第126話 思惑はともかく楽しもうか。
家の事情で再度、宿に干渉された娘の咲です、こんばんわ。
私と瑠璃の中学時代の母校こと、女子校の自由行動と丸かぶりした所為で我が校本来の予定が消化出来ず、結果的に宿へと直行して今に至るわけだけど、
(ま、まさか? マジで? えー? なんでぇ?)
困惑した様子の担任がフロントから入口へと戻ってきて戸惑いながら口にした。
「や、宿の御厚意により……」
以下同文って感じで最上階の部屋の鍵を私と碧に手渡してきた。
私達が鍵を受け取っている最中、一部の男子達が口を揃えて叫んだ。
「「「またぁ!?」」」
ここで叫ぶ理由が分からない。
叫んだあともブツブツと文句を垂れる男子達。
彼らは生徒指導に拘束された例の問題児だった。
(またって何? またって?)
彼らの思惑は分からないが、不愉快な視線が私と碧のお尻に刺さったので、ある意味で貞操の危機を回避したと思うしかないだろう。
すると明君が私の腰を抱き寄せながら耳元で問いかけてきた。
「咲、お義父さんに伝えたのか?」
「つ、伝えたって……」
この問いかけから判断出来るのは戸惑い気味に私の手許を見つめる班員達かな?
「二人のこと?」
何故か部屋割りで一班だけが最上階行きになったから。
「ああ。被害に遭ったのはあの二人だからな」
明君はチラッと美紀達を一瞥し、私に視線を戻した。
問われて答えられるのは一つしかないわけで。
「いや、伝えて、いないけど……」
私が俯きながら答えたところ、明君は怪訝な様子になった。
「伝えて、いない?」
私が父に伝えたのは女性警備員の不可解な行動だけ。
覗き魔が現れたとしても伝える気にはならなかった。
最初は女子校の被害と思っていたし、先生方が解決すべき事案と思ったから。
後になって我が校の女子を相手にした犯行と知り安堵もあったが反応に困った。
(被害者達が良く知る人物だったから、父さんといえど男性に伝えるのはちょっと)
明君は別なんだけど、そこは信頼の差って感じかな?
父に信頼云々を伝えると延々寝込むと思うので口にはしないが。
肝心の先生方も「漏らさないように!」と注意してきたしね。
それは被害者達への配慮か、知名度への配慮か不明だが。
「なら……内部調査した、か」
内部調査。
父ならそれくらいの指示は出しているかもね。
一部の盗撮行為で宿への信用を失うわけにはいかないからね。
警備の隙、関係者以外立入禁止の場所へと不法侵入を許した形になったから。
「おそらく、不審な動きを示した学生が防犯カメラに映っていたからだと思う」
そうとしか思えないしね。
二次被害、三次被害が発生しないよう、宿の警備体制も見直し中なのだろう。
フロントの裏側が妙に慌ただしいから。
「それに気づいて直前の映像から判断した、か」
判断して私に身近な生徒だけでも護るように動いたと。
未だに不可解な行動を示す拘束された覗き魔達。
懲りずに本日の宿でも蠢きそうな予感がした。
それは誰の指示で動いているのか知らないが、
(お尻に突き刺さった不愉快な視線といい……やりきれないよね)
一度きりの修学旅行くらいは平穏無事に過ごしたいね。
ちなみに、別の二人こと碧と灯君は若干困惑気味だ。
しかも、バスケ部の部員達に冷やかされ、雨乞いが羨望の眼差しを送っていた。
お陰で同室の女子が歯ぎしりに苦しむ事になるかもだけど、どうしようもないね。
(歯ぎしりで、眠れない夜、月夜の露天、卑劣な覗き魔、壁に埋めたい……)
私達はエレベーターに乗って、途中でクラスメイト達と別れ、最上階へと向かう。
割り当てられた部屋は別館の最上階にあった。
碧と灯君はイチャイチャしながら一室に入っていく。
私も明君と入りたかったけど、今回は班行動なので諦めた。
室内に入って直ぐ大興奮となった瑠璃以外の三人を一瞥しつつ、
「予想よりも広い部屋だね」
「そうだな。個室の扉は全部で」
六つあった。
二つは男女別のトイレ。
一つは脱衣所兼内風呂だった。
お風呂の扉を開けるととんでもない広さの内風呂が顔を出したよ。
全員で入っても問題無い規模の湯船が鎮座していた。
全員で入るなんて真似はしないけどね。
明君はともかく、山田君も居るし。
美紀達の裸体を明君に見せたいとは思えないし。
由真のお尻だけは大きいが、断崖絶壁が顔を出すから。
美紀と瑠璃はノーコメント!
すると明君がリビングのソファにデイパックを置きながら、
「窓際、廊下側、大きな寝室が一つ、か」
簡単な部屋割りを決めようとした。
だが、決める前に希望を口走っていた四人であった。
「俺は廊下側でいいぞ」
「「「私達は窓際で!」」」
美紀達と瑠璃は同室か。
窓際はベッドが三つ、廊下側はツインなのにシングルだけだった。
無駄に広い部屋には山田君が入っていき、
「というか咲は大きな寝室よね?」
「うんうん。蹴りが入るし」
「下手すると極められるし」
窓際の部屋には希望通り三人が入っていった。
ここで私の寝相を理由にされたらぐうの音も出ないよ。
「ぐ、ぐぬぬ」
大きな寝室はツインだった。
だとしても、私達はいつも通り、同じベッドで寝るけどね。
但し、小咲が目覚めると困るので夜戦は家に帰るまでお預けだ。
そして、お風呂は私達が先に入り、
「「いい湯だぁ」」
「四人で入っても問題無さげだよね。この湯船」
湯船に浸かるのは美紀達と瑠璃の絶壁族だけだった。
私はいつもの調子で身体を洗い、除毛クリームを下半身を中心に塗っていた。
この除毛クリームは明君宛に送られてきた、一グロスのお祝いだ。
(新居への引っ越し祝いで届いたコレを示された時、ポカーンとしたよね)
試しに明君が自身の両の脇毛を抜いていたから。
痛み無く抜ける毛『ハゲには辛い現実だな』なんて言っていた明君。
あまりに効果が抜群だったため私も試用させてもらい、
(おぉ! 効果が出てきてる。このまま綺麗な素肌になれば万々歳だよね)
無意味に思える碧にもお裾分けしておいた。
ほぼ和ちゃんが使っているみたいだけどね。
当然、会長と副会長にもお裾分けして家に残っているのは七十二個。
一人十八個で分割し、会長達と碧は半分を妹に差し上げたらしい。
なんだかんだ言っても私達の関係者はムダ毛処理に悩む女の子だもの。
明君も無駄にするより使ってもらった方が助かると言っていたから。
(洗い流して〜。うん! 綺麗さっぱり!)
なーんて、一人でウキウキしていると湯船に浸かる三人の視線が刺さった。
「「「そ、それは!?」」」
「あっ……」
そうそう、この三人が湯船に居たこと完全に忘れていたよ。
除毛が日課になっていたから自然と塗って流していたよね。
「えっと、あ、明君からのプレゼント……的な?」
「「「プレゼントぉ!?」」」
本当は違うけど私が買ったとは言えないしね。
「ど、ど、何処で、買ったの?」
「それなんて、日焼け止めのメーカーじゃない?」
「そ、そうよ! そのロゴマーク!」
「え、えっと……これは明君の伝手で得たような物だから」
「「「伝手!?」」」
そう、言い訳するしかないわけで。
私が湯船に浸かっている間も三人の話題は除毛クリームにあった。
「伝手って事は国内販売で得た代物ではないって事よね? 彼に聞いてみる?」
「あのクリームは国内販売されてないの? 瑠璃の彼なら得られるの?」
「いや、聞いてみない事には分からないけど……」
「分からないのぉ? どうにかして手に入れられないの?」
「……」
家に帰れば七十二個ほど残っています……なんて言えないよね。
私はそこで除毛の単語から、覗き魔達の撮影した映像を思い出した。
「瑠璃はともかく、既に剃ってしまった二人の場合、ムダ毛が伸びてから使う方がいいかもね。毛根の場所が特定出来ないし」
「「えっ?!」」
思い出して口走ったら信じられない表情に変化した美紀達であった。
「確かにそうね。私は帰宅後に処理するつもりだったけど」
「ちょ、ど、ど、ど、どうして、どうして、知ってるのぉ!」
「か、隠しているのに! み、み、み、見えてないよね?!」
おいおい、この子達は何処を剃ったのよ?
映像には太腿の産毛を剃る光景が映っていたけど。
(もしかすると死角では……あり得るかもね)
一先ず、私が何故知っているのか、この後、語る事にした。
ただね、このまま入りっぱなしだと湯あたりするので、
「「えー!?」」
リビングで寛ぎながら伝えた私であった。
瑠璃は他人事と、お茶を飲んでいたけども。
「そ、それってD組の?」
「あ、あの、変態共が?」
「証拠映像は咲が消したけどね」
「残せないよね。断崖絶壁と剃毛中の二人の姿とか?」
「「見られてたぁ!?」」
とんでもない羞恥と覗かれた絶望感。
私も盗撮された経験があるけど許せる話ではないよね。
すると居たたまれない雰囲気の明君達がこそこそと話し合っていた。
山田君は颯爽と自身に割り当てられた部屋へと逃げていったが。
(女子の秘密の会話だもんね。反応に困るよね)
明君が私の背後を素通りする際に、コソッと今の話題を伝えると、
「「そうだった! あのクリーム売らないの?」」
「ク、クリーム? 何の事だ?」
「「除毛クリーム!」」
「……」
何故か除毛クリームの話題に移行したのであった。
のちに転売ヤー経由の金額を示されて宇宙猫になったのは言うまでもない。
§
その後、明君もソファに座り、今回の会話の経緯を知った。
「それでか。いや、売らないのかって言われても取引が」
その企業が凪倉や白木と取引したら手に入るかもしれないけど、今はどう足掻いても無理だと思う。
それが明君の伝手であったとしてもね。
「それも、そうね」
「でも、伝手で得たって咲が」
「おいこら」
「ごめんなさい」
新居の引っ越し祝いで戴いた品とは言えないしね。
日焼け止め事案と同じような騒ぎになってしまうから。
すると明君は天井を眺めながら唸り、
「どうしても、欲しいのか?」
「「「欲しい!」」」
「瑠璃もかよ」
「悪い?」
「全然」
困り顔のままスマホを取り出して誰かに電話した。
「あー、アレク。ちょっといいか」
「「!?」」
ま、待って?
伝手って瑠璃の彼氏!?
また毛の話してる(´・ω・`)
※ 二度目