第127話 知識は実践で覚えるだけだ。
まだ毛の話してる(´ω`)
※ 三度目
新居への引っ越し祝いで届けられた某除毛クリーム。
咲のポカミスにより一班の女性陣にその存在がバレてしまった。
旅先でも日課のようにムダ毛の処理を実施する咲。
まさか無自覚に瑠璃達の前でも使うとはな?
(少々、想定が甘すぎた感、あるわぁ……)
前の宿では俺と咲しか部屋に居なかったから、油断した結果なのかもしれないが、どうするべきか?
「どうしても、欲しいのか?」
「「「欲しい!」」」
「瑠璃もかよ」
「悪い?」
「全然」
あえて瑠璃の名前だけ呼んだのは、ちょっとした訳があった。
実は件の企業は瑠璃の婚約者となるアレクの実家の家業の一つ。
一グロスの品を送っているのはアレクではなく、アレクの兄貴と嫁だった。
それもあって除毛クリームの今後の需要を思案した結果、
(企業間取引ではないからどうなるか不明だが、聞いてみるか?)
関係者への相談としてスマホを手に取った俺であった。
「あー、アレク。ちょっといいか」
「「!?」」
俺が電話した瞬間、咲と瑠璃がポカンとなった。
だが、途中から聞かれては不味い単語が聞こえたためアレクの母国語で会話した。
会話の内容は言葉にすると瑠璃を傷つける恐れがあったから母国語な?
(こ、好みは人それぞれだからな? 俺からは何とも言えないぞ)
大好きな彼氏のために徹底して綺麗になろうとしている彼女。
アレクからすれば身体の成長はともかく素の状態で居て欲しいと言っていた。
綺麗になる努力は認めるが、限度があるという言い回しだな。
実家の売上に直結する話だけに、反対も出来ないが賛成も出来ない返答であった。
一応、話だけは通してくれるそうなので、折りを見て連絡してくれと言われた。
「手に入るかどうかは分からないが、先方のアポが取れるから結果待ちって事で」
「そ、そうなのね?」
「ま、待ってみるよ」
樹と間仲は不承不承という感じだが、企業間の取引が関係するから、淡い期待だけ持ってくれると有り難いな。
俺の場合は企業経営していないから凪倉の名を用いる事になった。
「「……」」
日焼け止めと同じような出来事があると困るから、出来る限り身内以外には提供したくないのだが……最悪、俺の部屋にある七十二個から提供するしかないだろう。
瑠璃の場合はガチの身内だが、アレクの手前、提供出来ないだけな。
瑠璃からはどういう事なのって感じでジッと見つめられているけども。
すると瑠璃の言葉を代弁するように咲が問いかけてきた。
「えっと、明君? アレク君と例の企業の関係って一体なんなの?」
「関係か。た、単純に言うと、親族……だな」
「「親族?!」」
驚く咲と超音波になった瑠璃。
「耳が痛いから叫ぶなよ」
「ご、ごめん」
咲と樹、間仲も耳を押さえているし。
「ようは家を継ぐ長男と嫁が経営している企業でもあるんだ。ただな、親族といえど商売人の一族だから、身内価格的な安易な融通が出来ないんだ。だから、話を通すまではアレクがしてくれるが、商談は後日行う事になる」
「なら、明君が先方と商談すると?」
「そうなるな。会長にも先方の紹介こそしたが、後は会長の努力の結果って事で」
「ああ、だから会長の会社で日焼け止めを扱い出したと」
「そういう事だ。除毛クリームだけは契約が別だから再度商談が必要になるがな」
「き、企業間の契約って面倒臭いね?」
「だな」
この商談で交渉が決裂した場合は素直にごめんなさい、だがな。
それか会長が先方と商談を進めて取り扱うまで待つしかないが。
何にしても使ってみない事には判断出来ないので会長も試用中って事で。
手に入らない除毛クリームという不毛な話題はともかく、
「そろそろ夕食の時間だよな?」
「「「「あっ!」」」」
時計を見るとそこそこの時刻になっていた。
俺はソファから立ち上がり、山田の部屋の扉をノックする。
「飯だぞ」
『うにゅ? 飯?』
どうも寝ていたような反応が返ってきた。
山田も何だかんだあって疲れているのかもな。
「夕食の時間だ。移動するぞ」
『お、おう! 今、行く! って、浴衣浴衣』
「パンイチで横になっていたか」
男の一人部屋だからそういう寝方になっても不思議ではないか。
咲もパンイチで寝ている事が多々あるし。
女子と男子のパンイチを一緒くたには出来ないけれど。
「明君? パンイチで私を見られても」
「……」
一瞬だけ視線を咲に向けていたから気づかれたっぽい。
咲の場合は事後だから山田とは異なるが。
「部屋の鍵は咲が持っていくか」
「勿論! 紛失しても困るしね」
「お腹空いたぁ」
「夕食は何が出るかな?」
「意外と山菜だったりして」
「「「山菜かぁ」」」
途中で灯達と合流し、エレベーターで食堂のある一階まで降りる。
九階で女子、八階で男子が合流してきたのでエレベーター内の密度が凄まじい。
しかも各駅停車の如く各階で止まるから時間も無駄にかかる。
すると俺達の前方、扉付近から女子の嬌声が響いてきた。
「ふわぁん!」
「ん? 今の声、誰だ?」
「「「ザワザワ」」」
呆けた声音は俺の隣で空気椅子を行う灯だった。
灯の後に前方の男女がざわめいたが。
灯の膝には大玉メロンを抱えた碧が座っていて、
「誰でしょうか? 感じた風な声音でしたけど?」
きょとんとした様子で周囲を見回していた。
そんな碧に応じたのは咲だった。
「声音的に雨乞いかな?」
「雨乞い言うな!」
ちなみに、俺の膝の上には咲が座っているけどな。
俺が空気椅子で咲を座らせたら灯も座らせただけな。
それはともかく、咲は雨乞いの叫びに応じつつ揶揄った。
「雨乞いだったのね。感じた?」
「だ、誰かが、お尻を撫でたのよ!」
「「「はぁ!?」」」
お尻を撫でた? それって痴漢じゃね?
男女が入り乱れたエレベーター内だから起きても不思議ではないが。
すると一人の男子があり得ない言葉を口走る。
「俺、見たぞ! 凪倉だった! 凪倉の手だった!」
「「「「「はぁ?」」」」」
ちょっと、待てや?!
壁際の俺がどうやって扉付近にまで手を伸ばせるというのか?
俺の正面には咲も居るし、どうやって触れると?
当然ながら近くのメンバーは何を言っているんだって感じだ。
入口側に居る女子は男子の一言を受けて敏感に応じていたが。
「凪倉君!? 出てきなさいよ!」
「「待て待て待て!」」
そのあり得ない叫びに応じたのは山田と灯だった。
「俺の真横に居る明がどうやって雨音の尻を触るんだよ」
「空気椅子で動けない凪倉が雨音に触れる? アホか」
「「「空気椅子!?」」」
俺と雨音の彼我の距離がどれくらいか不明だが、咲を座らせた状態で人口密度の高いエレベーター内を動くのは至難の業だと思う。
当然ながら俺に座ったままの咲も声の主に対して反論するよな?
「壁際で留まっている私の彼がどうやって雨乞いに触るのよ? 視力異常を起こしているなら眼科医へ通院したら? 何処のバカが発したのか知らないけどさ」
「どうせいつもの擦り付けでしょ。それこそ女子風呂の覗き魔あたりじゃない?」
「そうかもしれませんね。彼らは凪倉君が気に入らないようですし」
咲に次いで瑠璃と碧も俺を擁護した。
その流れで言わなくてもいいのに樹と間仲が暴露した。
「あー、覗き魔か。そう言えばスマホのカメラで盗撮されたっけ?」
「夜中の露天風呂でね。外道な男子も居たもんだ。死ねばいいのに」
盗撮、夜中の露天風呂、外道な男子。
二人の暴露で女子は愕然とし外道男子が同じ空間に居ると知って騒がしくなった。
「盗撮ですって!?」
「それって、昨晩のグループに回ってきたあの?」
「あれって、中止に追い込んだはず? なんで?」
「夜中とか言っていたから、隙を突いたとか?」
「ゆ、許せない! 盗撮犯共、出てこい! とっちめてあげるから!」
「「「ヒィ!」」」
あの覗き魔達も同じエレベーターに乗っていたのか。
おそらく雨乞いの尻に触れたのは覗き魔達の誰かで、咲達のやりとりを利用して、俺に擦り付けたかっただけだろう。
現実は物理的な距離があるから触れられない話なんだが。
但し、咲の尻に触れているのは置いておく。
「これは早急に強制送還して退学処分にした方がいいな」
「「「退学処分!?」」」
「だね。父さんにお願いしてヘリを寄越してもらうよ」
「「「ヘリ?!」」」
「ほぅ。数時間後には地元の空の上か?」
「「「……」」」
「ヘリの中で暴れるようなら、暗闇のスカイダイビングでもさせたらどうよ?」
「スカイダイビングか。それならパラシュート無しでいいな!」
「「「!?!」」」
「いや、それは死ぬって」
「ん? 死ねばいいのにって間仲が言っていたから」
「どうせ落とすなら地元の空ではなく海上でいいだろ。穢れるし」
「「「……」」」
「なるほど。海の藻屑として処理すると。良い考えですね?」
「「「「死ねばいいよ。そんなクズ!」」」」
少々物騒な話題となったが、ヘリを寄越す以外は冗談だ。
これを冗談と捉えるか本気と捉えるかは覗き魔達次第だが。
エレベーターが一階に到着すると覗き魔達はエレベーターから飛び出した。
「「「きゃあ!」」」
外に出ようとする女子達を押し退けて床に倒れようが気にせず飛び出していった。
「ありゃ? 入口側に走っていったか?」
「ああ。あれはガチの逃走だな?」
「おいおい。財布も荷物も持たず逃走って、アホか」
ゾロゾロと他のクラスの男子達も出て、倒れた女子達を起こしている。
最後に俺達も外へ出て状況を注視した。
「酷いな。アレ?」
「所詮は外道の舎弟ってことだろう」
「D組に集中しすぎじゃない?」
「脅されていた者達が多かっただけかもしれませんね」
「脅されていた、か」
あの兄弟に脅されて色々染まった者達であったと。
「これって、朱に交われば赤くなる? だったか」
まさに諺通りの異常行動を示す者達になっていた。
すると咲が嬉しそうに笑いながら左腕に抱き着いてきた。
「明君も諺が使えるようになったんだね」
「バカにすんな」
「褒めてるよ?」
いや、褒めているように聞こえないぞ?
俺が苦手な諺を発したからか会話を聞いていた担任もニヤけていた。
「ふふっ。順調に学んでいるようね」