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寿綾乃という女 第2部  作者: トモサン


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60/99

寿綾乃という女 第2部 60

恋かもしれない…


 違うかもしれない…


 私は、藤原ナオキが、手配した、帰りの社用車の中で、考えた…


 諏訪野伸明のことを、考えた…


 諏訪野伸明に、本当に、私が、恋をしているのか、考えた…


 そして、正直に、言って、それは、よくわからなかった(苦笑)…


 すでに32歳になり、それまで、恋をしてきたか、どうか、考えたが、これも、よくわからなかった(苦笑)…


 高校時代に、藤原ナオキと、男女の関係になり、この年齢まで、ズルズルときた…


 その間にも、ナオキ以外の男とも、寝たことがないとも、言えない(笑)…


 ただ、それが、恋かどうか、言われても、正直、よくわからない…


 自分でも、よくわからない…


 それが、ウソ偽りのない本音だった…


 藤原ナオキは、諏訪野伸明同様の、長身のイケメンだったが、率直に言って、ナオキに、ドキドキした経験はない…


 高校時代の小娘の時期ですら、そうだった…


 なぜなら、ナオキは、イケメンだったが、その中身は、オタクだった…


 コンピュータオタクだった…


 だから、ナオキから、オスの匂いが感じなかった…


 それが、大きい…


 いかに、イケメンといえでも、オスの匂いを発するか、否かは、大きい…


 だが、だからこそ、安心した…


 ハッキリ言えば、男女をあまり意識せずに、男女の関係になれた…


 それが、大きい…


 どうしても、男女の関係を意識してしまうと、うまくいかない…


 これは、誰でも、同じだろう…


 変に、意識してしまうことで、かえって、逆効果になりかねない…


 好きな異性の前では、まるで、ロボットのように、ギクシャクした動きを見せたりして、コメディーというか、お笑いになってしまう人間を目の当たりにしたこともある…


 もっと、肩の力を抜いて、自然に振る舞えばいい…


 思わず、そんな助言を与えたいと思うほど、滑稽な姿を間近に見たことがある…


 だが、


 幸か不幸か、私には、そんな経験はない…


 皆無…


 一度もない…


 基本的に、他人に憧れない、冷たい人間なのかなと、自分自身を振り返っても、思う…


 考える…


 素敵な異性を見ても、ドキドキすることがないから、自然体でいられる…


 だから、男女の関係になれる…


 変に、相手を意識しないからだ…


 相手を意識すれば、するほど、冷静でいられない…


 普段の自分でいられない…


 だから、普通になれない…


 相手を意識するあまり、変に怒鳴ったり、真逆にいいところを見せようとして、普段と違う行動を取る…


 冷静でいられないためだ…


 だが、


 私には、それがなかった…


 見るからに、イケメンの男と出会っても、なにも起きない…


 心の中に、さざ波も起きない…


 心が揺れ、さざ波どころか、大波が起こって、動揺して、パニックになり、恋に落ちる…


 それこそが、恋の醍醐味だと思う…


 しかし、それがないのだ…


 以前も言ったことがあるが、だから、自分は、自分にしか、興味がない、究極の自分勝手…


 自分一番の人間かもしれない…


 自分が、一番だから、他人に関心がない…


 だから、恋に落ちない…


 心が動くことがないからだ…


 私が、諏訪野伸明に初めて会ったときも、同じ…


 お金持ちの、礼儀正しい長身のイケメンと思ったが、それだけだった…


 亡き、五井家当主、建造の葬式に私とナオキが、二人して、出向いたので、後日、そのお礼にやって来た…


 そのとき、初めて会った…


 そのときに、イケメンと思ったが、心が動くことはなかった…


 恋に落ちることはなかった…


 だから、その後、いきなり、私の住むマンションの近くに来たと言って、深夜、呼び出され、伸明の運転するクルマに乗り、建造の墓の前で、キスをした…


 これは、正直に言って、自分でも、わけのわからない展開だった(笑)…


 自分が、どうして、建造の墓の前で、伸明とキスをしなければならないのか?


 冷静に考えれば、答えに詰まる(笑)…


 しかも、その時間は、夜…


 深夜といってもいい、真夜中だった…


 一体、どこの世界に、深夜に、自分の父親の墓の前で、キスをする男がいるのか?


 しかし、今、冷静になって考えれば、それこそが、伸明の闇だったのかもしれない…


 常識外れと言うか…


 突拍子もないことをする…


 それこそは、伸明の抱える心の闇だったのだろう…


 そして、私は、それに寄り添った…


 私自身が、また、死んだ従妹の寿綾乃を名乗る、心の闇を抱えた女だったからだ…


 いわば、同病相憐れむ…


 仲間意識…


 それに、近かったのかもしれない…


 だから、お互いの心が同調して、キスをした…


 あれが、墓の前でなければ、あの後、間違いなく、ホテルに直行して、セックスをしただろう(笑)…


 それは、今となっては、確信できる…


 が、


 あのときは、そんな気持ちは皆無だった…


 なにもなかった…


 が、


 それを今思えば、幸か不幸か、わからない…


 キス止まりで、よかったのかもしれないし、セックスをした方が、よかったのかもしれない…


 それは、わからない…


 答えが出ない…


 キスしか、しないことで、いずれ、セックスをする目的が生まれたと思えば、伸明と縁が出来たことになる…


 少なくとも、伸明とセックスするまでは、関係が続くからだ…


 が、


 真逆に、セックスが到達点とすれば、それで、終わり…


 電車で、いえば、最終駅に着いたのと、同じ…


 その先は、ない…


 後は、オサラバするだけだ(笑)…


 だから、セックスはせず、キス止まりで、よかったのかもしれないし、あるいは、真逆に、セックスをして、互いに、一つになれた…


 わかりあえたと、思ったのかもしれない…


 正直、どっちなのか、わからない…


 伸明に聞いても、わからないに違いない…


 答えは出ないに違いない…


 もし、伸明が、金に飽かせて、あっちの女、こっちの女と、手を出し続けていれば、私とセックスをすれば、終了…


 ゲームオーバーとなるだろうが、伸明は、そんな人間には、見えなかった…


 だからこそ、私も信頼できると思った…


 また、社長である藤原ナオキが、伸明を信頼していることも大きかった…


 誰でもそうだが、自分が信頼する人間が、信頼できるといえば、その人間は、信頼できると、思える…


 そういうことだ…


 私は、思った…


 私は、そんなことを、考えながら、FK興産の社用車に乗り、家路についた…


 そして、自分の住むマンションに、戻った…


 

 自宅に戻ると、思いのほか、自分が、疲れていることに、気付いた…


 カラダから、微熱が出て、体調が悪い…


 やはり、家を出て、冬馬の見舞いに、行ったのが、まずかったのかもしれない…


 私自身が、まだ、五井記念病院を退院して、まもない…


 自宅に、戻ったと言っても、本当は、私自身が、誰かに、見舞いに来てもらうようなカラダなのかもしれなかった…


 それが、今日は、真逆に、わざわざ、会社の社用車に乗って、五井記念病院にまで、出向いた…


 その結果、体調が、悪化した…


 そういうことだろう…


 疲れて、仕方がなかった…


 脱力感というか…


 カラダに力が入らなかった…


 それまで、平気だったのは、気が張っていたからだ…


 当たり前だが、用意された社用車に乗り、五井記念病院に行く…


 そうなれば、家で、ゴロゴロしているのとは、わけが違う…


 しっかりしなければ、と、無意識のうちに、気が張るというか…


 それが、冬馬の見舞いも終わり、社用車からも、降りた…


 すると、自分でも、ビックリするほど、疲れた…


 まるで、それまでの疲れが、たとえて言えば、ダムが崩壊でもして、ダムに蓄えた水が一気に流れ込むように、疲れが、ドッと、押し寄せて来た…


 自分でも、ビックリするほどだった…


 やはり、まだ、他人の見舞いに行くなんて、早すぎた…


 あらためて、そう思わずには、いられなかった…


 私は、疲労感にさいなまれながら、なんとか、自宅に戻った…


 率直に言って、自宅まで、無事、辿り着けたのが、奇跡だった…


 自宅のマンション前まで、社用車に送ってもらったのだから、歩くのは、ごくわずかの距離だった…


 にもかかわらず、まるで、マラソンにでも、参加したような、気分だった…


 まさに、艱難辛苦だった…


 私は、自宅に、戻ると、そのまま、ベッドの上に倒れた…


 

 どこか、近くで、なにやら、物音がしている…


 その物音で、目が覚めた…


 気が付くと、辺りは、すでに、暗かった…


 すでに、夜になっているのが、わかった…


 私は、なんとか、起き上がってみた…


 やはりと、いうか、疲労感というか、けだるさが、ある…


 家に戻って来たときに、比べれば、はるかにささいなものだったが、倦怠感は、残っていた…


 そして、物音のする方向…


 光のある方へ、ゆっくりと、歩いて行った…


 そこには、やはりというか、ナオキ…


 藤原ナオキの姿があった…


 ダイニングで、ひとり、ノートパソコンを広げて、なにか、していた…


 私が、近くに来ても、気付かないほど、没頭していた…


 私は、わざと、


 「…ナオキ…随分、仕事熱心ね…」


 と、声をかけた…


 ナオキは、ビックリして、私を振り返ってみた…


 「…綾乃さん、目が覚めたの?…」


 「…相変わらず、仕事熱心…自宅にまで、仕事を持ち込んで…まさに、仕事人間の鏡ね…」


 「…いまどき、絶滅寸前のアナクロ人間さ…まさに、昭和の遺物…」


 と、ナオキは、自分自身を笑った…


 「…いえ、そんなことはない…」


 私は、言った…


 「…自宅に仕事を持ち込んで、家族のために、仕事をする…立派なお父さんよ…」


 私が、褒めると、ナオキは、照れ隠しか、


 「…ホントは、今、エッチな動画を見ていたのかもしれないよ…」


 と、言った…


 「…エッチな動画って?…」


 「…若い男女がくんずほぐれつ、裸で、じゃれあってる動画さ…」


 「…それって、きっと、男女が、裸で、プロレスごっこをしているのよ…きっとAVの企画ものでしょ?…」


 「…AVの企画ものって、まさか、綾乃さんの口から、そんな言葉を聞くとは、思わなかった…」


 「…事実は小説より奇なり…」


 私が、わざと、笑って言った…


 すると、ナオキは、笑って、ノートパソコンを、閉じた…


 仕事を止めたわけだ…


 「…綾乃さん、調子は、どう? …少しは、良くなった?…」


 「…ええ…」


 短く答えた…


 正直、しゃべるのも、まだ疲れる…


 「…今日の昼間、綾乃さんを、五井記念病院に送迎した社用車の運転手から、綾乃さんが、戻ったときに、すごく疲れているようだと、報告を受けてね…それで、仕事が、終わって、この家に戻って来ると、綾乃さんが、外出した姿のまま、着替えもしないで、ベッドの上で、寝ているのを見て…心配になった…」


 「…そう…」


 短く、答えた…


 「…正直、綾乃さん…外出はまだ早かったんじゃないかな?…」


 「…私もそう思う…」


 即答した…


 「…綾乃さん…病院に入院見舞いに行った人間が、戻ってきて、家で、倒れちゃ、お笑いだよ…」


 「…」


 「…まだ、綾乃さんには、外出は、早すぎた…」


 「…」


 「…家で、おとなしくしていることだ…」


 ナオキの言葉に、


 「…」


 と、言葉もなかった…


 反論できなかった…


 「…諏訪野マミさんにも、さっき電話をかけて、今後、当面、綾乃さんを外出に誘わないように、お願いした…」


 仰天の言葉だった…


 藤原ナオキは、諏訪野マミが、苦手…


 その苦手なマミに、ナオキが、わざわざ、自分から、連絡を取って、頼むとは、思わなかった…


 まさに、


 …まさか?…


 だった…


 私は、それを聞いて、


 「…ありがとう…ナオキ…そんなに私のことを心配してくれて…」


 と、言いたかったが、口から出たのは、


 「…ナオキ…まるで、アナタ…私の保護者ね…歳の離れたお兄さんみたい…」


 という言葉だった…


 天の邪鬼な私は、素直に、ナオキに感謝の言葉を言うことができなかった…


 「…保護者で結構…年下のじゃじゃ馬の妹をみるのは、いかに大変か…憎まれ者にならなきゃ、いうことを聞いてくれない…」


 ナオキが、ぼやく。


 が、


 そんなことを、言いながらも、


 「…マミさんが、病院を退院したばかりの、綾乃さんを、無理やり、見舞いに誘ったんだから、なにか、マミさんの狙いがあったんだろ?…」


 と、真顔で、問いかけた…


 私は、驚いた…


 まさか、諏訪野マミの狙いに、ナオキが、気付いているとは、思わなかったからだ…


 「…ナオキ…アナタ、気付いていたの?…」


 「…なんとなく、ね…」


 「…なんとなくって、どういうこと?…」


 「…綾乃さんは、この前、五井記念病院を退院したばかり…だから、まだ、カラダが、完璧じゃない…そんな綾乃さんを、見舞いに誘うわけだから、なにか、裏があると思って…」


 「…そう…」


 「…マミさんもバカじゃない…そんなカラダの綾乃さんを誘うわけだから、なにか、綾乃さんのためになることをしたわけだろ?…」


 私は、ナオキの質問に、


 「…」


 と、答えなかった…


 どう返答していいか、わからなかったからだ…


 「…どうしたの? …綾乃さん…黙って?…」


 「…言っていいものか、どうか…」


 「…話したければ、話せばいいし、話したくなければ、話さなければ、いい…」


 ナオキが、即答した…


 「…話したくないことを、無理やり、聞こうとは、思わないよ…」


 その一言で、真逆に、話すことを決めた…


 「…伸明さんのことよ…」


 「…諏訪野さんのこと?…」


 「…今日、見舞いに行った、冬馬…菊池冬馬が、なぜ、伸明さんが、私を選んだのか、言ったの?…」


 「…なんて、言ったの?…」


 「…母親の昭子さんに対する反抗だって…」


 「…反抗?…」


 「…伸明さんは、ホントは、五井家当主になりたくなかった…亡くなった先代当主の建造さんとは、血が繋がってない…それを知ってるから、余計に、嫌だったらしい…」

 

 「…」


 「…でも、結果的に当主になった…その結果、五井家内での反発が大きく、それで、母親の昭子さんを恨むようになって…」


 「…なるほど…」


 ナオキが、頷いた…


 「…でも、たぶん、それだけじゃないよ…」


 「…どういう意味?…」


 「…諏訪野さんは、綾乃さんを好きだからだよ…」


 「…」


 「…好きでなければ、誰もが、結婚詐欺師でもない限り、結婚したいなんて、言わないよ…」


 「…」


 「…まして、綾乃さんは、諏訪野さんの母親にも会ったんだろ?…」


 「…ええ…」


 「…世間に名の知れた五井家の人間が、母親にも、綾乃さんを紹介した…結婚する気でなければ、いかに、母親に反抗しようが、紹介はしないよ…」


 「…」


 「…諏訪野さんも、母親に反発することで、自分の人生を台無しには、しないだろ?…」


 「…」


 「…仮に、諏訪野さんが、別の女性と結婚するかもしれないとしたら、それは、諏訪野さんが、迷ってる証(あかし)だよ…」


 「…迷ってる証(あかし)?…」


 「…どっちも、甲乙つけがたい…だから、迷う…」


 「…」


 「…AさんとBさんを比べて、どっちも、優れていれば、どっちを選ぶかなんて、普通は、わからない…」


 「…どういう意味?…」


 「…クルマに例えれば、ロールスロイスと、フェラーリが、どっちがいいクルマか比べるようなものだ…」


 私は、ナオキの言葉に、ピンときた…


 「…マミさん…諏訪野マミさんから、聞いたのね…」


 「…ご名答…」


 「…そういうこと…」


 私は、一気にトーンダウンした…


 マミが、なにを言ったか、わからないが、想像はつく…


 おそらく、菊池リンや、佐藤ナナのことを、言ったに違いないからだ…


 「…綾乃さん…」


 「…なに?…」


 「…AさんとBさんを比べて、どっちがいい女かなんて、すぐに答えが出ることは、稀だよ…」


 「…どういう意味?…」


 「…綾乃さんも知ってるように、ボクは、女好きだ…」


 「…」


 「…その女好きなボクが夢中になる女は、どれも美人…AさんとBさんを比べて、どっちが、美人と言われても、答えが出ない…一日中、考えても、答えが出ない(笑)…」


 「…」


 「…つまり、そういうことさ…」


 「…」


 「…なにが、言いたいかといえば、諏訪野さんが、母親に反抗して、結婚相手を変えたとしたら、それは、諏訪野さんにとっても、甲乙つけがたいんじゃないかな?…」


 「…どういう意味?…」


 「…どっちもいいから、答えが出ない…だから、諏訪野さんが、母親に反発して、別の女と結婚したいと言う…」


 「…」


 「…母親がAさんにしなさいと言えば、Bさんにする…真逆に、母親が、Bさんにしなさいと言えば、Aさんにする…どっちを選んでも、変わらないからだ…」


 …うまいことを言う…


 私は、思った…


 たしかに、ナオキの言う通り…


 いかに、母親の昭子さんに反発するとしても、自分が嫌いな女と結婚するはずがない…


 結婚するのは、自分…


 自分の人生だ…


 だから、伴侶選びには、慎重になる…


 そして、わざと、母親に反発して、結婚相手を、変えたとしたら、それは、伸明にとって、どっちでも、同じだからだろう…


 だから、Aさんを、選べと言われば、Bさんを選び、Bさんを選べと、言われれば、Aさんを選ぶ…


 どっちを選んでも、同じだからだ…


 そう言われれば、わかる…


 そう言われれば、納得する…


 気が付けば、


 「…ナオキ…アナタ…頭がいいわ…」


 という言葉が、口を突いて、出た…


 「…当り前さ…ボクは、FK興産社長で、テレビのキャスターもやっている…いかに、ひとを納得させるか、それが仕事さ…」


 随分、わかったような、わからないような言葉だった…


 だから、わざと、


 「…いかに、自分を大きく見せるかの、間違いなんじゃないの?…」


 と、言った…


 「…どういう意味?…」


 「…知り合ったばかりの女をいかに口説くか、日夜、頭を悩ませている…少しでも、自分を大きく見せて、モノにしようと、悩んでいる…」


 私の言葉に、ナオキは、口をポカンとした…


 それから、


 「…綾乃さんには、叶わない…」

 

 と、頭を掻いた…


 「…すべて、お見通しというわけだ…」


 「…当たり前よ…一体何年いっしょにいると思っているの…」


 私がいつのまにか、話をすり替えたにも、関わらず、あえて、なにも言わず、話を合わせた…


 「…でも、そんな綾乃さんだから、諏訪野さんも好きになったと思うよ…」


 「…どうして?…」


 「…女好きな藤原ナオキと、関係があった…だったら、自分と結婚しても、自分が、他の女と不倫しても、OKだと思ったのかも…」


 またも、話を変えた…


 わざと核心に触れないで、笑いに変えようとしている…


 そして、それが、ナオキの優しさだと、気付いた…


 おそらく、私が、今、心底疲れているのに、気付いてるからだ…


 これ以上、真剣な話を続けさせたくないからだろう…


 そう気付くと、


 「…女好きな藤原ナオキ…アナタから見て、私は、どうなの?…」


 「…佐々木希さんには、劣る…」


 ナオキが、即答した…


 「…佐々木さんの方が、長身で、カッコイイ…」


 その通りだった…


 が、


 わざと、佐々木希の名をここで出すことで、笑いに変えようとしている意図に、気付いた…


 今の日本中の女の誰もが、佐々木希と比べて、自分の方が、勝っていると、思う女は、いない…


 だから、


 「…ナオキ…アナタ、ズルい…」


 と、言った…


 「…なにが、ズルいの?…」


 「…佐々木希の名前を出されちゃ、誰も勝てない…」


 「…当り前さ…ボクは、元々、ズルい男さ…ズルいから、あっちの女、こっちの女と、女の間を渡り歩いているのさ…」


 「…女に金づるにされて…」


 私が、言うと、ナオキが、


 「…それを言っちゃ、おしまいだよ…」


 と、吹き出した…


 「…藤原ナオキは、二枚目のテレビのキャスター…常に、その姿を演じ続けなければならない…」


 ナオキが、真顔で言う…


 「…どうして、演じ続けなければ、ならないの?…」


 「…テレビの向こう側のボクのファンが悲しむからね…」


 「…ナオキにファンなんているの?…」


 「…ほら、ここにいる…ボクの目の前に…」


 「…それって、もしかして、私?…」


 「…そう…寿綾乃…」


 「…まあ、勘違いも甚だしいわ…私が、社長を好きなのは、お金をくれるから…私は、お金をくれる男が好きなの?…」


 「…だったら、もっと、お金をあげて、もっと、ボクを好きになってもらおう…」


 ナオキが笑わせる…


 心もカラダも疲れた私だったが、なんだか、ナオキと、こんな馬鹿話をしたことで、安らぐ気がした…


 そして、今の私には、こんな時間が、なにより、貴重だった…


 それを、心の底から、実感した夜だった…


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