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2050年、世界崩壊。二人の少年が、地獄と化した世界の運命を変える物語。【トゥエンティー・フィフティー・ベイビーズ】  作者: (冬ω冬)Win Poli(╹冬╹)
【First Story of the Babies:《〝世界を浄化する地獄の花〟》】

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Episode 9 :【背中越しの別れ】

 ――斎賀(さいが)先生から《HERO(ヒーロー)》を託されて以来、俺は相棒を使い熟すために、これまで以上に過酷な訓練を積み重ねてきた。


 動体視力、瞬間判断力、射撃精度(エイミング)を、鍛えるために。


 特に問題だったのは、狙撃時に生じる、強烈な反動。


 それを克服するため、眠気も痛みも押し殺して、光線銃(レーザーガン)を撃ち続けた。


 腕が()じれて、変な方向に曲がったことも、一度や二度じゃない。


 それでも俺は、引き金を引くのをやめなかった。


 俺はその激痛すらも、乗り越えるしかなかった。


 この足を、一度でも止めてしまったら……今まで積み上げてきたものが、全て崩れてしまう気がしたから。


 そんな俺の努力は、少しずつ実を結んでいく。


 最初は、撃つだけで吹き飛ばされていたが、次第に安定して照射できるようになった。


 やがて、最終目標だった〝移動しながらの射撃〟と〝片手だけの射撃〟も、習得した。


 まるで暴れ馬のようだった光の猛獣(ヒーロー)を、ようやく手懐けることができたのだ。



 ――そうして時は流れ、《HERO》との出会いから、気付けば1年の歳月が経っていた。


 それはつまり――ついに〝運命の日〟が訪れたことを意味していた。


 2055年、3月13日。


 あの《大災厄の日》の後に改められた年号で言えば、黎明(れいめい)5年、3月13日。


 時刻は、午前7時ちょうど。


 生憎(あいにく)、空はどんよりと曇り、予報では一日中大雨が続くとされていた。


 だけど、今の俺の心は、晴れ渡る蒼穹(そうきゅう)のように、澄み切っている。


 なぜなら今日は、俺にとって、望みを叶えるために地獄から()がる、記念すべき日となるからだ――。



 ――〈アフターエリア〉に在住する有志が作成・運営している、〝ネスト速報〟というニュースアプリ。


 それをインストールしている俺の〝Future-Phone〟に、そのアプリから、一つの通知が入った。


 ――『AE-A-B6地区で、《ヒューマネスト》の活動反応を確認』。


 現在地から、そう遠くない場所。


 とはいえ、今から全力で向かったとしても、被害を完全に防ぐことはできない。


 それでも、今すぐ向かえば――これ以上の犠牲は、減らせるはずだ。


 だとしたら、迷っている暇はない。


 前日に用意しておいたリュックを背負い、〝Future-Phone〟もストラップで、しっかりと固定した。


 お気に入りのスニーカーも、自動靴紐調整機能のおかげで、最適の履き心地だ。


 これで、準備は万端。


 あとは――もう一つの我が家から、旅立つだけだ。


「……行くのか?」


 地上へ向かうエレベーターへ向かおうと、立ち上がった瞬間――背後から、声が飛んできた。


 振り返ると、()れたてのコーヒーの香り漂う、白いシンプルなマグカップを手にした斎賀先生が、そこにはいた。


 その声は、いつもの厳格さを欠き、どこか弱々しくて……心に引っかかるものだった。


 俺は軽い会釈(えしゃく)をし、マグカップを受け取る。


 コーヒー豆の配合だとか、挽き方だとか、特にそういったこだわりがあるわけではない。


 だが、突き刺すような雑味や酸味がなく、ブラックなのに、不思議とほんのり甘い。


 斎賀先生が、俺のためだけに淹れてくれた、コーヒー。


 厳格な先生が、時折ふっと見せてくれる、優しさの味。


(……この一杯が、今日で最後になるのかもしれない)


 だからこそ俺は、先生の顔を、見なかった。


 今、目を合わせてしまったら、旅立つ決心ができなくなると思ったから。


 だからこそ、空になったマグカップをそっと返し、胸にある言葉は呑み込んだまま、静かに一歩を踏み出す――。


「この周辺の〝フレンド〟は、私が追い払っておいた。腰に《HERO(そんなもの)》をぶら下げたお前が、捕獲されんようにな。

 まったく……これでお前は、二度と私に足を向けて寝られんぞ」


 後ろから飛んできた、少し嫌味混じりの言葉。


 その言葉に、俺は思わず、小さく笑う。


 だけど、俺には分かっていた。



 その言葉の裏には――溢れんばかりの愛が、込められていたことを。


 そしてそれが、斎賀先生なりの、愛情表現だってことも。


「……行ってきます、先生」


「おう。気が済んだら、手土産に鯛焼きでも買って、戻ってこい」


 背中越しに受け取った、先生の見送り。


 その重みをしっかりと感じながら、俺は旅立ちに相応(ふさわ)しい軽やかな足取りで、エレベーターに乗り込んだ。


 そして、ドアが閉まる直前、振り返り、深く頭を下げる。


 それが俺なりの、精一杯の感謝を伝える方法だった――。


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挿絵(By みてみん)

斎賀(さいが) 天寿郎(てんじゅろう)


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《次回予告》


《数年ぶりに、直接この目で見渡す、外の世界――。》

【ギジジジジジジ……ッ!!】

《――だとすれば、話は早い。先手必勝だ。》


次回――Episode 10 :【黎明告げる銃声】

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