50.ウィルズ家終了の確約
「違うわっ! 誤解なの、私も被害者で……そう、イング男爵がすべて悪いのよ。我がウィルズ侯爵家も搾取されていたの! 本当よ!!」
大声で被害を訴えるが、信じる人はいないだろう。貴族は教養や知識を身に着け、家名を背負って生きていく。彼女の話が嘘であれ本当であれ、どちらでもいいのが本音だった。
この場に集まった貴族にしたら、過去騙されて自分達の寄付金が搾取された。贅沢な身なりでこの場にいる、元侯爵夫人……現在は夫の伯爵もいないので、ただのウィルズ夫人が元凶だということ。何より、すでに没落したイング家は平民で、大した財産を持っていないため回収が不可能なことが重要なのだ。
多少なり回収できる寄付金があるなら、信仰を尽くせなかった神や神殿、幼子への支援に回したい。この国の貴族の本音はここにあり、目の前で髪を振り乱して混乱する女が奪った金を宝飾品として身に着けている事実がある以上、手加減する理由はなかった。
「……おお! アクロイド伯爵、もう動いても平気ですか」
にぃにが心配そうな表情を作って、わざと大きな声を上げる。両側を騎士や執事に支えられて近づく男性は、私が知るアクロイド伯爵より一回り以上年配に見えた。苦労したのだろう、一気に老け込んだ感じがする。
涙を流す奥方を見る限り、もっと若い人だよね。あまり親しくなかったけれど、貴族の間でこの夫婦の仲の良さは有名だった。幼馴染みで、学院生活もその後もずっと一緒なのは噂で聞いている。
「ホールズワース公爵家キース様に感謝を。見苦しい有り様ですが、なんとか……」
「あなた!」
涙で濡れた顔をくしゃくしゃにして駆け寄る伯爵夫人が、夫に抱き着く。支え損なって倒れそうになるが、騎士が腕を回して堪えた。老執事は堪え損ない、尻餅をつく。慌てて立ち上がるが、心配した別の騎士が伯爵を支えた。
泣きじゃくる妻の髪を撫でながら、アクロイド伯爵は参加した貴族へ頭を下げる。このような状況に巻き込んだ詫びだろうか。貴族の礼には深さが足りないが、誰も文句を言わなかった。泣いてる奥さんを離せない状況で、一番深く頭を下げたんだもの。当然よね。
「っ、なんで……あ」
「黙らせておけ、煩い」
にぃにが指示を出した途端、駆け寄った騎士がウィルズ夫人を縛り上げた。慣れた手つきで猿轡を嵌めるけど、これって罪人を取り締まる時と同じだわ。ちらりと顔を窺うと「いいんだ」と笑う。どうやら全部分かっていて、この催しに参加したみたい。
「アクロイド伯爵家の名を使えば、簡単に皆が寄付金を出すと考えたのだろう。あくどい女だ。すでに夫も亡く跡取りは決まっていない。その上残された夫人が罪人となった。ウィルズ伯爵家は取り潰し、財産はすべて教会へ寄付する。これはブラッドリー国王の孫であるキースの名において、違えることのない約束としよう」
にぃにの確約に、貴族の間から拍手が沸き上がった。




