鬼と炎
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――焼ける。
空気が、ではない。存在そのものが焼かれているかのような圧迫感。
ジャック・ハンター少佐――いや、もはやそれと呼べるかも分からない炎の存在が、ゆっくりと赤星へ歩み寄る。
一歩踏み出すごとに石畳が赤熱し、靴底が溶ける音がした。
「射撃やめろ! 散開しろ!」
ガーランドの怒号が飛ぶ。
だが数発の弾丸はすでに撃ち込まれていた。鉛は炎に触れた瞬間、液体のように歪み、蒸発する。
効いていない。
完全に“物理法則の外側”にいる。
「……チッ」
赤星は舌打ちし、正面からその“化物”を見据える。
赤眼が、さらに強く光る。
「…止まれ!」
視界が血のように染まり、対象の輪郭が歪む。通常なら、これで動きは止まる。意思をねじ伏せ、肉体ごと制御を奪う。
だが――
『……効きが浅い』
炎の中に、“意志” がほとんど残っていない。
命令を受け取る主体が、すでに希薄だ。
「ノーマン!」
「分かってる!」
ノーマンが横合いから突っ込む。手にした特殊弾を装填したライフルを、至近距離で撃ち込む。
着弾。
――爆ぜる。
衝撃で炎の一部が吹き飛ぶ。だが、それだけだ。
裂けた炎はすぐに収束し、より濃く、より高温に変質する。
「逆効果かよ……!」
ノーマンが距離を取る。
その瞬間、炎の腕が振るわれた。
熱で空気が歪む。
「――ッ!」
赤星が割り込み、ライフルで受け流す。
制服の袖が一瞬で焼け落ち、皮膚が炭化しかける。だが赤星は顔色一つ変えない。
「止まれって言ってんだろうが!」
赤眼が、さらに深く“命令”を叩き込む。
見えない圧が、炎の中心へと収束する。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
炎の動きが鈍った。
「今だ、ノーマン!」
「了解!」
ノーマンが再び踏み込む。今度は撃たない。巨大な戦斧を横薙ぎ一閃。
炎の中心――かつて胸部を両断する。
分断された身体がお互いを引き寄せ、合体する。
「クソッ!」
炎が膨張する。
爆発的な熱が周囲に広がり、二人を強制的に押し戻した。
「三佐!」
誰かの叫び。
だが赤星は退かない。
一歩、踏み込む。
靴底が焼ける。肺に入る空気が熱い。それでも止まらない。
視線は、ただ一点。
炎の“核”。
『あるはずだ……』
完全な無秩序ではない。動きに“中心”がある。
それを押さえ込めば――
そのとき。
背後で、別の圧力が動いた。
「……ぐっ…がぁぁぁぁっ!」
低い、濁った咆哮。
東条勇人――鬼と化した男が、ゆっくりと動き出す。
赤星の命令で“止められていた”はずの巨体が、軋むように一歩を踏み出す。
「マジかよ……制御、破られてるぞ!」
ガーランドが舌打ちする。
鬼の瞳が、炎を捉える。
本能か、それとも残滓の理性か。
敵を認識している。
次の瞬間。
鬼が咆哮を上げ、炎へと突進した。
「――!?」
衝突。
巨体と炎がぶつかり、衝撃波が鳥居を揺らす。
鬼の腕が炎を掴む。
肉が焼け、煙が上がる。それでも離さない。
「グ……ォォォォオオ!!」
絶叫。
だがその声には、ただの暴走とは違う“何か”が混じっていた。
「……東条……?」
赤星が呟く。
炎が鬼を焼き尽くそうとする。だが鬼もまた、力任せに押し潰そうとする。
均衡。
拮抗。
「今しかねえ!」
ガーランドが叫ぶ。
赤星は迷わなかった。
一気に踏み込み、炎と鬼がぶつかる中心へと飛び込む。
赤眼が、限界まで輝く。
「――鎮まれ!そして…止まれ!」
今度は、命令ではない。
“支配”だった。
炎と鬼、その両方へ。
空間そのものをねじ伏せるような圧力が、中心に叩き込まれる。
一瞬。
世界が、静止した。
人の姿に戻り、彫像のように固まった二人。
「よし! 撤収準備だ!」
ノーマンの指示に、皆が一斉に作業にかかる。
「東條はワイヤーで縛り上げろ! ジャック少佐は耐火服を着せて担架だ!」
赤星は疲労した表情で部下に指示を出す。
「下に戻って、暴れられても困るからな」
「許せ、東条」
動物の耳のカチューシャをつけたような獣人となった部下たちが、二人を担架に乗せる。
二人を担架に乗せて、門を逆から抜ければ、地上で待機してる回収部隊がラボに二人を連行する手段になっている。
「カーミラ・D・佐藤…また部下を失ってしまった」
「二人は赤星の能力で救われたんだ、胸を張れ! お前はお前の仕事をした」
ノーマンが力強く、赤星の背を叩いた。
「それにしても二十四人のうち、三人か…12.5%が制御不能…多いと見るか、少ないと見るか…」
この後、どうなるか…それを決めるのは彼らでは無い。
「に、しても…アイツら…人間止めさせちまったな」
「あぁ、新しい人種差別とか、生まれんといいがな…」
それも踏まえて、その先は日本とアメリカのトップ会談で方向性が決められる事となる。
「まあ、ひとまず、帰って一杯やろう」
「あぁ」
門から、転送されていく部下たちを見送り。
二人も帰路についた。
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