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リヴァイアサン

「くっ…….」

 揺れる船の中、私の隣でアレンは腰を折り曲げて、笑いを堪える。


「アレン様いつまで笑ってるのですか」

「ごめんごめん、笑ったらだめだと思うと余計止まらなくて」


 私が名乗るとフレイヤは憑き物が落ちた様に大人しくなった。貴族に逆える平民はいない。


「ようやくスッキリ致しました」

「ルーシーがフレイヤにハッキリ言ってくれて僕はすごく嬉しかったよ。それに光が漏れでて女神様みたいだった」

「……」

 私は半目になってアレンを見る。どうもそれがアレンにとってはツボだった様だ。

 教会の人間には伝わる類の笑いなんだろうか。


「周りに人がいなくて幸いでした」


 仮面の君には巻き込んでしまい悪いことをした。彼がどう思ったかは隠れた顔からは伺い知ることができなかった。

「まぁ、直ぐに王都に帰ればなんとかなるよ。心配かけてごめんね」


 こんな言葉で許せてしまう自分が情けない。本当に恋愛って好きになった方が負けだと思う。


「心配なんてしておりません。でも折角の旅行なのですからもっと私に構ってください」

「ルーシー……!」

 アレンは嬉しそうに私に抱きついてくる。


 アレン様、自重!どうか自重してください!


 あれから3箇所程小島や港を停泊した後、最後の目的地へと船は進む。

「最後の島は何処が見所なんでしょうか」

 私が窓を眺めながら聞くとダニエルが答えてくれた。

「次はミーク島です。国境間際の島ですね」


 カークが、エリスの事を忘れていませんか?と言ったのはスルーする。この船にそれらしい人がいないのだから仕方がない。やはりフレイヤに騙されたんだろうか。



「国境……どこの国との国境ですか?」

「レオン帝国に決まっているだろう?」

 カークの言葉に耳を疑う。

「えっ?どこですって?」

「だから、レオン帝国だって」


 船でもいけるのかな。いつか行ってみたいな。ゲームでも行ったことないし。どんな国なんだろう。


「レオン帝国がどうかしたの?」

「いいえ。なんにも!」


 アレンが疑惑の目をしているが、終わったことを変に心配かけたくはない。

「その顔は何か隠してる顔……」


 アレンに詰め寄られた、その瞬間船がぐらりと揺れた。


「何!?」

 船が横に傾きかけ、人々から悲鳴が上がった。船は転覆することは無かったものの、未だ大きく揺れ続けた。


 海の水をかけわけ泳ぐ音が聞こえる。


 何かが海にいる?


 私とアレンは甲板へと走る。青空が見えたと同時に大きな水の柱が立ち、魔物が姿を現した。


「リヴァイアサン……!?」

 嘘でしょ。


 リヴァイアサンは水の龍に近い姿をしている。顔が水龍よりも恐ろしく、そして強い。ゲームで出現した際はイベント扱いで、船についた大砲で倒した。当然クルーズ船にそんなものは搭載されていない。


「チェルシー……!?」


 気がつくと私の体は透けていた。最近はそんな事は無かったので油断していた。


 こんな時に!


 私は自分の魔力に集中し体に巡らせる。



「どうして!?」

 アレンは驚きに目を開き、私を見る。

「大丈夫です、すぐ治ります。それよりもリヴァイアサンを」

「でも、チェルシー。それは一体いつから?」


 私達のやりとりを敵は待っていてくれない。リヴァイアサンは体当たりをして船をすぐ隣にあった小島に押し付ける。

「危ない」

 アレンは柱に捕まり、私をかばう様に抱きしめる。


 ガリガリと小島の崖に船側に擦れ摩擦で壊れていく音が響く。


 暫く島沿いに船を押し付けられ小島の崖にひっかかりついに止まった。


 そして完全にリヴァイアサンに囚われた形になった。



 辺りを見回すと飛んできた石や割れた船側で怪我をし倒れた人でいっぱいだった。


「聖女様!助けて下さい」

「聖女様!」


 私が声のする方をみると、少し離れた所にフレイヤがいた。彼女の元に怪我人やその家族が集まる。


「待ってください、私は……」

 大怪我をしている人もいる。フレイヤが持っていた薬ではとても助けられない。


「早くしておくれよ!一刻を争うんだ」

 おじいさんがフレイヤの手を掴む。

「ひっ。や、やめて!!」

 フレイヤの顔は真っ青だった。


 リヴァイアサンの叫び声が上がる。その声を引き金にフレイヤは叫んで船内に走り去って行ってしまった。


 人々から絶望の空気が漂った。


 リヴァイアサンなんてどうやって倒したら……。いや、その前にこの状況を立て直さなくちゃ。


 私はアイテムボックスから聖剣を取り出した。人前に出すのは初めてだ。


 アレンはそれを見て目を見張る。

「聖剣!?どこでそれを!?」

「ノエルに貰いました。わたくしは結界と回復を致します」

「わかった」


 アレンは魔法の詠唱に入る。

 私は剣を構えて歌を歌い船全体を結界で覆う。結界から大量の子魚が飛び出し怪我人に降り注ぐと傷口はすぐ様塞がっていく。


 私は怪我人が集まる場所へ行き、マントをとった。

「チェルシー・シュガーレットです。暫くは結界で攻撃を防げます。一度落ち着いて船内に避難してください」


 周りの人々は一瞬で傷が塞がったのををポカンとしながら確認し、歓声あげた。

「聖女様!?本物の?」

「すごい、奇跡の力だ」

「あの剣、教会の絵見たことがあるぞ!」


 良かった。とりあえずパニックは防げた。

 私がホッとすると、アレンは魔法を発動させた。

 無数の雷がリヴァイアサンに落ちる。リヴァイアサンは苦痛に満ちた鳴き声をあげ、結界をばりばりと引っ掻く。


 攻撃はアレンがしてくれる。

 私は結界を2重3重に張り、守りを強化した。



「ふぅん。あの頃より強くなってるんだぁ」

 私の背後から声がした。その声は私がずっと探していた声だった。


「エリス……」

「なんでそんな驚くの?僕を探してここまできてくれたんでしょぉ?」


 エリスは嫌な笑顔を浮かべうさぎのぬいぐるみの手を振ってみせた。

「あのリヴァイアサンはずっとこの船を狙い続けるよ」

 エリスはするりと背後から私の腰に手を回しひっついてきた。

「何故そう言えるのですか?」

「この船の貨物庫に薬を仕込んだんだぁ。魔物を引き寄せ、興奮させる薬。でもリヴァイアサン(上級魔物)がきたのは運が良かったなぁ」


「情報ありがとうございます。では早めに倒さねばなりませんね」

 私が剣を握り直すとエリスはあはは、と笑った。

「僕がいるのに出来ると思う?」

「どういう意味です?」

 冷や汗がしたたり落ちる。


「こういう意味だけど?」

 エリスはそう言って魔法で小さな火を出し船側に投げた。

 魔法で起こした火は船をあっという間に包む。


「何を馬鹿な事を!貴方も死にますよ」

「死んでも構わないんだよなぁ」

 エリスはくすくす笑って煙の中に消えていく。

「待ちなさい!」

 伸ばした手は空を掴む。


「もう、あとちょっとで捕まえられたのに」


 先に乗客の安全を確保しなくちゃ。


 私は魔力を集中させ召喚魔法を使う。

〈召喚〉(サモン)〈魔王〉(ノエル)



 煙を風で撒き散らしノエルは現れた。

「今日はまた煙たい所に喚んだな」

「お願いします、助けてくださいませ。この船の人間を安全な場所まで運んでくださいませんか?」


 頭上からはリヴァイアサンの叫び声がし煙の奥に胴があるのが見えた。


「お前はまた、何をしていればこうなるんだ」

 ノエルは呆れた声を出すが、私のせいではない。

「わたくしはあの子を追います!後はお任せしますね」


 はやくしないと逃げられてしまう。私はエリスが消えた煙の中に飛び込む。

 頭上から叫び声がし、見上げれば、大きなシャボン玉のようなものに入った人間が次々と宙に飛んでいく。

 それは以前レオン帝国の爺と呼ばれていた人物が拘束されていた玉だ。


 ノエル!心強すぎます!


 私はまっすぐ走りピンクアッシュの頭を探す。

 その派手な頭は船首にあった。


「貴方だけは一発殴らねば気が済みません」

「1人になるのを待っていたよ」


 背後から急に人が飛び出してきた。ずっとひそんでいたのだろう、煙で全く見えなかった。


 不意を突かれ首に何かをつけられたが気にせず私は襲いかかってきた男達を蹴り倒す。


「やっと貴方に会えて嬉しく思います」


 私がエリスに飛びかかった瞬間、四方八方から重りのついた網が飛んできた。

「これは!?」


 覆いかぶさる網が足や剣がひっかかり上手く身動きが出来ない。


 男達の手が伸る。


 やばっ!捕まる!


 しかし、敵の手が届く寸前マストがバリバリと音を立てこちらに崩れ落ちてきた。


「危ねぇ!避けろ!」

 男達は一目散に散っていく。


 私の近くで落ちたマストは砕け散り、その衝撃で船に割れ目が入った。


「きゃっ!」

「はっ、うそでしょ!?」

 船首は折れ、ぐらりと床が傾く。私とエリスを乗せたまま折れた船首は海へと落ちていった。

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