20話 戦術的喝!
とにかく落ち着こう。
一旦、落ち着いて冷静に考えるんだ。
まだ慌てる時間じゃない。
まずは今の戦闘の反省からしよう。
前々から気づいていたがこいつらゴブリンの戦闘は単純だ。
とにかく叫びながら近づいて力いっぱい攻撃する。以上。
回避とか牽制とか一切ない。
とにかく獲物があれば一目散でみんな一斉に群がる。まるで小学校の授業でやっていたサッカーみたいだ。
今までは弱い敵ばっかりで分からなかったが、こいつらは自分たちより強い敵でも同じことをするらしい。
仲間がやられていてもかまわず攻撃して犠牲を出してでも相手を倒すそういう戦術なんだろう。そこまで考えてるようには見えないけど。
このままこの状態でトカゲを倒すとなるといくら回復薬があっても足りない。
考えられる解決策は2つ。
まずはこいつらに戦術というものを教える。
次にこいつらにもっと強力なスキルを与えてトカゲくらいなんでもなくする。
2つ目で与えるスキルは何処から調達しなくてはならない、例えば魔道具屋にあった魔道具を壊してスキルを得るとか。
ただ魔道具のスキルって『計測』とか『計算』とか『保存』とかそういう戦闘の役に立たなそうなのばかりで、『土魔術』とか『風魔術』のような如何にもなやつは、値段が高い。
今のところお金を使いすぎているので、この案は保留だな。
まあ『再生』が手に入れば、少しはましになるだろうからそれまでの我慢だな。
ということで戦術を教えるところからやるか。
そんなことを考えているうちにイチが復帰したらしく、トカゲを食べるのに参加していた。
ゴブリン達も全部は食べられないので、かじってないところを切り分けて素材袋に入れていく。
トカゲの処理が終わったところで戦術練習に移行する。
トカゲは装備が整ってからにしよう。
このままだと危険すぎる。
まずは安全なネズミからだ。
ネズミを狩るために隣の9の部屋で早速始める。
まずは基本戦術のタンクが守って他の2匹で攻撃するを覚えさせる。
ニーがタンクでイチとサンで攻撃だ。
まずイチとサンと手をつなぐ。
勝手に走っていけなくするためだ。
こいつらに止まれと言っても絶対に止まらない、自信がある。
いたネズミだ。
ゴブリンたちが走りだそうとする。
イチとサンの手を引いて止める。
その間にニーは1匹で走り出す。
他の2匹も行きたそうに手を強く引っ張っているがなんとか止める。
「お前たち待てだ。まだ待つんだ。」
ニーはニーでただ全力で剣を振っているだけだ。
「ニーも待てそこで獲物を引き付けるんだ。攻撃は待て。」
そう叫んでも一向に攻撃はやめない。
ニーは攻撃するが、ネズミは素早くよけていて当たらない。
今まで気が付かなかったが1匹じゃネズミに攻撃を与えられないのかもしれない。
そうこうしているうちにネズミがもう1匹現れて加勢し始めた。
形勢逆転でニーがやられ始めた。
やば。これはまずい。
「お前たち行け。」
両側にいたイチとサンを解き放ち自分も駆け寄る。
3匹で駄目そうなら手を貸そうかと思ったがなんとか3匹で倒せた。
一応勝利だがこれでいいのだろうか。
こんなんで戦術の練習になっているのだろうか。
今思えば初心者講習で歩いたり走ったり剣を構えたりをしてたのってこういう事の練習だったのかも。
そうなると1回やったくらいじゃ分からないな、体に染みつくまでやらせないと。
そんなわけでその日はネズミ相手にこの練習を繰り返した。
なんか全然進歩なさそうで不安になってくる。
あとネズミ相手でも怪我が多く何回か回復薬を使うはめになった。
なかなか育てるて難しいな。
次の日、夕方に目覚めて準備をする。
今日はやり方を少し変えて待つ練習をさせたい。
ということで紐を買ってくる。
そしてその紐をゴブリンたちのベルトにした紐に括り付ける。
いわゆる腰ひもというやつだ。
これで急に走り出しても止めることが出来る。はず。
ダンジョンに入り獲物を探す。
今日はスライムがいい。
奴らは動かないから。
早速、スライムを見つける。
3匹のゴブリン達も一斉に駆け出そうとする。
だが断る。
手に持った紐を引っ張っていかせないようにする。
「お前ら待て。待つんだ。」
待てと叫びながら懸命に紐を引っ張る。
しかし奴らは止まらない。
必死に前に進もうとする。
こっちも必死に引っ張る。
完全な綱引きだ。
俺は後ろに倒れこみそうな体勢で引っ張り、奴らは前に倒れそうな体勢で前に進もうとする。
なんかこういう競技ありそう。
長い間そうしていたが遂に根負けして手を放してしまった。
するとすぐさまゴブリンたちはスライムめがけて走り出す。
スライムを倒すゴブリンたちを見ながら手を開いたり閉じたりする。
力を入れすぎてたせいか手の感覚がおかしい。
しょうがないので少し休んでからまた同じことをする。
が駄目。何度やっても待ってくれない。
何が彼らをそうさせるのだろうか?若さゆえの衝動だろうか?心が走りたがっているのだろうか?
心も体も疲れてしまったので休憩と気分転換を兼ねて回復ゴケ農場に回復ゴケを採りに行く。
ここでも彼らは元気だ。
元気にコウモリに立ち向かっていってはまけて逃げかえってくる。
うすうす気づいていたが奴らには学習能力がない。
学習能力がないと俺がしようとしている事は全部無駄になってしまう。頼むよ本当に。
そんなことを考えながら遠目にコウモリを見ていて気が付いた。
『音感知』1.1
『飛行』0.8
こいつら強スキル持ちだ。
その瞬間俺も叫びながら走り出した。
走りながら体のどこかにあたってくれと思いながら手を振り回す。
しかしそれでコウモリを捉えられるはずもなく疲れただけだった。
同じく叫びながら短剣を振り回しているゴブリンを見てちょっと恥ずかしくなってしまいやめた。
でもちょっと楽しいかも、心の中にあったもやもやが少しはれた気がする。
コウモリエリアから少し離れて、どうやったらあのコウモリを倒せるか考える。
人間にはゴブリンと違って知恵があることを見せてやる。
まあ普通に考えたら網とかだろうな。
虫取り網くらいの小ささでも行けるかもしれないけど。
モンスターをハントしてターするゲームとかなら音爆弾で一発だろうけど。
コウモリの敵はいないけど。
しかしコウモリの特性上なんかうまい事やれば捕まえられそうだけどな、そんな知識はない。
俺の地元の山奥のほうではコウモリがカーテンに絡まっているあるあるとかあるくらいだからな、カーテンとか使えばいいんだろうか。
こんな時、スマホがあれば検索で直ぐに分かるのに。
下手したら、異世界のダンジョンでコウモリを捕まえたいのですがどうしたらいいでしょうか?みたいな同じ悩みの人が質問サイトに投稿しているかもしれない。
あそこはちょっと頭おかしい質問も多いからな。
コウモリは明日道具を買ってきてからだな。
久しぶりに強そうなスキル、それも二つだからテンションが上がってしまった。
明日が楽しみだ。
とりあえずこの後はスライムの前でゴブリン3匹を引っ張るという闇のゲームを繰り返して帰った。
次の日、冒険者ギルドの販売店に行く。
聞いたら普通に投網があった。
普通に飛行系の魔物や小型の魔物を捕まえる時に使うらしい。
一番小さいサイズの物を買おうかと思ったが投げ方が分からないのでやめた。
お店の人に聞いたら普通にしたから投げればいいとか言われたけど本当か?
昔、深夜番組で投網をやっているのがあったけど、その時は結構複雑な動きしてて難しそうだったぞ。
虫取り網の大きい奴があったのでそれを買う。なんでもあるな。
なんか背嚢に虫取り網だとピクニック感がでてなんか恥ずかしい。
とにかく準備ができたので早速、回復ゴケ農場のある部屋まで行く。
ゴブリンたちを解き放ち、コウモリたちに攻撃させる。
そこに忍び寄り一気に虫取り網を振り下ろす。
入った。
意外だ、いつも絶対に触れられないから本当は存在してなくて幻術なんじゃないかと思うくらい当たらなかったのに一発で入ってしまった。
ゴブリンたちが喜んで近づいてくるのであいつらに盗られる前に踏みつぶす。
『音感知』1.2と『飛行』0.7が手に入った。
なんか久しぶりに新しいスキルが手に入ったのですごくうれしい。
その後、同じようにコウモリを6匹ほど倒してスキル石を手に入れた。
残りのコウモリは見当たらないのでどこかに逃げたみたいだ。
まずは『音感知』は斥候役のサンに与えよう。
なんかこの役割全く機能しそうにないから止めようかと思うけど、まだあきらめない。おれは戦術をあきらめないよ。
サンに『音感知』を与えていく、1つのスキル石でだいたい0.3くらい上がる。
1.0を超えた時点で上がりが少なくなってしまった。
やっぱり必要経験値は上がるのだろうか。
とにかく7個スキル石を与えた結果がこうだ。
サン
『剣術』0.4
『繁殖』0.3
『抗病魔』1.0
『音探知』1.5
『3.2/8.0』
ちなみに剣術とスキル容量はいつの間にか上がっていた。
もう3日もダンジョンで育ててるからなレベルアップくらいしたのだろう。
レベルアップの基準がなかったので、スキル容量が1つ上がったので上がる毎に1レベルアップとした。
なので最初がレベル1と仮定するとサンは3レベルアップの4レベルという事になる。
ちなみに他のゴブリンは以下の通りだ。
イチ
『剣術』0.5
『繁殖』0.2
『抗病魔』1.0
『1.7/8.0』
ニー
『剣術』0.4
『繁殖』0.2
『再生』0.3
『抗病魔』1.0
『1.9/8.0』
次に『飛行』スキルを試してみようと思う。
『飛行』は斥候が持ってたらいい気がするのでこれもサンに与える。
しかしどう考えても羽がない生物に与えても意味ないスキルだが与えたらどうなるんだろうか。
羽もなく飛べるようになるのだろうか。
それとも入らないのだろうか。
ともかくやればわかるだろう、ドキドキしながらサンに入れていく。
入った。入ってしまった。
しかしサンのスキル情報に変化はない。
これは昔、大量の水に薬効を入れた時と同じだ。
ならばもっと入れれば『飛行』スキルを取得できるはず。
残りの『飛行』をすべて入れる。
が駄目。全く変化なし。
ですよね。
もっといっぱい入れればスキルが取れるかもしれないがどれくらいで取れるか分からないのでこれ以上はやめておこう。
俺はロスカットが出来る男なのだ。
はい、言ってみたかっただけです。
とにかくこれで斥候の索敵能力が上がったはず、一歩前進だな。
まずはネズミにでも新スキルの威力を試してみるか。
そう思いサンに獲物を探すように指示する。
なんかわかったような顔で真剣にうなずくサン。
そして探し回る事、数分。
遂に敵を見つけたのか叫びだして駆け出す、3匹同時に。
サンこの音探知て役に立ってる?ちゃんと発動させてる?
いきなりじゃ使えないのかもとりあえず『音探知』の練習をさせる。
どうやって使って分からないがとりあえずイメージで耳に手を当てて、今よく聞いてますポーズを教えてみる。
「よしこうやて耳に手を当てて耳を澄ますんだ。そうすればよく聞こえるはず。やってみろ。」
「ゲギャ!」
なんかわかったような顔でうんうん頷いていたから分かったのかな。いつも返事だけはいいからな。
耳に手を当てて真剣な顔をしている。
でもこれ駄目な奴だ、手が耳の前にある。
サンは真剣な顔でうんうん頷いている。
他の2匹も同じことしてる。
そういう遊びじゃないんですけど。
結局この後、何回か試すが一向に役に立っているように見えなかった。
ちょっと心が折れそうになる。
でも負けない。こいつらを立派なアタッカー、タンク、斥候に育て上げて見せるんだ。本当だよ。




