Episode 11 :【戦いを終え、今もなお雨は降る】
――俺は、勝利の余韻に浸るよりも先に、首元に下げていた〝Future-Phone〟を手に取り、ロックを解除。
巨大蜂との戦闘映像が、ちゃんと録画されているかを確認した。
……よし、問題ない。
大雨のせいで画質は悪いし、多少のブレはあったが、撃破の証拠としては、十分すぎる映像だ。
なぜ、俺はそんな映像を記録していたのか。
理由は、単純明快――〈御門大江戸〉に入国するためだ。
〈御門大江戸〉と完全に隔離されている〈アフターエリア〉だが、一つだけ繋がっているルートがある。
その唯一の接点は、〈狭間交信局〉と呼ばれる場所だ。
その〈狭間交信局〉は、『〈アフターエリア〉を警邏する〝治安維持型フレンド〟の活動拠点』以上の意味合いはなく、〝トガビト〟――つまりこの場所に住む人間は、一切の干渉を許されていない。
……しかし、こんな噂を聞いたことがある。
アタッシュケースを抱えた何人かのトガビトが、そこを訪れた――そしてその後、二度と〈アフターエリア〉では姿を見かけられていない、というものだ。
もしそれが本当なら、相応の代価さえ払えば、秘密裏に入国することは可能ということだ。
眉唾物の噂だが、信じてみる価値はある。
つまり俺にとっては、今撮影した、この映像こそが、代価となるわけだ。
《御門大江戸》の連中にとっても、《ヒューマネスト》は、驚異的な存在のはず。
そんなバケモノを、俺は単独で撃破した。
となれば、充分戦力として認められる可能性はある。
そう信じ、この動画を持っていく。
それが、俺の次なる第一歩だ――。
――ピコン。
〝Future-Phone〟にロックを掛けようとした時、ネスト速報のアプリから、通知があった。
《DD》の惨劇後、ここ〈アフターエリア〉では、公共の報道機関は、マトモに機能していなかった。
しかし現在では、ネスト速報という、「現在確認されている《ヒューマネスト》の出現地や、被害状況などを伝達するシステム」がある。
さらにこのアプリには、〝Future-Phone〟を所持している場合は、その現在位置と照らし合わせて、安全かつ速やかに避難できる、逃走経路を指示してくれる機能もある。
もはやネスト速報の存在は、〈アフターエリア〉で生活する人間の、生命線とさえ言えるだろう。
そのネスト速報から通知が来たので、「まだ近くに《ヒューマネスト》がいるのか」と身構えるが……どうやら、ネスト速報が伝えたいのは、別のことらしい。
気になったのでアプリを開いてみると、
『〈速報〉〝謎の白髪剣士〟、またも見参!
その正体は、敵か味方か!?〈必見〉』
……というタイトルの記事が、ページの一番上に掲載されていた。
――〝白髪の剣士〟。
どこからともなく現れ、《ヒューマネスト》を撃退しては、瞬く間に姿を消す。
1年ほど前から存在が確認され、度々話題に上がる、謎の人物。
しかし、その目撃証言は、正直言って、どれも決定打に欠けるものばかり。
「少年だった」と唱える者もいれば、「女の子に見えた」、はたまた「人間のフリをした何かだ」とさえ言う人もいるからだ。
確かに共通しているのは、純白の髪と、日本刀を携えているという特徴。
そこから〝白髪の剣士〟と、いつしかそう呼ばれるようになった……らしい。
せっかくの機会だから、もう少しこの記事を、読み進めてみることにしよう。
『今から三十分ほど前、AE-B-G13地区で、砲台を背負った巨大ネズミと戦う、白髪の剣士が確認された。
剣士は、漆黒の刀で砲台ネズミを斬り裂いた後、またもどこかへと去っていったという。
神出鬼没の剣士の目的は、何か?
果たして彼は、あるいは彼女は、人類の味方なのか?
我々も調査を試みているが、未だ真相は、全て謎に包まれたままである。
白髪の剣士は、これまでも幾度となく、《ヒューマネスト》を撃破してきた。
我々は、彼、もしくは彼女が、〈アフターエリア〉の守護者であることを、願うばかりだ……』
……という旨の記事本文を読み終え、俺は〝Future-Phone〟のロックを掛ける。
そして、《HERO》をクルクルと回転させた後、ホルスターに納めた。
そのまま俺は、薄暗い雨雲を、ふと見上げていた。
……昔、母さんが言っていた言葉を、思い出す。
花にとって雨とは、成長を促す恵みであると同時に、大地を腐食し、太陽を覆い隠す、脅威でもあると。
『残酷な世界の理に叛逆し、この世界を根底から変えてみせる』。
そんな過酷な道を歩み始めた俺を歓迎したのは、焼け焦げた大地の熱を冷ます……そんな雨だった。
『願わくはこの雨が、恵みと祝福の雨であると、信じたい』。
雨に打たれたせいか、どこかセンチメンタルな感情を抱いたまま、俺は〝俺達〟を拒絶する地平線の防壁へと、向かった――。
――今日という〝運命の日〟、俺は斎賀先生から託された《HERO》と共に、未来への一歩を踏み出した。
そしてこの瞬間から、本当の意味で、俺の人生という物語は、始まりを告げる。
そう、これは、地獄で咲いた一輪の花が、腐り切った世界を浄化する物語――。
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人間と花は とてもよく似ている
どちらの命も 儚く散る 脆いもの
世界は そんな僕らを「無様だ」と嘲笑う
それでも僕は 雨にも負けず 風にも負けず
凛と咲き誇る美しさを 信じていたい
(蓮元 夏神)
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《次章&次回予告》
《俺は、次なる目的地である〈狭間交信局〉へと向かう。》
「……じーっ……」
《……ところで、物陰にいるあいつは、いったい何がしたいのだろうか。》
次章――【出会いと別れ、それは新たな運命の幕開け】
次回――Episode 12 :【物陰に潜み、覗く影】
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それでは、また次の章で、お会いしましょう!
「【T.F.B】の物語が、あなたの人生に、小さな輝きを届けられますように!」




