワゴワしてんのね。キューティクル足りてないんじゃない。

 俺の夢よ。夢なんだからもっと頑張れよ。


 髪の毛に触れるのをやめ彼女の頬へ手を移す。

 そして頬を撫でようとして。

 「・・・嫌っ。」

 手を振り払われた。

 痛っ。結構強く当たったのか手がじんじんする。


 これかこのパターンか。この後、滅茶苦茶反撃食らってボコボコにされるパターンね。知っている知ってる。


 そう思って覚悟を決めて待っているが一向に殴りかかってこない。

 向こうも顔を伏せているだけだ。


 やばい凄い気まずい。

 なんか新しい展開ください。えちえちなやつ。

 そうじゃなかったらもう夢から醒めてもらえないですかね。限界です。


 「くぅーん。」

 気まずい沈黙が流れるなかぐったりしていた犬のうちの一匹がよろよろと立ち上がった。

 それにつられてたのか他の2匹も立ちあがる。


 まだ少し休んでいた方がいいだろうけど。回復はしだしているみたいだ。

 病気もきっと何日かすれば治るだろう。


 と言う訳でこれで俺の任務は終了。

 なに大した事はしていない。お礼はいらないよ。

 そして颯爽と何も言わずに去っていく。


 逃げたとも言う。

 というか夢じゃないのかよ、

 途中でそんな気はしてたけど悪ノリしてしまった。

 魔鉄鋼製の剣に『剣術』を入れてテンションがおかしかったのもある。

 だからって夢と現実の区別がつかないとかありえないでしょ。人間として。

 あまつさえ無理やり女の子に迫るなんてやばすぎ。

 というかそう思うと本当にクズだな。まじでなんか考えれば考えるほどとんでもない事をしたような気がしてきた。

 やばい。やばい。


 「ちょっと。待って。」


 やばい。しかる所に連行されてしまう。

 逮捕だ。死刑だ。

 逃げなきゃ。

 お前たち急げ。

 そうみんなを促してダッシュで逃げていく。

 

 後ろの方で何か言っているが今は無視だ。

 とにかく全力で逃げる。

 後ろから追ってくる気配はない。だが走り続ける。



 もう走れない。

 そう思い倒れこむように地面に座って息を整える。

 ギンやドンは普通に走ってついてきたみたいだがゴブリン達がいない。

 やばい置いてきたかと思ったが後から追いついて来たので安心した。


 しかしいくら何でも夢だと思ってたからってあれはないよな。

 いつも自分からは想像もできないほどの蛮行だった。

 女の子の髪に行き成り触るのすら出来ないのに何をしようとしていたのか。

 思い出したくない。


 しかし顔とかばっちり見られているしなんか向こうは俺の事知っていたみたいだし、これダンジョン出た時点でスピード逮捕ある?

 やばいやばい。うそぴょん。どっきりでしたで何とかならないもんか。

 今度会ったら全力で謝ろう。誠意をもって謝れば許してくれないかな。なんなら誠意(現金)をだしてもいいし。それで何とかならないだろうか。


 とにかくその事は今、考えても仕方ない。

 今は楽しいことだけ考えよう。

 そう試し斬りだ。試し斬りをしようとしていたんだ俺は。

 だから何でもいいから俺の最強剣の『剣術』2.0を使ってみないと。


 できれば『剣術』スキルを上げたいからゴブリンを狩りたい。

 ということで2階を目指す。

 しかし現在地を地図上で確認するといつもの2階へ行くルートからはかなり外れてしまった。

 それにいつものルートを通るとさっきの部屋を通らなくてはならない。

 今回は別の場所から2階へ降りる。

 2階へ降りる道は2つありいつもは一番近い所から降りていたがもう1つの道から降りてみる。


 もう1つの道もいつもの道と同じようになだらかな坂になっており抜けた先に1階と2階の境目を示す看板があった。

 この場所から地図を2階に切り替えていく。


 いつもの2階のスタート地点とはちょうど真反対の位置にあるため何時もの場所に出るのはかなり時間が掛かりそうなので今日は諦めよう。

 例の魔鉄鉱石の鉱床に肥料を上げたかったけどしかたない今日は我慢。


 早速、到着した最初の部屋でゴブリンがいたので狩っていく。

 いつもはニーにタンク役をしてもらって抑えている間に殺すのが基本だが今日から俺は達人級の腕前のはずなのでタイマンでよろしくしてやる。


 「お前たちはそこで待機。」

 そう指示を出してゴブリンに近づいていく。

 ゴブリンはいつもの通り叫びながら襲い掛かってくる。


 ここで俺は慌てず騒がず剣の声を聞く。

 剣の声を聞くことにより剣がどんな感じで動きたいか、どんな感じで相手を切り裂きたいのか分かるはず。

 さすれば剣の声を聞き剣の動きに身を委ねれば剣が勝手に動き・・・動かねえ。

 ゴブリンの手に持った棒が俺に振り降ろされた。

 咄嗟に剣を出して受け止める。


 これが『剣術』2.0スキルの動き。な訳ない。

 今の俺の肉体が反射的に動いただけだ断じて剣のおかげではない。

 じゃあどうすればこの『剣術』スキルは使えるんだ。

 ゴブリンを力づくで吹き飛ばして体制を崩す。ゴブリンとは体格差があるからこんなことは簡単に出来るのだ。

 相手の体制が崩れた所を自己流の魔力と思われるものを込めて剣を振り下ろす。

 すると剣はゴブリンの首筋に入り面白いように体を切り裂き逆側の脇から出た。

 ようするに真っ二つだ。血が勢いよく噴き出る。スプラッタ。なにこれ怖い。


 切れ味がよすぎる。手ごたえはあったがそれでも抵抗がそれほど感じずに体を切り裂いてしまった。

 これが『剣術』2.0の力。恐るべし。

 何か思っていたのと違う。想像では『剣術』スキルを発動させると剣とか体が勝手に動いてバッタバッタと敵を倒す、そんなイメージだった。

 髪が伸びて白い面の者たちを抹殺するようなやつ。


 だが今のだと単純に剣の切れ味が上がる程度のものだ。

 これはこれでいいかなと思うが冷静に考えてみると何か違うような気がする。

 単純に新しい剣の性能じゃねとも思う。

 それは昨日まで使っていた剣は鉄の剣でそれも誰かが延々と使いまわしたボロボロの中古品だ。

 その証拠に普通の鉄の剣でも40万するのに昨日までの剣は5万で買える。

 これでは切れ味なんてあってないようなものだ。


 それに比べて魔鉄鋼製の剣は400万の新品だ。そもそもの値段から見ても全然違う。

 失敗したのは『剣術』スキルを入れる前に魔鉄鋼製の剣の試し斬りをしていなかった事だ。

 試し斬りさえしていればその切れ味と比較できたのだが。


 じゃあ魔力を込めないで振るえば普通の状態となって比較が出来るんじゃんとも思うがそれも難しい。

 何故なら自己流の魔力込めて単純に力を入れているだけだから。

 力を入れずに振るうなんて出来ないし。そもそもスキルが魔力を込める事で発動するかも分からないし。


 と言う訳でこの『剣術』の検証はこれ以上は無理だな。

 後できることはスキル石を溜めて『剣術』スキルを上げて比較してみるとか『剣術』スキルについて知っている人に聞くとかかな。


 そう言えば教官の『剣術』は4を超えていて今まで見た中で一番高かった。

 教官に聞けば何か分かるかもしれない。

 でも今は冒険者ギルドにあまり行きたくない。指名手配されているかもしれないからな。


 まあ今は出来ることはないので気分転換というか憂さ晴らしというか八つ当たりでゴブリンどもを狩って狩って狩りまくってやる。


 そうしてこの日は2階の新しい場所でゴブリンを狩りまくった。

 そしてダンジョンを出ると素材も売らずに一直線で宿屋に戻って寝る。


 明日、目が覚めたら全てが夢でありますように。おやすみなさい。 


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