ジャーニー 1
ここから2章です
季節は枯葉舞う秋。そろそろハロウィンの季節だと、そういえば妹の唯子が漏らしていた。その言葉の通り、街を歩いて見てもちょろちょろとハロウィンの準備グッズが出ている頃だった。
「……」
街がハロウィン一色に染まり始めようとしている。
そんな中、俺は己の元からの真面目な性格と勉学能力をそれはもう恨んでいた。この性格を今まで恨んだ事は無かったし、邪魔と思った事も無い。客観的に見れば喉から手が出るくらいのソレと自負しているくらいだ。
しかし、俺は今それを恨んでいる。
「……」
パソコンの画面。映されるそれはどう見たって俺の大学の単位表。
「……なん、って優秀なんだ俺は」
「おいおい。自己評価が高いのは良い事だけど、度が越えるとナルシスト一直線だぜ?」
「良いんだよ。周りが認めてんだ。自分も認めて当然だろ。謙遜も出来ねーよ」
いつも通り、明は暇つぶしとでも言うように俺の部屋のベッドに寝転がる。俺のナルシスト発言を物ともせず雑誌を読み漁る明と俺の行動は真逆で、一緒に遊んでいるとも言えない。
「んで? どうしたんだよ?」
「いや……ちょっと、気になってさ」
「?」
「俺の大学の単位数」
「そりゃぁ……。そういえば、お前めちゃくちゃ取ってんじゃねぇの?」
「なんっで分かんだよ!」
自分でも今日確認して初めて知った事を、さも昔から思っていましたみたいな口調で言われたので、俺は明の寝転がるベッドに思い切り振り返った。
「優秀な壱君の事だもの。そりゃ分かるさ。お前ってさ、なにげに自分の事見てないよな」
心外だ。
そもそも何でそんな事が気になったのかと言われれば、先程の講義終わりに、近くにいた学生数人がそんな会話をしていたからだった。
この講義で単位落としたらやばいやばいと皆が言っていたものだから、そういえば自分の単位はどうなんだろうと気になった。
するとどうだ、この有様。
もう既に取得すべき単位を全て取り終えているでは無いか。
「つか今までは? 1回も確認した事無かったのか?」
「いや……ちゃんと見てたんだけど、取れているかどうかだけ確認して、総合の取得数の計算はちゃんとしてなかった」
「バッカだなぁ。統計学ばっかやって足し算もしないとか!」
そう言って、明はケラケラと笑った。
分かったからあまり俺の心をえぐるのはやめろ。
「でもまだ、卒論は書き途中だし……」
「そうなの? お前なら1年の頃に書き終わってると思ってた」
「そりゃもう天才通り越しておかしいっつーんだ」
「つか、それならもうゼミの日以外大学行かなくてもいいんじゃないの? 卒論書きながら小説書けば」
履修した科目を途中で投げ出すなんて考えてもいなかった。しかし、単位を全て取っているのなら行く必要は毛頭ない。
「そうするか……」
全て終わっている物を更に求める程知識に飢えている訳でも無かったので、明の意見を受け入れる事にした。
それに、時間があるならば担当さんと一緒に練っている新しく書き出す小説に力も入れたい。
「何か小説家っぽくなって来たな」
「……そうか?」
自分ではそんな事これっぽっちも思っていなかったが、家族以外では誰よりも近くにいる明が言うのなら、本当の事何だろう。