21話 空の飛び方
コウモリを倒せた次の日。
この日は起きてからずっと飛行スキルのことを考えている。
まだ飛行が諦められないのだ。
決して戦術訓練がうまくいかないから逃避しているわけではない。絶対だ。
ゴブリンのサンに入れることが出来たがスキルとしては発現していない。
このまま入れ続けてスキルが発現するのを待つのもいいが他の方法をとろう。
そもそもなんか考え方が常識にとらわれすぎている気がする。
今までやったことは『薬効』とか『抗病魔』とかはすでに存在する薬品を参考に作っただけだし、『再生』とか『音探知』みたいなすでに生物が持っているスキルをただ単に与えただけだ。
これでは発想が単純すぎる。
もっと柔軟に考えてもいい気がする。
なんせチート能力だ、常識の範囲外にいる存在だ。
こっちもそれに合わせてもっと冒険した方がいい気がする。
『薬効』や『発光』を生き物につかったり、『再生』や『音探知』を物に使ったりする発想の転換が必要だと思う。
まあでも『薬効』も『発光』も生き物には使わないけどね。
というわけで新しいスキル石の使い方を考えてみようと思う。
メインディッシュの『飛行』は後回しにしてまずは『消化』を使ってみようと思う。
『消化』ということは溶かすということ、つまり溶解液が作れるのではないか。
早速、水瓶に少し水をいれて『消化』0.3スキル石を入れてみる。
水に『消化』0.2がついた成功だ。
そのまま『消化』1.0になるまでスキル石を入れて溶解液(仮)を作る。
とりあえず出来るは出来たので今度は本当になにか溶かせるのか試してみる。
その辺の土に少しかけてみる。
ジュという音がしたが溶けたかどうかは分からない。
今度はその辺の落ち葉にかけてみる。
ジュという音がして今度はきれいさっぱり溶けた。
なんか面白くなってきた。
それを見ていたゴブリン達も興味がでたのかしきりに水瓶の中身に触ろうとする。
なんとか水瓶を高いところに上げゴブリンたちが触れないようにする。
しかしゴブリン達はそれでもかまわず触ろうと押してくる。
やめろ。押すな。危ないこぼれる。これは振りじゃない。なんかぐつぐつ言っているけど触れても安全なバラエティー的なやつじゃない本物だ。まじやめて。
そんなゴブリンたちをなんとか鎮めてようやく次の作業に移る。
水瓶から溶解液を持ち運び用の容器に移すのだ。
そーと慎重に注ぎ始める。
瞬間、容器が溶けた。
熱ってか痛っ。持っていた手にもかかり、火傷したみたいになる。
すぐさま洗い流して回復薬をかける。
放置された水瓶にゴブリンたちが群がり手を突っ込んでいく。
当然、手を火傷してのたうち回っている。
こいつら本当に馬鹿。
しようがないのでゴブリンたちを治療しながら考える。
どうやら水瓶は大丈夫だが回復薬にも使っている容器では耐えられず溶けてしまうらしい。
持ち運べないとなると使い勝手が悪い。
小道具屋で溶けない小型の容器がないか確認するしかないか。
とりあえず、この水瓶は厳重に保管することにした。
次にいよいよ『飛行』のスキル石について考える。
アイディアはある。
この世界の魔道具と呼ばれるものは大抵スキルが付いている。
自分が使ったことがある魔道具で言えば魔力を込めるだけで発動する。
つまり『飛行』のスキルを持った魔道具を作れば、空も飛べるはずなのだ。
やばい興奮して熱出そう。幼い微熱を下げられないくらいワクワクしている。
空を飛ぶ魔道具を作るとしてどんな形がいいだろうか。
両腕に羽みたいなのをつけてバタバタさせて飛ぶような装置が思い浮かぶがなんか疲れそう。
どうせスキルで飛ばすんだから羽とかついてなくていいか。
どんな形でもいいならスケートボードやスノーボードのような板がいい。
空を飛ぶボードだ、こいつはヘヴィだぜ。
現状、『飛行』のスキル石も板もないのでまずは素材集めからだな。
日課の回復薬関係を終えた後、冒険者ギルドの販売店に行く。
そう言えば今日はゴブリンの装備が来る日のはずだったので聞いてみる。
「装備が出来るのは明日だよ。」
そりゃ注文したの夕方だから仕事は次の日からだわな。
次に空飛ぶ板用の板がないか聞いてみる。
「人が一人乗れるだけの大きさのソリみたいなのてありませんか?」
「あるよ。」
なんでもあるな。
聞いたところによると素材とかを引きずって運ぶ為の物らしい。
大きさはスケートボードやスノーボードよりは多少大きいがまあいいだろう。
ちなみに板のスキル容量は『0.0/3.0』だった。
それを一つ買って背嚢に括り付ける。
準備は万端、いよいよダンジョンに入る。
狙いはもちろんコウモリなので回復ゴケ農場に行く。
ゴブリンを囮にしてコウモリを狩っていく。
今日はいつもよりコウモリが少ない気がした。実際コウモリは5匹しか倒せなかった。
これで素材は揃った。
ワクワクしながら板に『飛行』スキル石を入れていく。
予想通り、板にスキル石が入っていく、しかも板に『飛行』0.1がついた。
「うおおおおおおお!!」
思わず叫んでしまった。
「「ゲギャ!」」
すると周りにいたゴブリン達も一緒に騒ぎだしてしまった。
ちょっと恥ずかしくなった。
しかしまさか直ぐに『飛行』が付くとは思わなかった。
なんてことだ俺は今ライト兄弟に並んでしまった。
急いで残りのスキル石をいれていく。
板は『飛行』0.5になった。
早速乗って飛ばないか試してみる。
力を込めて飛べと念じる。
魔力の込め方は分からないが大体、力を込める感じで今までの魔道具は動いていたのでこれでいいはずだ。
飛べ。飛べ。飛べ。
結構、念じてみたがうんともすんともいわない。
やっぱり『飛行』が1.0に達してないから飛ばないのだろうか。
しょうがないので次のコウモリを倒しに行くことにする。
以前、レベル上げの時に各部屋を回って敵の分布を調べたので大体、何処にいるかはわかる。
分かるがコウモリは大抵は高いところを飛んでいるのでこの部屋みたいに手の届く範囲に来るやつが少ない。
つまり狩りに適している場所がはっきりしないので心当たりがある部屋に全部いかなきゃいけないという事だ。
地図を見ながら入念にすべての候補地を通るようにルートを選定する。
しかし空が飛べる可能性が高くなっている今、この作業はちっとも苦ではない。むしろ楽しい。
ルートを選び終え一つ、一つ部屋をめぐってコウモリを探していく。
結果、狩りに適した部屋は3つあり、コウモリは計19匹倒せた。
さあ後はお楽しみスキル石をインする時間だ。
手にした『飛行』のスキル石を入れていく、5つ入れたところで『飛行』スキルが1.0になった。
とりあえず目標に達したのでこれで一回やってみる。
先ほどと同じように板の上に載って力を込め念じてみる。
飛べ。飛べ。飛べ。飛んでくれ。
だめだ全然変化がない。
念じ方が悪いんだろうか?やっぱり飛べじゃなく翔べだろうか、かっこいいし。
一応やっている
翔べ。翔べ。翔べ。翔べ。翔べ。
全然動きなし。
やっぱね関係ないよね。
残りのスキル石を入れていく。
最終的に板は『飛行』1.7までスキルが上がった。
再度、板の上で念じてみる。
飛べ。跳べ。翔べ。
駄目だやっぱり全然動かない。
なんだろう2.0まで上げなきゃいけないのか?それとも魔力の込め方が間違っているのか?俺がヘヴィすぎるのか?
いろいろ問題点を考えていると板に興味を持った3匹のゴブリンが俺の真似をしているのか板の上で声をあげながら力を込めているようなポーズをしている。
なんだろう周りから見るとあんな感じなのかな。凄い恥ずかしいんですけど。夜で良かった。
とりあえず、他の実験をしてみるために板をゴブリン達から取り返そうとする。
しかしゴブリンたちは抵抗して板を渡そうとしない。
「放せ。これはおもちゃじゃない。」
こうして俺と3匹のあいだで板の引っ張り合いが始まる。
そうして引っ張り合いをしていたのだが疲れたのかゴブリンたちが一斉に板を放した。
すると力を入れて引っ張っていたため後ろに倒れそうになる。
というか倒れた。咄嗟に手をついて後ろに転がる。
そこで気が付く。
板は?板はどこ行った。
ゴブリンたちが駆け出している方を見ると板が横回転しながら飛んで行ってた。
フリスビーかよ。
そんな飛んでく板を俺も追いかける。落ちたところを拾うためだ。
しかし一向に落ちてこない、結構な距離を飛んでいる。
板ってあんなにきれいに飛ぶんだ。
そう思ったがなんか変だ。
結局板は壁に当たって落ちた。
壊れていないか慌てて確認するが大丈夫だったようだ。
それにしても壁に当たるまで少しも高度が落ちなかった。
もう一度、フリスビーのように横回転がかかるように投げてみるときれいに高度を落とさず壁に当たるまで飛び続けた。
何回やっても同じだった。
ゴブリンたちはそのたびに大はしゃぎして追いかけていった。
こうして俺は大きなフリスビーを手に入れたのだった。
だから何だよ。ちくしょう。返せ俺の期待を返せ。
俺が板を投げないのでゴブリンたちは自分たちで板を投げる遊びをし始めた。
最初はやめさせようかと思ったがなんかどうでも良くなったので好きにさせてた。
それに飽きたのか止めると、今度は普通にソリとして斜面を滑る遊びを発明してしまった。
嬉々として小高い山になっているところから3匹一緒に滑り降りてくる。
なんか楽しそうだな、と思ってみてるとちょうど段差になっている箇所に滑っていく。
危ないと思った瞬間ゴブリンたちはそのまま空中へと放り出されて落ちて・・・
落ちない。嘘。そのままゴブリンたちは空中を飛んでいる。
飛んではいるがどんどん高度は下がってそのまま着地した。
これってもしかしてもしかすると。
検証の結果、この板は勢いよく飛ばすとその状態のまま飛び続ける板に変わっていた。
『飛行』スキルには推進力が必要だったのだ。
そして重さがあるとすぐに高度は落ちてくる。
ゴブリンを載せながら板を飛ばそうと思ったが重すぎて俺にはできなかった。
だから今現在、何かを飛ばそうと思ったらさっきのように勢いよく滑り降りてジャンプ台みたいなのから発射しなくてはならない。
そしてしばらくすると落ちてくる。
これだけだった。
飛んでいる間、板の上に立ってみようかと思ったが怖すぎて無理だった。
なので現状は結構楽しいソリ遊びが出来る板だ。
その後、何回かソリ遊びをゴブリンたちとしていい時間になったので帰った。
思ったのと違ったがまあこれはこれでいいか、楽しかったし。
そう思いながらその日は終わった。




