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暁に消え逝く星  作者: ラサ
第六章
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新たな敵


 アウレシアは小さく舌打ちした。

 どうしてここがわかったのだろう。

 主力は向こうではなかったのか――?

 様子をよく見ると、男達はどこかしら薄汚れ、服はところどころ切られた跡がある。

 一行を襲撃したはいいものの返り討ちにあって、仲間と合流しようと逃げてきた――というのが正しいのだろう。

 こうなると、失敗だった。

 アルライカを行かせるのではなかった。

「グレン、逃げるよ」

 短く呟いて、アウレシアは剣と短刀を抜きざま、イルグレンの前に出る。

「レシア!!」

 人数が多いので、殺すよりまず、足止めしなければならない。

 瞬時に判断し、動いた。

 体勢を低く走りより、アウレシアはすり抜けざまに素早く足を狙う。

 人間と馬、両方の足を薙ぎ払うと、両方の悲鳴が上がった。

 倒れこむ男と馬。

 馬は倒れながら痛みにもがく。

 そうして、今度は近くの馬と男達が手当たり次第に蹴られて、周囲は一気に恐慌状態になる。

 倒れこむ馬を避けようと、男達がそれぞれの馬から離れる。

「グレン!!」

 振り返って叫ぶと、イルグレンはちゃんと着いてきた。

 そのまま男達の脇をすり抜け、馬で追ってこられないよう木々の間を抜ける。

 馬を隠してあるところまで行かなければ。

 それまで、なんとしても距離を稼がなくてはならない。

 男達が追ってくる。

「グレン、馬に乗って、先に戻るんだ。街道を戻ればあとはわかるだろ。足止めするから、ライカ達のとこに行け!」

「――」

 驚いてアウレシアを見つめるイルグレン。

 少し木々が開けたところで、少し戻り、追手を迎え撃つ。

「先に行きな、早く!!」

「レシア!!」

 自分の最優先事項は皇子を守ることだ。

 当然のように、アウレシアは自分が逃げるなど考えなかった。

 できるだけ時間を稼いで、イルグレンが無事に馬にたどり着き、仲間のところに戻らせなければ。

 それだけが心を占めていた。

 刺客達は今度こそ、それこそ死力を尽くしてくるだろう。

 アウレシアは囲まれぬよう木々の間を抜け、器用に男達を翻弄しながら確実に斬り倒す。

 が、近くでも剣がぶつかり合う音がする。

 視線を向けると、逃げているはずの皇子がそこにいて、まだ刺客と斬り結んでいるではないか。

「グレン!?」

 自分の背後に回り込んだ刺客を斬りざま、イルグレンと向き合っていた男の両腿の後ろを斬り払うと、怒鳴った。

「行けって言ってんだよ、この馬鹿が!!」

「お前をおいていけるか!!」

 横から来た新たな刺客の脇腹を素早く突いて、イルグレンも怒鳴り返す。

 自分一人が行くつもりなど、毛頭なかった。

 殺すことを目的に雇われた人間達なのだ。

 アウレシアは確かに強い。

 だが、アルライカやソイエライアほどではない。

 しかも、女だ。

 そんな彼女を一人残して行くなど、できるはずがない。

 ここで、最後まで戦う――それだけは譲れなかった。

 次々と現れる刺客に囲まれぬよう、そしてアウレシアと離れぬよう、イルグレンは剣を揮った。

 その時。

 大きな影が、二人と刺客達の間に割り込んできた。

「!?」

 同時に、別の黒い影達が八つ飛び出してきた。

 あっという間にイルグレンとアウレシアは囲まれる。

「――!!」

 だが、囲まれただけだ。

 剣は抜いているが、自分達二人に向けているわけではない。

 どういうことだ。

 アウレシアは刺客達と向き合っている男を見た。

 後姿はアルライカのように逞しい体つきの男だった。

 だが、もっと細身で、しなやかさも持ち合わせていた。

 背中に負った大剣があっても身軽に動く様は、その姿に馴染んでいた。

 只者ではない。

 アウレシアは直感した。


「手を引け」


 低いけれどよく通る声がした。

 刺客達は驚いたように動きを止めていたが、その内の年長者と思しき一人が口を開いた。

「手を引くのは、そっちの方だな。邪魔するなら、お前達も生きては帰さんぞ」

 新手は少数だと判断したからに違いない。

 強気な態度に、男の肩が軽く震えた。

 どうやら笑ったようだ。


「これは俺の獲物なんだ。お前等には狩らせん」


 男が手に持っているのは、短剣だけだった。

 前に出ると、途端に刺客達は男を取り囲んだ。

 体つきは逞しくても所詮一人、多勢に無勢とばかりの状況だ。

 だが、大勢との接近戦なら、短剣のほうが分がある。

 男が、先に動いた。

 途端に、刺客達から悲鳴が上がった。

 大きな男なのに、動きは恐ろしいほど素早かった。

 相手の懐に入り、見事に急所をつく。

 あっという間に三人の男達が首筋を掻き切られて倒れた。

「貴様っ!!」

 横になぎ払われた剣を避けざまに、男は足を払って相手を倒し、胸を押さえつけ喉を切る。

 悲鳴さえ上がらない。

 絶命した男の剣を取り、近くの男に投げつけ、脇腹に突き刺さるのを待たずに、六人目の男の鳩尾に下から短剣で抉るように突き上げる。

 アウレシアは、その戦いぶりを驚愕とともに見据えていた。

 刺客は、決して弱くはない。

 それどころか、訓練を受けた凶手だ。

 それなのに、赤子の手を捻るより簡単に、瞬き一つの間に息の根を止められる。

 まさに、鬼神のような戦いぶりだった。

 嫌な汗が、背筋を伝った。

「まだやるか、それとも手を引くか」

 男は息も乱さず言った。

 そんな男と膝をついて倒れた仲間を交互に見ながら、残りの刺客達は恐怖に後ずさった。

「――」

「雇い主に戻って伝えろ。皇子の身柄は俺達がいただく。命が惜しくないなら来い」

 低い声音は、震え上がるほど本気だった。

 さらに後ずさりすると、残りの刺客達はあっという間に踵を返し、逃げていった。

 短剣を鞘に戻すと、男は唖然としている二人に向き直った。

「さてと、大人しく剣をおくか」

 それが自分達に向けられていると気づき、アウレシアは我に返る。

「誰が」

 吐き捨てるように、アウレシアは一歩前に出て剣を払った。

「まずはあたしがお相手しよう」

 長剣を構え直し、男に向き直る。

「時間稼ぎならやめておけ」

 慣れた仕草で、男は背に負った大剣を抜いた。




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