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2050年、世界崩壊。二人の少年が、地獄と化した世界の運命を変える物語。【トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ】  作者: (冬ω冬)Win Poli(╹冬╹)
【First Story of the Babies:《〝世界を浄化する地獄の花〟》】

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Episode 8 :【母に捧げる約束(ちかい)】

《――「久しぶりだな、夏神(なつみ)

 できるなら、こんな形で再会はしたくなかったが……」》

《――「……あなた、は……?」

《――「お前の両親と、親しくしていた者だ。

 斎賀(さいが)天寿郎(てんじゅろう)という名を、聞いたことはないか?」》

《――「……斎賀、先生……あなたが……」》


 斎賀先生が、俺の前に現れたのは、母さんが亡くなってから、一週間ほど経った朝だった。


 両親から託された約束を果たすために、俺のところに来てくれたのだろう。


《――「……本当に、すまなかった。もう少し早く、私が来てさえいれば……。

 これからは、私がお前の家族だ。共に、亡き両親の分まで、生きていこう」》


 その時の斎賀先生は、絶望に打ちひしがれている俺を(なぐさ)めようと、ぎこちなくも優しい笑顔を浮かべていた。


 ……先生自身だって、誰よりも辛く、悲しい思いをしていたはずなのに。


 しかし、すでにあの時、俺を突き動かしていたのは、『世界を変えるために強くなる』という決意だけだった。


 そんな俺の眼差しを見て、斎賀先生は、一瞬だけ驚いたが……すぐに真剣な顔つきに変わり、手を差し伸べてきた。


《――「お前には、両親の命を背負う、覚悟があるか」》


 何も迷いはなかった。


 そこに言葉は必要なく、斎賀先生の手を、握り返すだけだった。


 それだけでも、斎賀先生に俺の決意を示すには、十分なものだったのだ。


《――「……母さん。ボク――俺、必ず、やり遂げてみせる。

 もう誰にも、母さんのような思いを、させたくない。

 だから俺が、この世界を、変えてみせる。

 ……こんな形でしか見送れなかった、親不孝な息子で……ごめんね》」


 斎賀先生のもとで生きる決意をした、その日。


 俺は、(うじ)に食い荒らされた母さんの遺体を……この手で、焼いた。


 失意の中にいた俺は、きちんと母さんを埋葬させてあげられなかった。


 斎賀先生が来るまで、俺はただ、死んだ母さんの手を握り続けることしか、できなかった。


 その結果……あんなにも美しかった母さんに、辛い思いをさせてしまっていた。


 だけど、もう俺は迷わない。


 母さんの想いを背負って、生きていく。


 あの時、風と共に消えていった、母さんの遺灰(かたみ)の温もりは――今でも、俺の中に、確かに残っている。



《――「過酷な現実を乗り越えられぬ者に、世界を変える資格などない。

 私がお前に与えるのは、鍛錬(たんれん)ではない。

 お前の覚悟を問う――儀式だ」》

《――「……儀式……?」》

《――「儀式には、代償(だいしょう)(ともな)うものだ。

 終えた時、お前は必ず、何かを失うだろう。

 それは平和か、心か、命そのものか……。

 それほどの覚悟がなければ、地獄を変える英雄になど、なれはしない」》

《――「……覚悟は、できています」》


 ――こうして俺は、斎賀先生が創設した地下シェルターに移住し、そこのトレーニングルームで、鍛錬を繰り返す日々を送っていた。


 戦士になるということは、通信簿に評価を付けられるのとは、わけが違う。


 訓練の内容がハードなだけでなく、精神面も、徹底的に打ちのめされるからだ。


 特に心が砕けそうになったのは、特殊な仮想現実体験装置を使った、限りなくリアルに近いイメージトレーニングだ。


 ある時は、目の前で父さんが、怪物に喰い殺される光景。


 飛び散った血肉が衣服に染み込み、吐き気を(もよお)す異臭が鼻腔(びこう)を突き刺し、嗚咽(おえつ)吐瀉物(としゃぶつ)()(かえ)る……その感覚を、俺は今でも憶えている。


 またある時は、世界に絶望し、生きる気力を(うしな)ってしまった母さんが、自ら命を()ってしまう光景。


 糸が切れた人形のように項垂(うなだ)れる母さんは、あの時のように軽すぎて……だけど両手を伝う赤い血は、なぜだか泥水のように(にご)って見えた。


 俺に襲いかかってきたのは、まるで脳味噌と心臓を、凍てついた氷の手で握り潰してくるような、耐え難い苦痛。


 しかし、慟哭(どうこく)の叫びを上げようと、目の前で両親が死ぬまで、俺がその世界から解放されることは、許されなかった。


 いっそのこと死んでしまいたくなるような苦痛と、両親を救えなかった後悔。


 そして俺だけが生き延びてしまった罪悪感に、圧し潰される日々……。


 そんな地獄の日々を、俺は何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も、繰り返し続けた。


『地に()いつくばってでも、両親の無念を晴らすため……そして己》に課せられた使命を果たすため、この地獄を乗り越えてみせる』――。


 たったそれだけの、吹けば消えてしまいそうな決意だけを命綱に、俺は生きてきた。



 ――そうして俺は、ついに、永遠のように続くとさえ思えた、過酷な訓練の日々を、乗り越えることができた。


 そのおかげで、猛獣のように俊敏(しゅんびん)な動きを、鍛え抜かれた鋼鉄の筋肉を、そして――世界に叛逆(はんぎゃく)する強き意志を、手に入れることができたのだ。


 ……もう少しだ。


 あともう少しで、母さんを救えなかった無様な自分に終わりを告げ、新たな旅立ちを迎えられる。


 夢を叶える第一歩を、踏み出せる。


 この先に何が待ち受けていようと、俺は逃げないし、怯まない。


 両親の弔いのため、何より自分自身の未来のために、俺は必ず、成し遂げてみせる。


 必ず、この世界を変えてみせる……!!


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挿絵(By みてみん)

蓮元(はすもと) 夏神(なつみ)


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《次回予告》


《それはつまり――ついに〝運命の日〟が訪れたことを意味していた。》

《なぜなら今日は、俺にとって、望みを叶えるために地獄から()い上がる、記念すべき日となるからだ――。》

「……行くのか?」


次回――Episode 9 :【背中越しの別れ】

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