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砂浜の上の僕ら  作者: 蜜樹


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22/28

突然の再開

祭り当日。

祭りの提灯が風に揺れる夜を、直人は家の二階から眺めていた。

太鼓の音が遠くに響く。

子どもたちの笑い声。

焼きそばの匂いが、かすかに潮風に混ざっている。

胸の奥のざわめきは消えない。

この前、商店街で見たあの笑い顔。

気づかれたのかどうか分からない、あの一瞬。

心が落ち着かない。

そこには逃げ帰った自分がいた。


翌日。

祭りの喧騒が嘘のように、町は静かだった。

太陽が西に傾き出した頃、直人は浜辺へ向かった。

人の少ない時間を選んだつもりだった。


砂はまだ少し湿っている。

昨夜の潮が引いたあとだ。

波は穏やかだが、空は少し曇っている。

直人はサンダルを脱ぎ、裸足で波打ち際を歩く。

足の指先を水がさらう。

冷たい。

直人はその感覚に集中していた。

余計なことを考えなくて済む。


背後から足音が近づく。

砂を踏む音。

止まる。

背後、数メートル。

心臓の鼓動の速さを感じながら、直人はゆっくり振り返る。

沈黙。

波音だけが響く。

「⋯直人?」

その声の響きが、身体の奥に落ちてくる。

そこに立っているのはは、あの日見かた拓海だった。


拓海は、まっすぐこちらを見ている。

その目は笑っていない。

距離は五歩。

どちらも動かない。

時間が経っていく。

直人は何も言わない。

拓海の喉がわずかに動く。

「⋯悪かった」

小さな声。

言い訳も、理由もない。

ただ、それだけ。

風が強く吹く。

波が二人の足元を濡らす。

直人の胸が強く鼓動する。

怒鳴ることもできた。

だが、出た言葉は違った。

「覚えてるよ」

震えた声。

拓海の視線が揺れる。

「分かってる。今さらだって」

拳が握られている。

「でも、俺⋯このまま直人と一生会わずに、何も言わないままなのは無理だった」

直人は黙って海を見る。


あの頃、この街から逃げたかった。

東京へ行けば、過去は消えると思っていた。

でも、消えなかった。

ただ距離ができただけだ。


拓海が続ける。

「お前が東京に行ったのは知ってた。逃げたって思ってた。でも⋯逃げてたのは俺のほうだった」

声がかすれる。

直人はゆっくり息を吸う。

許せるわけではない。

簡単に「もういいよ」とも言えない。

だが、目の前にいるのは、

教室の中心で笑っていた少年ではなかった。


直人は海を見たまま言う。

「⋯海はあの頃と変わらないね」

拓海が戸惑う。

二人の影が、砂浜に長く伸びる。

波の音。

やがて拓海が、静かに言う。

「また⋯あの頃に戻れるかな?」

直人はすぐには答えない。

怖さはまだある。

だが絶望はない。

少しだけ、視線を横に向ける。

拓海の横顔。

後悔の色。

直人は小さく息を吐く。

「波が穏やかな日なら」

肯定ではないが拒絶でもない。

拓海がほんのわずかに頷く。

夕暮れが二人を包む。

許しは、まだ遠い。

だが、逃げ続ける時間は、終わったのかもしれない。

波が寄せて、返す。

その音だけが、静かに続いていた。

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