開演前 舞台裏
「本日はご来場いただきまして真にありがとうございます。真昼高等学校の公演は10時40分開演予定となっております…」
姉であり部長でもある郡山七海の声で、開演10分前のアナウンスが狭いホールいっぱいに響きわたる。
本番が近いことを意識した瞬間、手と足は震え、喉は渇き、胃がぎゅっとなった。
舞台袖は暗く、緊張感に包まれていた。
「湊めちゃくちゃ震えてるじゃん、緊張してないんじゃなかったの?」
「わっ!!」
背後から声がして、振り向くと、そこにはピンクのドレスに身を包んだ、同期の朝比奈桃子が立っていた。
リハーサルの時とは少し違う髪型とメイクが、大人っぽい彼女の魅力をさらに引き立てている。
普段は俺と同い年の女子高生のはずなのに、今この瞬間は間違いなく異国の姫だった。
俺は違う意味でドキドキした。
「大きな声ださないの、あとジロジロ見ないで。」
「ごめん。」
桃子は至って普段通りで、全く緊張していないように見える。
「桃子は緊張してないの?」
「湊と違って今日が人生初めての舞台じゃないからね。」
「…さすが桃子だな。」
「…ほんとはちょっとだけ緊張してる。」
「え、そうなの?」
俺は改めて桃子の顔を見た。桃子も俺を見る。目と目が合う。
「だって、こんなに本気になれた舞台は初めてだもん。」
そういった桃子の瞳には、少しの不安と緊張の奥に、希望と高揚感が滲んでいた。
「…本気になる、か。」
俺はその言葉を噛み締めた。
次の瞬間、開演5分前を知らせるベルが鳴り響いた。
「…湊、「集中」しよっか」
「うん。」
俺と桃子は向き合って、目を瞑った。頭の中を演劇部で過ごした約6ヶ月の思い出が蘇る。
上手くいったこと、いかなかったこと、本音をぶつけあったあの日、練習に明け暮れた日々、
沢山の成功と失敗、喜怒哀楽では収まりきらないほどの感情と星の数ほどの思い出が溢れ出してくる。
目を開けると、いつの間にか2分経っていたらしく、すでに目を開けていた桃子と目が合った。
「…最高の演技をして、絶対全国に行く。」
桃子が小さくとも張りのある声でそう言った。
「…今日の舞台で、過去の俺と決別する、そして、全国に行く。」
俺がそういうと、桃子はちょっとだけ可笑しそうに笑った。
俺はそんな桃子に微笑み返し、一度大きく深呼吸をして、そしてゆっくりと舞台上に向かって歩き始めた。
反対側の袖をみると、ヘットフォンを首にさげている姉さんがいた。
目が合うと、姉さんは一瞬俺に向けてピースサインをし、口だけで「みなとがんばれ」と伝えてきた。
俺も一瞬だけ、小さくピースサインをした。
「ただいまより、真昼高等学校演劇部によります、郡山七海作「この星最後の贈り物」を上演いたします。」
俺は舞台中央のベンチに座って、最初のポーズを取った。
舞台中央の俺を、眩しい照明がぎらぎらと照らしてくれる。
OPの音楽とともにゆっくり幕が上がり始めた。
今、最高の舞台が始まる。
ここまで読んでくださりありがとうございます。どうも作者です。元演劇部です。「こんな演劇部青春物語いいな」を詰め込んだ自己満小説になる予定ですが、次回も楽しみにしてくださるのならとても幸いです。




