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第1話
小さい頃、母方の祖父から「うちは南フランスの一族の血を引いてるんだよ」と言われたことがある。ただし祖父の時点で既にハーフやクォーターでなく、何分の一なのか何十分の一なのかわからないほど、薄い薄いものだったらしい。
当時の私には「ハーフ」も「クォーター」も意味不明な言葉だったが、とりあえず「薄い」はわかるので、祖父が言っている内容も何となく理解できた。
ごくわずかではあるものの、自分にも外国人の血が混じっている。それは何だか素敵な話に思えたけれど、私が嬉しそうな表情になると、祖父は暗い顔で首を横に振っていた。
「いいかい、この話は内緒にしておくんだよ。南フランスでは、うちの祖先は迫害されていた、という話だからね……」
当時は印象深い話だったとしても、いつのまにか記憶の中で風化していったらしく、すっかり忘れていたくらいだ。
それなのにふと思い出したのは、あの男のせいだろう。数ヶ月前の夜、私は奇妙な男に出会ったのだ。