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温泉物語  作者: 蒼乃みあ
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第三十五話 中央都 前編


 うーん、眩しい…。カーテン締め忘れた…。


 カーテンの隙間から差し込む光に呻き声を上げたが、未だ夢の中。私はそのまま二度寝をしようとして、ハッとする。


「朝だ!」


 今日は学校の外に出て、町の探索するのだ。温泉に入るのに必要な浴槽をゲットする為に!


「ふふ、楽しみだなぁ。立派な浴槽を見付けて、今日は温泉に入るんだから…!」


 ササっと準備を済ませて、私は二人が迎えに来るのを部屋の中で待った。朝食は氷室の中にあった物を軽く摘まんだので、多分大丈夫だろう。

 暫く待っていればアルベルト達の姿が見えたので、私は下の階へと降りて出迎えた。


「おはようございます、アルベルト様、ジェイク様。」

「おはようございます、アイシャ殿。」

「今日は楽しみですね!」

「はい、私もです!お二人には御迷惑をお掛けしますが、本日は宜しく願い致します。」


 私はニコニコとした笑顔で、二人と共に学校の正面門へと向かった。


「本日外出届を出したアルベルト・フィングレンダルです。」

「同じく、私はジェイク・フィン・ドリアです。」

「私はアイシャと申します。」


 門番に門を開けてもらう為、外出予定者の名前を確認してもらう。その場で少し待つように言われ、受付の人が後ろにある棚から数枚の書類を取り出した。

 ジッと確認して数分後、許可が無事に出た事で門番が正面門を開けてくれた。


「気を付けて行ってらっしゃい。」

「行って参ります。」


 大きな門がギギギ…と、開かれた。町へと向かう為に、私達はそのまま歩き出す。


 おお、初めての学校の外だ…!ちょっと…と言うか、かなりドキドキする。


「馬車が用意してあるので、そこまで少し歩きますね。」

「…馬車、ですか?」

「町に出るならば馬車は必要でしょう?」

「そ、そうなのですか…。」


 私がユレイドの町に居た時には、馬車なんて殆ど乗った事が無かった。家から仕事場に行く時も徒歩だったし…。

 アルベルトの言う通り、少し歩けば馬車が見えてきた。その横にはアレフさんとチャックが居た。


「お待ちしておりました、皆様。」

「おはようございます、チャック様、アレフ様。」


 どうやらアレフさんは馬車番、チャックは護衛として一緒に行動するらしい。


「本日は宜しくお願い致しますね。」

「こちらこそ、お願いします。」


 四人で馬車の中に入ると、アレフさんが馬車を動かし始めた。ガタゴトと揺れながら馬車の中で話し始める。


「ヨクソウですか?うーん、私にも分からないですね…。」

「そうですか…。」

「ですが、中央都の町ならばアイシャ殿が欲しがっているモノがあるかもしれませんね。」

「……!!そうですよね!きっとありますよね!」


 チャックがこう言うのだから、きっと手に入るに違いない。私はチャックが少し引いてるのにも気が付かずに、やる気を出してワクワクしている。


 暫く揺れる馬車の中で色々とお喋りしていたら、外からアレフさんが声を掛けてくれた。


「そろそろ町の中心部に着きます。」

「分かりました。」


 実はもう町の中に入っていたらしい。話に夢中で全然気が付かなかったが、良く外の音を聞いてると確かにがやがやと賑やかな声が聞こえてくる。


「わ、いつの間に町に…。」

「ふふ、結構前から町に着いてましたよ。」

「…気が付きませんでした。」

「お話に夢中で、私も気が付きませんでした…。」


 どうやら、ジェイクも気が付いていなかったようだ。少し恥ずかしそうに顔を逸らしている。


 ちょっと可愛いと思ってしまった。


「あ、着きましたね。」

「私が先に下ります。」


 ガタゴトと揺れていた馬車が、ピタッと動きを止めた。チャックが安全の為に一番最初に降りていく。次にアルベルト、ジェイクと降りて行って、最後は私だ。

 毎回アルベルトが手を差し出してくれるので、その手を取って馬車を降りるけど、これって必要な事なのだろうか?普通にぴょんと馬車降りた方が早いような感じするんだけど…。


「わぁ…!凄い…!」


 馬車から降りて町の中をぐるりと見回した。ユレイドの町よりも賑わっていて、活気のある町だった。様々なお店が立ち並んでいて、かなりテンションが上がっている。


「ユレイドの町よりもずっと大きいですね!色んなお店があって、凄い賑やかです!」

「…ふふ。アイシャ殿は楽しそうですね。」

「あ、そ、その、すみません…!」


 興奮していたせいか、どうやらはしゃいでしまっていたらしい。さっきのジェイクの様に、恥ずかしさで顔を逸らしてしまった。


「まずはアイシャ殿が気になったお店から見ていきましょうか。」

「アイシャ殿、何処から行きますか?」

「え、えっと、その…。」


 私が行くところを選んでも良いのだろうか?うーん、気になる所は沢山あるけど、どうしようか…。


「ふふ。悩んでいる様なので、まずは私達が案内しましょうか。」

「…お願い致します。」


 見かねたアルベルトが、先に町を案内してくれると言ってくれた。私はその言葉に甘えて、彼等の案内に着いて行く事にした。


「わぁ、可愛い…!」


 まず最初に連れて来られたのは、雑貨屋さんだった。ユレイドの町にあったお店よりもずっと大きくて広いそのお店は、ちょっと敷居が高い様に感じた。

 明らかに良い所のお嬢様とかが来そうなお店である。私が居ても良いのだろうかと、ちょっとだけ不安になってしまう。


 まあ、お店の商品見てたら、そんな気持ちも吹き飛んだけど。


「凄い綺麗ですね…。こんなに可愛いの、初めて見ました。」

「そうですね。アイシャ殿に、とても似合っていますよ。」

「こちらもどうですか?銀色の髪飾りですが、アイシャ殿の黒い髪にとても映えると思います。」

「確かに素敵ですね、ジェイク殿。それなら、これも如何でしょう?」

「わぁ、流石アルベルト様です!アイシャ殿、凄い素敵ですよ!

「あ、ありがとうございます…。」


 アレコレと装飾品を私に宛がっては、どれも似合っていると楽しそうに話している。


 …いや、どれも高そうだし、私には豚に真珠と言うか、猫に小判と言うか…。普通に考えても、過ぎたモノだと思うんだけどな…。


「アイシャ殿は何か気に入った物はありましたか?」

「えっと、どれも素敵な物なので…。ですが、私にはちょっと過ぎたモノかな、何て…。」

「いいえ、そんな事はありません。どれもアイシャ殿に似合っていますよ。」

「そ、そうですか…。」


 流石に簡単に手が出る物ではないし、こう言うのは見てるだけで十分なんだよなぁ。こうやって色々と見繕ってもらっても、買う事が出来ないんだよね。


「折角ですし、何か贈りましょうか。アイシャ殿、どれが欲しいですか?」

「えっ、えぇっ…!」

「それなら私も贈りたいです!何が良いですか?」

「いえ、そんな、何もいらないです!私は大丈夫ですから!」


 待って、待って、待って!いやいやいや、急に何を言い出してるんですか…。


「アイシャ殿は、気に入った物が無かったのですか?」

「そう言う訳では…。」

「では、どうしてですか?」

「えっと、その、贈り物を頂く理由が無いですから…。」


 不思議そうに首を傾げたアルベルトとジェイクが私を見る。急にこんな高そうなもの贈られても、困ります。止めて下さい…。


「……?ですが、女性に贈り物をするのは普通ではないのですか?」

「あいにく、その様な常識はまだ習っておりませんので…。ですが、本当に結構なのです。」

「でも……。」

「アルベルト様、ジェイク。相手が望んでいないのであれば、無理にお渡ししても困らせるだけでございますよ。」

「チャック殿。」

「親しい方に贈り物をするのであれば、相手も喜ぶ物でなければいけません。困らせては意味がありませんよ。」

「兄上…。」


 つまり、簡単に言えば仲良しのお友達にプレゼントって事?だけど、そんな高い物を貰える訳がない。


「その、私、装飾品を頂いても、中々着ける機会が…。」

「それでは、他の物なら良いのですか?」

「えっと…。私、既に親交パーティーについて色々と助けて頂いてますし、それで十分なのですが…。」

「…アイシャ殿がそう言ってる事ですし、無理に贈り物をする必要は無いのではありませんか?」


 チャックはどうやら二人を諫めてくれるらしい。物凄い助かる!


「…そうですね。アイシャ殿を困らせる事は望んでないので、今回は辞めておきます。」

「私もそうします。アイシャ殿、困らせてすみません。」


 アルベルトとジェイクは、無事に諦めてくれたみたいだ。何で贈りたかったのかは分からないけど、ホッとした。

 私はただの平民で、貴族である彼等に贈り物をしてもらえるような立場じゃない。何だか、段々とシャーロットの様になっていくのが、少し気持ち悪く感じてしまう。


 勿論、彼等の好意は有り難いけど、理由も無しにそんな物は貰えない。


 そもそも、家族以外の男性に贈り物とか、貰った事が無いのだ。どうしたらいいのか、分からない。


「いいえ。私の方こそ、お気を使わせてしまい、申し訳ありません。お二人のお気持ちは、大変嬉しく思います。」

「そうですか。では、また別の機会にでも。」


 ニコリと微笑んだアルベルト達に、私はお礼を言ってお店を出た。また別の機会、何て言われても、次も出来れば受け取りたくはないな。


「アイシャ殿、次はあちらのお店に行きましょう!」

「わっ…!お待ち下さい、ジェイク様。」


 アレから他のお店に幾つか見に行ったが、何処も高そうなお店ばかりだった。中央都のお店はどれもこんな高いお店しかないのだろうか。平民の私にはかなりきついお店ばかりだ…。

 ジェイクはかなり気持ちが高ぶっているのか、ニコニコと笑いながら楽しそうにしている。いつの間にやら握られていた手を引っ張っていくので、彼の足についていくのが大変だ。


「こら、ジェイク。余り走るな。」

「あ、すみません、兄上…。」

「ふふ、ジェイク殿はとても楽しそうですね。」

「アルベルト様…。はしゃいでしまい、申し訳ありません。」


 チャックに注意を受けたジェイクは、しょぼんと表情を曇らせた。アルベルトはその様子をクスクスと笑い、今度は恥ずかしそうに俯く。


「大分町中を歩きましたし、そろそろ昼食にしては如何でしょうか?」

「確かにもうお昼頃ですね。アイシャ殿はどうですか?」


 チャックがそう提案すると、アルベルトが私に向かって聞いてきた。そう言えば、ちょっとお腹空いてきたかもしれない。


「そうですね。私も少し、お腹空いてしまいました。」

「では、私のお勧めのお店に行きましょう!」

「こら、ジェイク!」

「構いませんよ、チャック殿。ジェイク殿、何処に向かうのですか?」


 何故かチャックがジェイクに注意するが、意味が分からなかった。アルベルトも気にしてる様子は無いし、どうかしたのだろうか?


「東側なら、家族でよく行くお店があるのです。ねえ、兄上!」

「…そうです。ミレイアという店なのですが…。」

「私は行った事が無いお店ですね。とても楽しみです。」

「お二人が良く利用しているお店なんて、私も楽しみですわ。」


 楽しみと言われたジェイクは嬉しそうに、こっちです!と、弾んだ声で私達を案内した。チャックが静かに溜息を溢すと、諦めたように一番後ろに着いた。


 少し歩けば、ジェイクの言っていたお店に着いたらしい。お店の前には行列が出来ているが、そこまで待ち時間はなさそうだ。お昼とは言え、色んなお店がある中でも行列が出来る程なら期待してしまう。

 そう考えていたら、アルベルトとチャックが二人で先にお店の方へと入っていった。私は不思議に思っていたが、ジェイクが手を引いて一緒に行くように言うので、私も付いて行った。


 中で受付して順番を待つ感じなのかな?


「アルベルト様、あの…。」

「アイシャ殿、こちらですよ。」

「えっ…。」


 私は店主と話していたアルベルトにどうすればいいのか聞こうとしたら、奥の方にある個室へと案内された。


「あ、あの、外で並んだりは…。」

「何故ですか?」

「だ、だって、お店の外には行列が…。」

「アレは全員平民なので、私達には関係ありませんよ。」

「ええっ…!」


 …アルベルト達が言うには、貴族と平民では案内される場所が違うらしい。貴族が平民に交じって並ぶような事は無く、階級によって振り分けられた部屋へと案内してくれるそうだ。

 幾らなんでも、あんだけいた行列を無視して食事をするのは、ちょっと気が引けた。


「私がお願いしたので、私達はこちらで食べるのです。」

「アルベルト様は侯爵家ですからね。この店の一番良い部屋で食事を取る事になります。」


 貴族社会は、本当に訳が分からない…。今まで係わった事の無いのだから、分かる筈も無いけれど…。


「アイシャ殿は何か食べたい物はありますか?」

「あ、その…、お任せ致します。この様なお店に来た事が無いので…。」


 明らかに高級そうな内装の個室があるお店の料理なんて、何が出てくるか分かったモノでは無い。ここは彼等に任せるのが一番だ。


「では、こちらのコースにしましょうか。」

「アルベルト様は如何ですか?」

「私も同じで構いません。それでお願いしますね。」

「畏まりました。」


 チャックがテーブルの上にあったベルをチリン…と鳴らせば、部屋の扉がノックされた。現れたのはさっきの給仕で、四人分の注文を受けると綺麗な礼をして直ぐに出て行った。

 料理が到着するまでは、午前中に回ったお店に着いて色々とお喋りである。ちょっと驚きもあったが、何処もユレイドの町と違っていたので、とても新鮮で楽しかった。午後は浴槽を探すので更にワクワクする。



 少しして出てきた料理は、これまた高そうな格式のある料理だった。

七月の更新について活動報告に記載致しました。

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