12話 真夜中のピクニック
ダンジョンの入り口がある建物に近づく。
これで夜はこの建物の扉は閉まってますとかだったらどうしよう。
おそるおそる扉に力を籠める。
開く。ということで夜は穴場で運動会作戦継続。
中に入るとまだ冒険者が何人か穴の前にいた。
「なんだ坊主、今から入るのか。」
「は、はい。もしかして禁止ですか?」
やっぱ駄目なのか夜は穴場で運動会作戦。
「禁止ってわけでもないけど、なあ。夜はなんかあっても助けに行ける人数が少ないからな。」
いつも入り口にいる冒険者はなんかあったら助けに来てくれる、そういう人員だったのか。
てっきり凄い暇な人たちだと思ってた。
「そんなに遠くに行かないので大丈夫です。多分。」
「まあ止めることはできないからな。くれぐれも無茶するなよ。」
「はい。ありがとうございます。」
なんかちょっといい人たちだった。
そのままダンジョンに入っていく。
まずは目指すべき場所は3の部屋だ。
光石から『発光』スキルをとっていく。
昼間ならこの時点で何人かの冒険者とすれ違ったものだが今日は誰ともすれ違わない。
2の部屋を経由して3の部屋に行く。スライムは無視。
その間にも全く冒険者と会わない。
3の部屋に着く。
回復ゴケの壁の前に誰もいない。
心なしか少なくなっている回復ゴケを剥がしスキル石にしていく。
まずは50個ほどスキル石にする。
そしてこれがトカゲ対策の肝だ。
そのスキル石を小道具屋でかった容器にあらかじめ入れておいた水の中に入れる。
『薬効』0.1のスキル石を10個入れた段階で『薬効』スキルが丁度1.0になった。
まさかこんなにキリがいいとは思わなかった。
いつも作っている量は『薬効』0.1のスキル石が100個分だからもしかしたら回復薬10個分なのかもしれない。
とりあえず残りの『薬効』0.1のスキル石を使って2本分の回復薬を作る。
余った『薬効』0.1のスキル石は20。
これは明日の回復薬作りのために取っておこう。
再び回復ゴケを剥がしスキル石にする。その数50。
今日の回復ゴケはこれで終了だな。
お金を稼ぐだけならここで帰るだけでいい。
それだけで満足に暮らせる人生を歩めるはずだ。
だがそれだけじゃだめだ、俺にはこの世界で無敵で無双な生活をするという野望がある。
だから待ってろトカゲ野郎。
地図を出し、ギルドの資料室で写したトカゲ出現ポイントを見てみる。
この3の部屋から一番近いところは未知の部屋を2つ行ったところにある。
3の部屋から移動を開始する。
このルートは初めて足を踏み入れるため少し緊張する。
次の部屋に到着する。
この部屋は何て名前にしよう9の部屋?それだと3の次が9で位置関係が分かりづらいか?
位置関係で行くと3の右部屋、これだと後々、3の右の上の左の部屋みたいな方向わけわからん部屋が出来ちゃうな。南東北みたいな。
とりあえず9の部屋としよう。
コウモリネズミアタックを食らった教訓を生かして新しく入る部屋に慎重に入る。
慎重に慎重に部屋を探索する。
すると岩の陰から飛び出してくるものがあった。
ネズミだ。
無視しようと思うがスキルが目に入った。
『繁殖』0.7
『抗病魔』0.6
スキルが二つもあるとは生意気な踏んづけてやる。
踏み殺して無事スキル石を手に入れる。
効果のほどはともかくとして1キルで2スキルはおいしい。
この部屋を探索するととにかくネズミが多い。
例の場所を除けば、全ての場所で合わせてもネズミなんてのは数えるほどしか出ていなかったのに、ここでは遭遇するのはほとんどネズミだ。
これはチャンスとばかりに次々に踏み殺していく。
サーチアンドデストロイ。デストロイ。デストロイ。デストロイ。デストロイ。
周りから見れば「なんかこの人嫌な事でもあったのかな?」と思うくらいなんかあれな感じであれしてた。
ベストアンサー:嫌なことはありました。
10匹ほど倒したくらいで我に返る。
そういえば目的はトカゲだった。
ネズミを埋葬していよいよ目的地に行く。
トカゲが出現すると噂の部屋を10の部屋としよう。
その10の部屋に到着する。
なんか他の部屋と比べると岩が多い気がする。いや明らかに多い。
足場も悪く転んだりすると大変なことになりそうだ。
死角も多くなっているので慎重に進む。
すると直ぐに岩場と地面の隙間にいるトカゲを見つけた。
ここで会ったが100年目、貴様が我が一族から奪った名誉と『再生』スキルこの2つを今こそ取り返す。俺はそのために今日まで一日千秋の思いで生きてきたのだ。意味は知らん。
短剣を取り出しトカゲに向ける。
トカゲもこちらに気が付いたのか隙間から出てきて威嚇してくる。
じりじりと近づいていく。
この前の激闘ですでに奴の間合いは見切っている。
奴の間合いに入った瞬間、牙をむきとびかかってくる。
それをかわさず、一歩前に出て左腕の防具が付いている箇所で受け止める。
「いたっ、痛くない!!」
本当は凄い痛いのだがそう叫ぶ。
叫ぶことによって自分を鼓舞すると共にアドレナリンをだす。
噛みつかれた状態のまま、右足でトカゲの胴体を踏む。
全体重をかけトカゲを逃がさないようにする。
そして短剣を胴体に向かって勢いよく振り下ろす。
何度も何度も何度も振り下ろす。
やがてトカゲが動かなくなる。
やった遂に成し遂げた。
トカゲを一人で倒したのだ。
「うおおおおおおし」
嬉しさのあまり勝利の雄たけびを上げてしまった。
少しして冷静になる。
恥ずかしい。
なにを叫んでいるんだ。
周りを見回す。
よかった他の冒険者はいない。
こんなの見られていたら今度こそ恥ずかしさのあまり引きこもってしまうところだった。
やっぱり深夜って最高だぜ。
腕がなんかズキズキして心臓もドクドクしてきた。
よく見ると結構な血が出てる。
慌てて回復薬を飲む。
別に血はとまらない。
あれこれって振りかけるタイプ?
しょうがないので腕を心臓より上にして何か縛るものはないか探したが、ないのでそのまま手で押さえる。
そのまましばらくすると血は止まってかさぶたのようになっていた。
これが今回の対トカゲ戦の作戦だ。
左腕で守って、短剣で突く。
あとは回復薬で回復する。
回復薬頼みで攻撃を食らいながら自分の攻撃をあてる。
アクション格闘ゲームだと最も馬鹿にされるプレイヤースキルのプの字もない戦法だが、これってそういうゲームじゃねえから。勝てばいいから。オレは戦うのが好きなんじゃねぇ、勝つのが好きなんだよ!
ということでトカゲの死体のそばから『再生』0.7のスキル石を回収する。
苦節1日、ようやくこの『再生』スキルを手に入れた。
よく考えたらこの『再生』スキルがあれば回復薬はいらなかったかも。
まあそれはいいとしていよいよ待望のスキルゲットタイム。
『再生』0.7のスキル石を右手で持ちスキルよ入れと念じながら左腕に押し当ててく。
スキル石が入った。
左手の防具に。
左手の防具は『再生』0.3スキルを手に入れた。
ふざけんな!
『再生』スキル石返せ。返せよ。大切なものだったんだよ。返せよ。
取り乱してしまった。
まだ慌てる時間じゃない。
大分、混乱してしまったがまだ夜は始まったばかり、次行くぞ次。
そしてその部屋で2匹のトカゲを倒した。
当然、左腕は犠牲にしたし、回復薬は2つ使った。
結果、『再生』は0.6、0.7のスキル石を手に入れることが出来た。
おかげで左腕に装備していた防具はボロボロで穴だらけだった。
『再生』スキル取得については落ち着いて宿でやろう。
とりあえずトカゲの素材は取れるだけ取って持っていけない分は全部埋めておく。
光石の『発光』スキルも今日持ってきた分は全部消化する。
急いで宿に帰ろう。
そしてダンジョンの外に出て気が付く。
外暗い。
星明りが出ているがダンジョンの中より暗い。
まだ夜明けには遠いらしい。
今、宿に戻っても扉が閉まっているから入れないだろうし何か時間が潰せる場所に行こうと思ってもどこも開いていない。この世界の夜ってクソだわ。
はやる気持ちを抑えこの世界唯一の24時間営業のダンジョンに再び入っていく。
持ってきた携帯食料を食べたり、スキル集めのためにネズミを殺したり、トカゲを左腕の犠牲なしに倒すための特訓をした。
トカゲは倒せなかった。
何度か外の様子を見に行ってはダンジョンに戻るを繰り返した。
時計がないって不便。
ようやく朝が明けて街が目覚めたあたりで宿に戻る。
そして待ちに待ったスキル取得タイムだ。
思えばこの世界に来て8日目、ようやく『スキル強奪』以外のスキルが手に入る。
こんなに長くなるとは思わなかった。
緊張しながら装備、服を脱ぐ。
これの作業はきっと上半身裸がいいだろうとの判断だ。テンションが上がったのなら全裸でもいい。
なんかこの緊張感と絵面はあれに似ている、初めて自作パソコンを作る際に半裸で作業するあれに。
『再生』0.7のスキル石を右手で持ち、素肌をさらしている胸に当てて、入れと念じる。
しかしいつまでもスキル石の感触が胸に残っている。
おかしいと思い右手を見るがスキル石は残ったまま。
入らない。
なんだろこれ凄いやな予感がする。