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私のちから

 ショーウィンドウで自分の姿を確認する。

 柔らかい焦げ茶色の髪は両脇で編みこんでいてお気に入りの赤いリボンで結んでいる。前髪も残った後ろの髪も綺麗に切りそろっていて着ている黒セーラーと一緒に見ると少し古風な雰囲気である。黒セーラーはもちろん私が通う都立華の宮女学院高校の制服で朱色の胸元のリボンが特徴的だ。身長百六十センチに全く届かない私は目がぱっちりしててリスみたいとよく可愛がられる。

 ………やっぱり魚はちょっと。

 ハートの女王の言葉が未だに胸に突き刺さって抜けない。

「どうしたの、社さん」

 空っぽのショーウィンドウを見つめてうんうん唸ってたのが聞こえたのか先ほど出会った少年が声をかけてくる。

 彼は水戸倉儚葉と名乗った。私と同じ市内の鉢浦高校に通ってるみたい。濃紺のブレザーの左胸には金の刺繍で校章が縫われている。

 儚葉くんは一年前に一週間の間だけここに来ていたことがあるらしくハートの女王や他の案内人とも面識があるのだという。詳しく聴きたかったのだが「みんなが揃った時にまとめて話すよ。そこまで重要なことはないから」とはぐらかされてしまった。

「あっ、いや、その……冬服着てるけどここは暑くないなあって」

 おどおど答えると彼は「そうだね」と爽やかに答えた。

「まあ走れば体温も上がるし…あ、それにここお腹がすくとかの生理現象はないみたいだね。不思議だな」

 別れ道の片方が行き止まりだったことを確認してきてくれた彼は一見好青年なんだけどハートの女王とのやりとりは怖かった。充分彼も不思議である。

「もうこのフロアは何もないし誰も居ないみたいだから二階に上がろうか」

 ショッピングモールなのにどこのお店も空っぽで、いやお店と言うよりただの部屋だろうか。所々に絵本や積み木が置き去りにされ、レンガのデザインの通路には落書きが絶えない。

 閑散とした寂しいショッピングモール。まるで忘れ去られてしまってみたい…。

 フロアを一つ上がってもこれといった情報も何もなく私達はショッピングモールを後にした。

 駐車場に出ると儚葉くんは周りを見渡した後数メートル離れてちょこちょこついてくる私に質問する。

「次はどうしようか。中心部に行ってみる?少し危険だけど…」

「でも力があれば大丈夫なんですよね?」

「まあ…あるに越したことはないんだろうけど社さん、自分の力ってわかる?」

 力というのはこの夜の世界にいる時だけ与えられる特殊な能力のことだ。案内人や少数のおもちゃたちには効果はないものの大多数のおもちゃには効いたりするらしい。身を守ったり、ここから出るためのアイテムを探す役にも立つという。

 儚葉くんは何でも一つだけ思い描いたものを現実の物として再現する力だ。ハートの女王に向けていた銃もそれで作ったという。その力が思考実験の「水槽の脳」を彷彿させるのでそう呼ばれるのだとか。

 ということは私は魚で何か出来るのだろうか。

「おっ、お魚!出しますっ、ふんっ」

 ものは試しだええい!と気合を出して両手を前につき出す。

 何もおこらない。

「………えっと、…………元気だして?」

「ふええぇぇえぇえんっ」

 恥ずかしくて耳まで真っ赤に鳴っているのが自分でわかる。私は半泣きでコンクリートに崩れ落ちた。

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