BEAST部隊 始動
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十階層《ギフトの門》は、その日を境に姿を変えた。
正確には、門そのものではない。
それを扱う人類側が、変わった。
最初の実験部隊による帰還から二週間後。
日米両政府は、塔に関する情報を最高機密として統合管理する共同協定を締結した。
公には“未確認災害対策合同演習”。
だが実態は違う。
塔は、資源だった。
兵器であり、進化装置であり、そして――人類を次の段階へ押し上げる可能性そのものだった。
ギフト適合者たちは、再び十階層へ送られた。
今度は“被験者”ではない。
案内役として。
門を安全に通過するための先導者。
暴走個体発生時の制圧担当。
そして、新たな異能部隊を作るための“核”。
結果、統計は明確な形で現れた。
暴走率、およそ一割。
肉体崩壊、精神消失、怪物化。
理由も条件も未だ不明。
だが、九割は“定着”する。
そのうち、およそ七割。
彼らは動物の特性を得た。
犬、猫、狐、虎、熊、爬虫類、水棲種――。
耳や尾だけの軽微な変異から、筋力・感覚・反射神経そのものを変化させる本格的獣人化まで、程度には差があったが、共通していたのは極めて高い身体能力だった。
そして残る三割。
それらは、“希少種”と呼ばれる。
ノーマン・ガーランドのように、肉体を異形へ変身させる者。
赤星帝のように、眼球そのものに異能を宿す者。
触れるだけで傷を塞ぐ治癒能力者。
ESP能力に目覚める者。
重力を歪める者。
雷を纏う者。
炎を操る者。
存在しないはずの幻獣――を思わせる能力を発現する者すら現れ始めた。
人類は理解する。
これは単なる超能力ではない。
“生物としての上位変異”だと。
こうして、日本とアメリカは共同で異能戦力の育成を開始した。
存在そのものが国家機密。
戸籍を消された者。
死亡扱いとなった者。
特殊部隊から転属された者。
様々な経歴を持つ適合者たちは、地下へ集められていく。
その中でも最大規模となったのが――
《BEAST》。
獣人化適合者を中心として編成された、塔攻略専門部隊。
総勢二百名。
耳や尾を持つ兵士たちが整列する姿は、もはや通常軍隊ではなかった。
犬系は索敵と追跡。
猫系は隠密と夜間戦闘。
熊系は前衛突破。
鳥類系は高所機動。
能力に応じた役割分担が急速に体系化され、塔内部での戦闘効率は通常兵士時代を遥かに超えていく。
十階層は完全なセーフエリアとして確保された。
無数の鳥居が並ぶ静寂の空間。
その一角に、巨大な前線基地が建設される。
発電設備。
医療区画。
兵站倉庫。
簡易司令部。
鳥居の異様な景観の中に、無骨な軍用コンテナ群が並ぶ光景は、現実感を失わせる異様さだった。
そして、
ついに。
人類は初めて、十階層より上への本格侵攻を開始する。
攻略指揮官はノーマン・ガーランド少佐。
現場統括は赤星帝三佐。
一チーム六名。
計四チーム。
各隊には必ず一名以上の希少種を配置。
さらに獣人系能力者を組み込み、近接・索敵・制圧能力をバランス良く構成していた。
十一階層への階段を上った瞬間。
そこに広がっていたのは――街だった。
高さ十五メートルはある巨大空間。
天井は見えないほど高く、空には太陽の代わりに白い光球が浮かんでいる。
石畳。
木造建築。
井戸。
市場跡。
まるで中世都市そのもの。
だが。
人間はいない。
代わりにいたのは。
犬の頭部を持つ人型生物。
「……コボルトか」
双眼鏡を覗き込んだ斥候が低く呟く。
犬頭人。
身長は一五〇センチ前後。
粗末な鎧と槍を装備し、集団で巡回している。
統率もある。
言語らしき吠え声で連携し、明確な警備行動を取っていた。
さらに問題は、その数だった。
「東西南北、それぞれに巨大階段を確認」
「各階段に防衛部隊」
「……それと、“ボス個体”がいます」
映像が司令モニターへ映し出される。
東の階段。
巨大な戦斧を担いだ黒毛のコボルト。
西。
全身を金属鎧で覆った大盾持ち。
南。
赤い外套を纏い、杖を持つ個体。
北。
異様に細長い体躯を持ち、二刀を携えた白毛種。
全て、通常個体より一回り以上大きい。
「ネームド……ってやつか」
ガーランドが腕を組む。
ゲームじみた単語。
だが、現実だった。
斥候部隊が続ける。
「四体とも、階段付近から離れません」
「守護対象として固定配置されている可能性があります」
赤星は街の地図を見下ろした。
四方向へ伸びる街路。
中央広場。
そして、その先にある巨大階段。
「同時制圧しかないな」
一箇所を攻撃すれば、他が増援に動く可能性が高い。
ならば。
全てを同時に叩く。
ガーランドが口元を歪めた。
「派手に行くか」
四チーム同時突入作戦。
「さて、人類と異世界種族との本格的な戦争の開始しようか…」
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