悲しくなった
「やり放題なのに?」「っていうかまず否定しよう?」「ねえお兄さーん」「構ってよーう」「ねえってばーーー」
構って欲しいだけかよ。俺は頭を抱えながらため息をついた。依然として少女が起きる様子はない。本当に意識があるならこの会話も訊かれてるんだろうな。そうなると後々めんどくさそうだな、と思いつつもう一度息をつく。
…こいつら話していて疲れるのだ。
「仕方ないなー」「構ってくれなきゃこうするぞっ」
「なっ、うわ!?」
いつの間にかジャングルジムに登り俺の身長より高い位置に陣取ったインディアンたちが赤い花びらをばらばらと撒きはじめた。花咲かじいさんかお前らは!
「わっ、ばか、やめろってなんだこれ!」
きゃっきゃと騒ぐ小人たち。
目を閉じたままの少女にも花びらが降りかかる。
十人が一斉に花弁を撒くのでまあ積もる積もる。甘い匂いも充満してきた。
「だからっ…やめろって、言ってるだろ!」
「わー!」「わーー!」
小人たちを捕まえようと手を伸ばす。すると蜘蛛の子を散らすように彼らは逃げ出した。
やってやる!意気込んで小人たちが逃げていった道路の方を振り返るとそれぞれ別の制服を来た少年少女ら合わせて四人がぽかーんとこちらを見ていた。
彼らの後ろにはインディアンたちが全員手を口に当ててそそくさとこちらを観察している。
「「…………………」」
沈黙が続いた。
いや、クスクスクスと笑い声が聞こえる。絶対十人にインディアンだ。あとでこの借りは返すぞ覚えとけ。
「………何かあったのか?」
最初に口を開いたのは黒髪のクールな感じの少年だった。
どう言えばいいか迷った挙句俺は目線をそらしながらこう答えた。
「怪しい者じゃ………ないんだ………」
何故か両手を上げた。
「…刑事ドラマで見たような完璧なホールドアップ………」
ぽつりと呟いたのは黒セーラーの背の小さい少女。
「っ………!」
真っ黒な本を抱えたツンデレ系少女が吹き出した。
え、なにこれ。どうしよう。
「と………とりあえず……五人揃ったかな」
笑いを堪えながら無理に無表情を貫こうとしている明るい髪の少年が言った。
「あれ…その制服」
彼が着ている濃紺のブレザーと一致したデザインを俺はさっき見た。倒れていた女の子と全く同じだ。
もしかしたら知り合いかも知れない。
「…?どうかした?」
「もう一人いるんだ。ここに…………って、ええ!?」
紹介しようと下を向くが赤い花びらの山が出来ていて彼女が見当たらない!いつの間にこんなに体積してんだ。
「こ、この中に!もう一人埋まってる!」
「生き埋め!?」
「早く言いなさいよ!」
慌てて全員で捜索開始。
「あ……」
掘り当てたのは儚葉と名乗った線の細い少年。
「いたか」「生きてますか?」
美波がやれやれと言った感じで首を回し、小毬がネガティブに質問するが彼は答えない。
じっと花の山から姿を現した少女を見つめている。その張り詰めた表情から顔見知りだといことが伺える。そしてやっとその名前を呼んだ。
「いろり」
「遅い!!!!」
刹那、少女が体を起こし儚葉の額と衝突。ごちっっという鈍い音が響く。
「痛い!!」
頭を抑えながら地面にうずくまる儚葉。その間に彼女は立ち上がり凛とした表情であたりを見渡した。
「なんだ、またここに来てしまったか」
これは夫を尻に敷くタイプだな、と俺の直感が告げる。
彼女の視線が俺を捉える。よくよく見れば相当な美人だ。
こちらに歩んでくるその姿も様になっている。
「君が女に興味がない人か。私の心配を儚葉よりしてくれてありがとう」
しっかり聞こえてらっしゃる!
一気に背筋が寒くなった。全員の視線が痛い。特に梓音がゴミを見るような目線を送ってくる。いっそのこと殺してくれ。
「誤解だ」
「ほう。じゃあ女が大好きだと」
「どうしろと!」
悲しくなった。




