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召喚する前に説明会



 エイベルの部屋は余計なものが何一つない殺風景な仕事場だった。目を引くのは脇机に積まれた沢山の本や書類だ。魔術師の仕事は実は多岐にわたっているようだが、エイベルの仕事は主に研究だ。


「エイベルにはきちんと説明していると思うけど、私達はよく知らないからね。教えてくれないかな?」


 リアムはそう言ってわたしに説明を求めた。今の学園の構想に浮気防止の仕組みを入れようとしていることを伝えた。


「浮気防止」

「そうです。婚約者を持つ人を対象としています」


 そして、流行りの怖い話をモチーフに浮気している相手と二人であうと恐ろしい出来事があると思わせて会う気持ちを削ぐつもりだと説明した。


「面白いことを考えるね」


 説明している間にも、お腹を抱えてひーひー笑っているオーガスタにわたしはとても気分を害していた。


「初代国王の像を走らせる、誰もいない部屋からすすり泣く声が聞こえる、トイレで髪を引っ張られる、階段が増える、歴代の国王の肖像画が血の涙を流す、廊下を歩いていると後ろからついてくる足音が聞こえる……!」


 オーガスタは笑いながら、復唱している。どこがおもしろいのだ。むすっとしていると、リアムが苦笑しながらわたしに聞いた。


「少し変更してもいいかな?」

「変更ですか?」


 不機嫌さを全開に問い返せば、リアムは頷いた。


「そう、誰もいない部屋からすすり泣くでは警告としてちょっと弱い。だから、常に恨み言を耳元で囁くことにした方がいいと思う」

「あ、それなら、トイレの髪を引っ張るだけど。浮気相手と接触したら毛が逆立つ方がいいと思う。キスしようとした相手の毛が逆立ったら100年の恋も冷めるはず」


 リアムの変更案にオーガスタは身振りを交えながら変更案を出してくる。なんとエイベルさえも変更点を伝えてきた。


「肖像画が血を流すも、肖像画がなければ意味がない。浮気相手の顔から血の涙を見せてはどうだろうか。もしくは鏡を見るたびに自分の顔が血らだけになるとか」


 案外、えげつない修正案に息を飲む。リアムはふっと笑った。


「考えてもごらんよ。浮気をするのはジョセフのようなクズだ。このぐらいしないと浮気の警告だと気がつかないと思わないか?」

「確かに」


 わたしは頷くことしかできない。ジョセフは無駄に前向きで、些細なことなど気にしない性格だ。それに鳥のように忘れっぽい。ガツンと心に刻むにはかなりの反復学習が必要になる。


「初代国王を走らせるのはどうなんだろう?」


 オーガスタが首を捻って考えている。エイベルも想像しているようだ。


「浮気する相手の方へ近づくと、後ろから超高速で走ってくるのを想定しています」

「何で実現するつもりだった?」


 リアムが何となく想像しているようだ。わたしはこれには胸を張った。すごく頑張って考えた。わたしだって畑違いでも考えることができるのだ。


「もちろんゴーレムを使います! 初代国王の銅像にゴーレムのコアを入れたら動きますよね?」

「え? ゴーレム???」


 どうやら二人の魔術師たちには不評だったらしい。わたしは唇を尖らせた。


「ゴーレムには色々な形が取れると聞いています。そのくらい大丈夫でしょう?」

「ははは。ゴーレムか」


 楽しんでくれたのはリアムだけだった。わたしはぐっと拳を握り、力説した。


「そうです。ゴーレムです。あの重量感が現実味を帯びていいと思うのです。どしんどしんと重い音を響かせて後ろから迫ってきたら怖くないですか? 逢引きどころではなくなるはずです」

「そうだね。少なくとも私は体験したくないかな。できなくはないだろう、二人とも」

「ええ、まあ。ただ、通路が割れる可能性がありますが」


 通路が割れると聞いて今度はわたしが首を傾げた。オーガスタが残念な子を見るような眼差しでわたしを見る。


「あのね、レティーナ嬢。銅像ってかなりの重さがあるんだ。ゴーレムもね。だから超高速で走らせたら間違いなく地面がくぼむ」

「え、できないの?」


 実現できても他に被害があるようなものはいただけなかった。できないという発言が魔術師たちの誇りを傷つけたのか、二人とも難しい顔になる。


「レティーナ、できなくはない」

「そうだよ。できなくはないんだ。ただね……。浮気防止のたびに通路が壊れたら困るでしょ?」

「通路自体を強化すればいいのでは?」


 魔術師二人は黙り込んだ。彼らの頭の中では何かが忙しく計算されている様子だ。


 そんな二人を横目に、リアムがお茶を勧めてきた。どうやら話し合っている間にわたしの連れてきた侍女が用意してくれたようだ。勧められるままリアムの対座に座り、お茶をもらう。


「このお茶、なかなかおいしいね。君の家の侍女は優秀だな」

「お褒め頂いてありがとうございます」


 褒めらえて嬉しくなってついお礼を言う。お茶を飲み、菓子を食べていると二人がようやくこちらに意識が戻ってきた。


「適切な魔道具を一つ一つ用意するのも面倒だから、すべて魔獣にさせようよ。高位の幻術系の魔獣を捕まえたらいいわけだし。リアム殿下がいれば余裕でしょ」

「そうだな。それが一番楽だ」


 オーガスタの提案にあっさりと頷くエイベル。

 高位の幻術系の魔獣なんて簡単に言っているけど、召喚できるものなのだろうか。わたしの疑問に気がつくことなく、二人は色々と話し続けている。


「どうやら答えが出たようだな」

「殿下もいるのなら可能です」


 リアムが二人に問えば、彼らは頷いた。


「では、始めようじゃないか」


 3人の魔術師たちは召喚の魔法陣のある部屋へと移動した。




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