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砂浜の上の僕ら  作者: 蜜樹


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気配

この街では毎年八月に海岸で祭りが開催される。

その準備が本格的に始まった。

町内会の軽トラックが通りを何度も往復し、

赤い提灯が軒先に吊るされる。

直人は家の前で脚立を支えていた。

父が紐を結びながら言う。

「若いのが何人か手伝いに来るらしいぞ」

直人は何も聞かない。

だが、胸の奥がざわめく。


午後、母に頼まれて商店街へ向かう。

通りの向こう側に、人だかりがある。

笑い声。

男の低い声が混ざる。

直人は視線を上げる。

そこに、いた。

作業着姿。

少し日に焼けた横顔。

腕まくりした腕。

拓海だった。

距離は二十メートルほど。

気づかれてはいない。

だが、足が、動かない。

拓海は笑っている。

あの頃と同じように、周囲の中心で。

だが違う。

笑い方が、どこかぎこちない。

直人は目を逸らす。

心臓の鼓動が強くなる。

会いたくない。

はっきりと、そう思う。

だが、その願いとは裏腹に、拓海はこの町にいるのだ。

逃げ場はない。

東京のように人混みに紛れることもできない。

直人は踵を返す。

その瞬間、

遠くから名前を呼ばれた気がした。

気のせいかもしれない。

振り返らない。

振り返れば、目が合ってしまうかもしれない。

目が合えば、何かが始まる。

それを、直人は望んでいない。

歩幅を速める。

背中に視線を感じる。

実際に見られているのか、ただの錯覚かは分からない。

家に着くまで、呼吸は浅いままだった。


部屋に入り、扉を閉める。

静寂。

波の音が遠くに聞こえる。

直人はベッドに腰を下ろす。

胸に手を当てる。

鼓動は少しずつ落ち着く。

会いたくない。

はっきりとした感情だ。

再会は、望んでいない。

向き合う準備もできていない。


今日の海は穏やかだ。

だが、直人の心の中は荒れた波が打ち寄せていた。

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