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Warmth Melt  作者: みゅうじん。
夏、再会~
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或る愛の価値観とは 3

数年ぶりに昔好きだった人と再会したら、

何言ったら良いか分からないし

どうしたら良いのかも分からなくなっちゃうよね。


だから本人には自分で作り上げた結論を言ってみちゃったり。

でも他人には本音をぶちまけちゃうなんて事をしてみちゃったり。

「それでは、記者質問に移りたいと思います」

 時々、どうしようもない感情に陥る事がある。

 それは他人から見ればどうしようもなく浅はかで、自分から見ても気持ち悪い物。このどうしようもない感情は多分一生消える事は無いだろう、俺の中の大きな物。俺を半分以上も占めやがっているこの感情を、どう例える事ができるだろうか。

 例えば、醜悪。汚い容姿をしたその感情。

 例えば、醜怪。醜くて誰にも理解されないような、奇怪な感情。

 例えてみればどうしたって悪い方向にしか考えつかない感情に苛つく。例えば、そのどうしようもない感情の元凶にそれを伝えて、元凶はどんな返答をするだろうか。どんな解釈をして、どんな答えを見出すだろうか。

「では、そこの方」

「月刊芸能の朝井と申します。市川先生にお伺いしたいのですが、アメリカに在住の事との情報がありますが、これからもアメリカに住むのでしょうか?」

「編集との話し合いで今後の事を決めたいと思っていますが、学業の面など色々ありまして。早くても来年辺りになると思います」

「大学はどこに通っていらっしゃるんですか?」

 その問いに答える元凶を、目だけでただ追う。答えた大学の名前は興味の無い俺でさえ知っているような大学で、そんな有名大学に通っているこいつは、俺の感情を分かってくれるのだろうか。

「日本文学雑誌『桜』の坪倉です。I Love Youの後書きについてお聞きしたいと思います。市川先生が書いたあの後書きですが、少々私達編集や、ネット。色々な場所で色々と議論になっています。一部では、小説の中のモデルとなった人物に送った言葉だという説がありますが、どうなんでしょうか?」

「ええと、…その説については、10割が正解です。確かに、ただ一人に当てた後書きです。その文の通り、その人は昔から文を読まない人だったので」

 答えた壱は、俺を見ない。

「では、もし再会を果たしたとしても、復縁はないと?」

「……」

 俺をチラリともみないそいつは、それから黙った。

 何を考えている。そこは、間髪入れずに首を縦にふる所じゃないのか? 俺はあの日からお前の姿だけを探していままでを生きてきた。お前は、どうなんだ。

「わかりません」

「……」

「おれ…、僕はこの小説を、相手との最後を少しでもハッピーエンドにしようと思って書き上げました。僕と相手との関係は、この小説で終わりだと、自分勝手にそう決着を付けていますので」

 ただ目で追っていただけの壱の目は、カメラのフラッシュや証明によってキラキラと輝いていた。まるで未来に飛び立とうとする青春真っ只中の高校生のような感じ。それでも、その目の奥底には、固くした決意なんたる物が見える筈も無いのに見えてしまった。あの日空港で見た決意とは、また違った決意の目。遠くを見据えた目は、綺麗で綺麗で。

 でも瞬きをした壱のその固い決意の目が、一瞬にして緩む。

「でも、迷いました。その人と別れて、数年も経ちました。その数年の中には新しい経験や、恋愛など、たくさんの物を見つけてきた筈なのに。僕はきっと、その人を一目見てしまっただけで、忘れようとした物全てを思い出してしまうと思います」

 目を見開く。本人の口から連ねられる幾つもの言葉全てが未来形なのは、再会を果たした事を知られない為だろうか。違う解釈しか出来ないのは、この場でただ俺一人だけ。

 お前は今、迷ってるのか。

 そんな現在形。

「楽しかったことや辛かったこと。その全てを共有していた相手が目の前に現れたら、僕は多分、貪欲になってしまうと思います。その貪欲の中に何が詰まっているかは、僕にも分からないんですけどね」

 最後に困ったように笑った顔は、フラッシュで良く見えない。

 さっきまであんなに近くではっきりと見えていたのに、見えない。でも俺の隣にコイツがいるなんて真実は正しく、だから俺はその矛盾した現実に、悲しくて笑った。

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