32.第二王子に策略ができたなんて
「虫もいいけど、可哀想だから離してあげてね」
「う、うん」
ママと買い物に出るメイベルの忠告に頷く。外見が幼くなったせいで、彼女の私への評価が変化していた。本当の幼女として扱われているみたい。
過去の記憶をよく思い出してちょうだい。私、ちゃんとした淑女だったわよね? 第二王子の婚約者の侯爵令嬢として、あなたと友情を築いたはずなのに。出かけない理由を捏造したにぃにが悪い。
見送った私は振り返り、腰に手を当ててぷくっと頬を膨らませた。怒ってるんですからね! 全力で訴える。くくっと喉を震わせて笑ったにぃにが「ごめん」と手を合わせた。まだ笑ってるじゃない。反省してない!
「反省する。次までにちゃんと別の言い訳を考えるから」
両手を合わせて拝むので、仕方なく許してあげた。私はちゃんと大人の淑女だもの。胸を張ると、にぃにが抱き上げた。最近、ママもパパも簡単そうに私を抱っこする。何も言わないとずっと抱っこされて一日が終わりそう。
「そりゃそうだ。俺達の小さなお姫様が、また抱っこできる年齢になったんだ。抱き上げるに決まってるだろ」
さも当たり前のように断言され、色々考えて納得した。そういえば、昔から幼い私って抱っこされてたわ。王子妃候補になって、王城へ通うようになったから減っただけよね。あのまま普通に貴族令嬢として生活してたら、結構いい年齢まで抱っこされていたと思う。
「庭がいいか」
にぃには天気のいい空を見上げて、侍女ローナにお昼の支度を頼んだ。広い庭の一画にある噴水の近くに移動した。ここは大きな木々が日陰を作っていて、とても居心地がいい。四阿を建てる計画があったけど、私が「このままがいい」と中止させたのよね。
雑談を交えながら、騎士のダンが運んだ絨毯を敷いて座った。見覚えがある。
「この人、誘拐の時に来た騎士さん?」
「ああ、そうだ」
にぃにに紹介されて、ご挨拶を済ませた。アビーを抱いて馬車から飛び降りてくれた人だ。ここで、アビーのその後も教えてもらった。彼女は元気で、宿屋の主人であるおじさんも無事。腹を刺された傷のせいでしばらく働けないので、にぃにがダンを手伝いに出してくれたらしい。
助かった後すっかり忘れて、こちらの生活に馴染んだ私って薄情だな。
「単に混乱してたんだと思うぞ」
ぐしゃりと髪を乱して撫でる兄は、どこまで行っても不器用で。メイベルみたいにしっかりしたお嫁さんが来ることにほっとした。過去に婚約しなかったのが不思議なくらい、お似合いだよね。
「さて、俺の話だったな」
「お願いね」
にぃには大木に背を預け、膝の間に私を座らせた。向かい合わせではなく、背中をにぃにに預ける形だ。安心するけど眠くなりそう。
「夜会で、俺はグロリアをエスコートした。綺麗に着飾った小さなお姫様の手を取って入場した時は、鼻が高かったな。皆がお前に注目していた」
だいぶ美化されているみたい。あれは宰相の息子であるお兄様も注目されていたのよ。婚約者のいない優良物件だもの。知らぬは本人ばかりなり。
「覚えているか? 一緒にシャンパンを手にしたが、すぐに俺は知り合いに呼び止められた。提出した街道整備の書類の話だったっけ。後でわかったが、あれは第二王子の策略だった」
俺とお前を引き離そうとしたんだ。言われて納得する。あの日、夜会なのに王妃殿下に呼ばれた母。エスコートする兄は呼び止められ、父も離れた場所で文官達と意見を交換していた。あれらはすべて、事前に計画されていたの? 驚きに目を見開き振り返った。




