戻ってきた刺客
「グレン、座りなよ。いつまで歩き回るつもりだい」
薄暗い洞窟の奥を行ったり来たりするイルグレンに、アウレシアは声をかける。
「じっとしていられるか。こんな時に」
アルライカを行かせてから、どれくらいが過ぎたかはわからないが、イルグレンにはとても長く感じられた。
「あんたが歩き回ったからって、事態が変わるわけじゃないだろ。それよりは、休んでおくんだ。ライカが戻ってきたとき、すぐに動けるように」
「――」
渋々と、イルグレンはアウレシアの向かい側に腰を下ろす。
だが、焦燥感はじりじりと胸にせまり、心臓が早鐘を打つ。
考えたくもないのに最悪の状況が頭に浮かぶ。
「私のために、皆死ぬのか――」
小さな呟きに、アウレシアが首を横に振る。
「死なないさ。ケイもソイエもライカもべらぼうに強いって言っただろ? きっとみんな無事だよ」
その言葉を、今のイルグレンには信じる余裕がなかった。
「私一人の命のために、誰かが死ぬなどもう耐えられない。私の命に、この血に、それだけの値打ちがあるというのか? たくさんの命を犠牲にしてまで生き残る価値が――」
「グレン――」
「レシア、戻ろう。戻って確かめないと。こんなところでじっと迎えを待つだけなんてこれ以上耐えられない」
そう言ってイルグレンが身を乗り出す。
慌ててアウレシアがその腕を掴んだ。
そうでもしないと、今にも立ち上がって走り出そうとしているようにも見えたからだ。
「何言ってんだよ、ライカに言われたろ? あんたが戻ってどうするんだよ。まだ刺客がいたら、それこそ敵の思う壺じゃないか」
「戦う。今の私なら、戦える」
「――グレン、前にも言ったろ。あんたに剣を教えたのは、身を守るためだ。あんたが出るのは、最後だよ。まだその時じゃない」
「むざむざ私の護衛が死ぬのを見ていろというのか!?」
憤慨したように声を荒げるイルグレンを、不意にアウレシアが手を上げて止めた。
「待った、蹄の音が――」
言われて、イルグレンは耳を澄ませた。
洞窟の入り口側から聞こえる土を蹴る音。
「ライカだ!」
イルグレンは待ちかねて立ち上がった。
アウレシアも立ち上がるが、その表情は険しい。
何か違和感がした。
蹄の音が――多すぎる!
「――グレン、違う!!」
だが、遅かった。
イルグレンはすでに外に飛び出していた。
アウレシアがイルグレンを追って外に出ると、イルグレンはそこに立ち尽くしたまま動かなかった。
目の前には馬に乗ったたくさんの男達。
二十人以上はいるだろう。
全員が覆面をしている。
「金に紫――この顔だ」
顔を隠した一人が、言った。
ぞろぞろと男達は馬を降りた。
「何と、こちらが本物だったとは――よく似た身代わりを集めたものだ。言われなければわからなかった」




