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精霊の翻訳家ルミナ ― 不器用な愛を救う小さな使者 ―

読む前に。


世界観:魔法というより「精霊の声と色・音の力」を中心とした異世界。血筋や家柄よりも「能力と信頼関係」が物語の軸


人間の会話「」

人間の本音・心の声:『 』

精霊(妖精)のセリフ:〈 〉

ルミナの心の声: ( )

パパの表向きのセリフ(咆哮):【 】(カタカナと漢字。唸り声も含む)


第1話:小さな翻訳者 〜咆哮の奥の愛を知る〜


音のない牢獄(前世)


 そこには、色も音もなかった。

地下室の石床から伝わる凍るような冷たさ。前世の私は、祈りを捧げるためだけの「生贄の聖女」だった。

 私は国を救うための「装置」であり、人間として扱われたことは一度もない。

「お前は何も話さなくていい。ただの道具なのだから」

神官たちの冷徹な声が、耳だけでなく心まで凍らせる。

(……痛い。苦しい。誰か、助けて……)

 声を出すことを禁じられ、愛を知ることもなく、私はただ沈黙の中で命の灯火を消した。

(次は……もし次があるなら、誰かと笑い合いたいな……。うるさいくらい、賑やかな場所がいいな……)

 そんな小さな、けれど切実な願いさえ、誰にも届くことなく暗闇に飲み込まれて消えた。この「拒絶された記憶」は、今の私にとっても消えない刺青のように心に刻まれている。



色彩の爆発(今世)


「――お嬢様。ルミナお嬢様!」

 弾けるような音とともに、視界に鮮やかな色が飛び込んできた。

 窓から差し込む黄金色の陽光、風に舞うカーテンの白。4歳の体で目覚めた私は、前世にはなかった圧倒的な「光」と「音」の濁流に溺れそうになる。

(ここは……? 私、生きてる?)


 自分の小さな、マシュマロのような手を見つめる。すると、その指先にピンク色の光の粒が集まり、羽の生えた小さな精霊たちがふわりと飛び出した。

〈ルミナ、おはよ!〉

〈今日もお花みたいに可愛いね! 世界一だよ!〉

 精霊たちの声は歌のように脳裏に響く。どうやら私は、精霊のささやきやが「色と音」で見える能力を持って生まれたらしい。


 しかし、この公爵邸の空気は、外の光とは裏腹に、氷のように硬く張り詰めていた。

「お嬢様、失礼します。……旦那様がお呼びです」

 迎えに来たメイドのアンは、まるで死刑執行を告げる役人のように顔を真っ青にし、手はガタガタと震えていた。彼女が持つ銀のお盆が、カチカチと音を立てている。

(……怖い。パパ、どんな人なんだろう。前世の神官様たちより、もっと怖い人だったらどうしよう)

 前世の記憶が冷たい足枷となって、私の歩みを重くする。


 そんな私の不安を煽るように、アンがさらに真っ青な顔で震えだした。


 精霊が耳元でささやく。

〈主様のところへ行くなんて、アンはもうお葬式の準備をしてるみたいだよ!〉


 けれどそのとき、精霊の声とは別に、アンの胸の奥から直接響いてくるような「音」が聞こえた。


『ああ、神様。どうかお嬢様が無事に帰ってこれますように。ついでに、付き添いの私も食べられませんように……!』


(えっ……? 今の、アンの声?)

 私は驚いてアンを見上げた。彼女の唇は固く結ばれ、ガタガタと震えているだけだ。


(精霊さんの声だけじゃなくて、人間の心の中の声も……聞こえるの? 翻訳できるのは、精霊さんだけじゃないのかな……?)


 自分の新しい能力に戸惑いながらも、私は重厚な書斎の扉へと一歩を踏み出した。この力が、パパに対面した時に確信へと変わるとも知らずに。


 重厚な書斎の扉。扉の前に控えるベテラン騎士でさえ、冷や汗を流して直立不動で固まっている。


【……入レ】

 中から響いたのは、地面の底から這い上がってくるような低い声。


 アンは「ひっ!」と悲鳴を上げて床に膝をつき、そのまま亀のように丸まった。


 扉が開く。


 そこには、逆光を背負って仁王立ちする、熊のように巨大な男、ヴィクトル公爵がいた。

 彼がこちらを鋭い眼光で射抜いた瞬間、空気がバリバリと音を立てて引き裂かれた。


【キサマッ……! 何ヲシニ来タッ!! 失セロト言ッタハズダ……ッ!!】

【咆哮:オォォォォォォンッ!!!】

 窓ガラスがビリビリと悲鳴を上げ、部屋中の調度品がガタガタと震える。


(ひっ……!)

 ルミナは思わず耳を塞ぎ、その場にうずくまった。


 前世の「お前は道具だ」という冷たい拒絶の声が、パパの咆哮に重なってフラッシュバックする。


(やっぱり、私は望まれてないんだ。また、暗い部屋に閉じ込められるんだ――)


 ルミナの目から、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちる。あまりの恐怖に、小さな体が小刻みに震えた。


 そのときだった。

 恐怖で視界が滲む中、パパの頭上に信じられない光景が見えた。

 真っ赤なハートの形をした精霊たちが、パニックを起こしてのたうち回っているのだ。


〈ぎゃああああ! ルミナを泣かせたぁああ! 俺たちの主様のバカ!〉


〈見て、あの怯えた顔! 今すぐ土下座して謝りたいって、パパの心が叫んでるよ!〉


 ルミナは涙を拭い、呆然とパパを見上げた。

 パパは、今にも自分を斬り捨てそうな険しい顔をしている。……けれど、その奥から聞こえてくる“本当”の声は、あまりにも騒がしかった。

『あああああ! 泣かせてしまった! 俺のせいで天使ちゃんが泣いた! どうすればいい、お菓子か? 宝石か!? 俺の顔が怖いのか!? とりあえず愛してるぅううう!!』


(……えっ?)

 パパはあまりの緊張と興奮で、脳内がショートしているらしい。


 前世、私を突き放した神官の手は、血も通わぬ氷のように冷たかった。


 でも、今、目の前で剣の柄を握りしめて震えているこの人の手は、どうしようもないほどの熱を帯びている。

(この人は……私を、捨てない?)

 ルミナは勇気を出して、一歩踏み出した。そして、その震える大きな指を、自分の小さな両手でぎゅっと握りしめた。

「パパ。……怖がって、ごめんね。……お仕事、お疲れさま」


 一瞬。


 嵐のような咆哮が、ピタリと止まった。

 書斎を支配していた殺気が、まるで魔法が解けたかのように霧散していく。


「パパ。……本当はルミナに……『大好き』って、言いたいんでしょ?」


【…………ッッ!!!】

 ヴィクトルは茹で上がったタコのように顔を真っ赤にし、パクパクと金魚のように口を動かしたまま、石像のように固まった。


(あ、パパの精霊さんたちが嬉しすぎて踊り始めた!)


『ああああああ! 生きててよかった! 神様ありがとう! 一生この手を洗わないぞぉおお!!』


(……やっぱり。パパ、心の声がうるさいくらい、私のこと大好きなんだ)

 ルミナの心に絡みついていた“前世の記憶”が、パパの不器用な熱で、ほんの少しだけ溶けた気がした。


【……ッ……フ、フンッ……。勝手ニ、シロ……ッ!!】

【咆哮:グヌヌ……ッ!!】


『ああああああ! 離したくない! ずっとこのままでいたい! 今すぐルミナ専用の離宮を建てる! 結婚式には俺がルミナを担いで入場するぞぉお!!』


(……結婚式の話は、まだちょっと早いかな、パパ)

 顔を背けて、肩をガクガクと震わせる父の大きな背中を見上げながら、ルミナは満開の花のような笑顔を浮かべた。


「あの、パパ。……本当はね、ルミナも……パパのこと、大好きだよ」


【グハッ……ッ!!】

【咆哮:ヴォォォォォン……ッ!!】

 パパは鼻血を出しそうな勢いで天を仰ぎ、その場に崩れ落ちた。


〈主様が尊死たふとししたぁああ!〉


(……あ、パパが倒れちゃった。ちょっと、張り切りすぎちゃったかな?)


 孤独だった聖女が、世界一騒がしくて、世界一不器用な愛に包まれる。

 小さな翻訳家の、トラウマを乗り越える物語は、ここから色鮮やかに始まった。

 ……けれど、この時のルミナはまだ知らなかった。


 パパの「心の声」が、家臣や国中の人々にどれほどの誤解とパニックを招いているのかを。


 翌日。公爵邸の騎士団訓練場から、再び絶望的な咆哮が響き渡る。


【貴様ッ……! ソレデモ騎士カッ!! 叩キ折ッテクレヨウカッ!!】

【咆哮:ヴォォォォォォンッ!!!】


(……大変。パパ、またみんなを怖がらせてる! 今すぐ翻訳しに行かなきゃ!)

 ルミナはフリルを揺らしながら、慌てて廊下を駆け出した。


もしも気にいってもらえたら

☆で評価お願いします。

もちろん、ブックマーク、感想などもお待ちしています。よろしくお願いします。


「」『』()〈〉【】とルールあり分かりにくくごめんなさい。ですが、楽しく呼んでもらえると嬉しいです。

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