22.美しさより実用性を優先した
メイベルのお詫びを兼ねたお願いで、夕食を一緒に頂くことになった。美味しいおやつを食べて満足した私が、お昼寝したせいよ。この幼い体はどうしても睡眠を長く取りたがる。興奮したのも手伝い、いつの間にか眠ってしまった。
乳母のエイミーとメイベルが交互に付き添い、私をしっかり休ませてくれたの。お陰ですっきり目覚めたけど、外は夕方だった。夕暮れで赤く染まる庭を見ながら、室内で呆然とする。他人様のお屋敷を訪ねたのに、爆睡するなんて。
「仕方ないのよ、体が欲しがる休憩ですもの」
メイベルは優雅に刺繍を施していた手を止め、私に微笑みかけた。近づいてぎゅっと膝に抱き付く。
「あらあら、本当に幼くて可愛いわ」
膝に私を座らせたメイベルは、甘い香りがする。昔と香水を変えたみたいね。以前はもっとスッキリした香りが多かったけど。変わったといえば、庭も屋敷の装飾品も全然違う。
四阿のステンドグラス、紋章じゃないのかな。いろいろと気になって顔を見上げるが、言い出せなかった。聞いていいかどうか、判断がつかないの。もし嫌な記憶と直結しているなら、無理に知りたくない。
もじもじする私の様子に、メイベルがくすっと笑った。
「グロリアらしくないわね。聞いていいのよ。嫌ならそう言うわ」
傷ついて食事が取れなかった過去もさらりと明かした彼女は、明るい声でそう告げた。無理をしている感じがない。だから、ようやく尋ねる決意が決まった。
「お屋敷やお庭の感じが違うんだけど」
「ええ。全部変えたのよ」
理由があって変えたみたい。メイベルは私の顔を胸に押し付けた。背中を優しく撫でる手が、心地いい。わざと顔が見えない状況にしたのかな? ふとそう感じた。
「庭は実用性を重視したのよ。以前の形では、隠れる場所だらけでしょう? あなたの死後、この国は各国から狙われたから」
そこから先は驚くべき話が続いた。私が殺され、王城が爆発した。この騒動は他国にも知られ、当然ながら王族が減った国を狙う者が現れる。救いの手を差し伸べるフリで、生き残った王族と婚姻して入り込もうと画策する者。攻め込んで正面から領土を切り取ろうと考えた者。
最終的にお祖父様が迅速に動いたことで、彼らは策略を実現できなかった。軍事国家ブラッドリーを敵に回してまで、奪うほどの魅力がないから。ただ地の利があるだけの国だった。
それでも一部の地域は攻め込まれ、他国による虐殺が行われたらしい。中には連れ去られたり、行方不明の民もいるとか。お祖父様がいくら早く動いても、自国からの指示は間に合わなかった。魔法が使えるお母様は、私の魂を繋ぎ止めるのに必死で、国の采配に手が回らない。
一段落するまでに、それなりの犠牲は発生した。周囲を封鎖して兵糧攻めにした際、メイベルはお母様達と同行している。だが屋敷に残された使用人は? その家族は……。
「だから広大な庭なんて役に立たないものは捨てて、野菜や果樹を育てることにしたのよ」
天気のいい日は、牛や馬も放牧されるらしい。庭というより牧場だった。緊急時の食糧になる上、見晴らしがいい庭は敵襲も分かりやすい。まるで戦時中のような発言に、なんとも言えない申し訳なさが浮かんだ。
「私のせい、だよね」
「違う、これは私の決断よ」
言い切った親友は、とても誇らしげな顔だった。




