始まりの朝
「ねえ、君は今幸せかい?」
「幸せ、というと分からない。だが俺は現状に満足してる」
「かつての仲間たちと、今は他人でも?」
「ああ」
「副長としての武勇を、誰も知らないとしても?」
「構わない」
「後悔はない?」
「ないさ。かつての敵が仲間で、かつての仲間と今も仲間で、俺のしたことは俺が覚えてる。何より、お前が生きてる。俺にとって、最上の結果だ」
「アルマ」
「なあメンテ、お前は何回繰り返した?何回死んだ、何回仲間が死ぬのを見た」
「もう覚えていないよ」
「あの夕方の、恐ろしさを覚えてるか?」
「…………」
「俺が覚えてるのは一度だけだ。ただ一度、お前を殺され、それからフスティシアに殺された。身体中痛いのも気にならないくらい、お前のことを呼んでた。お前の所へ行きたかった。お前が殺された瞬間、俺は怒った。悲しかった。お前のいない世界が怖かった」
「アルマ」
「お前のいない世界じゃ息ができないと思ってた」
「……そうかアルマ、君はもう生きられるんだね」
「ああ、俺はもう一人で歩けるよ」
「僕も、怖かったよ。あの夕方が」
「…………」
「フスティシアと話をした。これしか方法がないって聞いた時は馬鹿馬鹿しいと思ってた。でも彼はいつでも本気だった。何度死んでも何度死んでも、僕は故郷に戻ってきてた。小さな町でさ、両親は新聞記者だった。家の前の運河にはゴンドラが浮いてて、人のたくさんいる街だった。」
「メンテ」
「何度繰り返しても、何回死んでも何回生きても、僕は家族や故郷を助けることはできなかったし、死んでいく仲間を見送るしかできなかったし、国を救えることもなかった」
「それでも俺は」
「僕は君の知らない過去、君のことを見捨てたことがあったよ。国のため、未来のため、そのためにしかもう生きられなかった。終わるためには、平和な未来を迎えるしかなかったんだ」
「俺はお前に救われてた」
「…………」
「なあ、メンテ。もう生きようぜ。死んでいつかまた始まってとか、そんなんじゃなくてさ。生きて、この国の未来を見てやろう。成功でも、失敗でも、俺たちの歩いた先に、戦った先に何があるかちゃんと見に行こう」
「…………」
「もう死にたくない。生きたいんだ。俺も生きて、メンテも生きて、それから今まで見られなかったこの国を見ていよう」
「ねえ、アルマ」
「なんだ」
「僕は、もう死にたくないよ。この国の幸福のために戦って、それでどうなるか、見届けたいよ」
「ああ、だから一緒に生きよう。もう死んだりしない。生きるのを諦めたりなんかしない」
「ねえアルマ、話したいことがいっぱいあるんだ。とても長くなるかもしれないけど、聞いてくれるかい」
「ああ、聞こう。お前が生きてた全てを聞くよ。何も知らなくても、少しでもお前の歩いてきた道を知りたいから」
「なあメンテ、紹介したい奴らがいるんだ。お前がどう思うかはわからない。でも今の俺にとって大事なものだったんだ」
「いいよ、僕のいない世界で君がどう生きてきたのか教えてくれ」
「大丈夫、時間ならたっぷりあるからさ」
連載から3年半、32万字、読了ありがとうございます!
最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました!