第123話 自由行動計画は臨機応変に。
俺達の修学旅行の班行動。
急遽だが自転車移動を選択した。
レンタサイクルショップへと移動した俺達、
「明君、見て見て! 慣れたロードがある!」
「こんなところにも置いてあるのか。だが、穿いてないぞ?」
「あっ」
思い思いに自転車を選び、結果的に数台のママチャリを選んだ。
ロードも借りられたようだが、硬いサドルへ座るのは俺も躊躇する。
咲もどうせ乗るならロードと思ったようだが穿いていない状態だとな?
午後のバス移動、尻を腫らした咲がシクシクと横になる?
「これはこれで旅先の思い出になるから良いんじゃないか?」
「そうだね。こんなことならビブショーツ、持ってくれば良かったよぉ」
「いや、班行動が基本だから俺達だけ先行して走ってもな?」
「そうだった」
後は仮に着てきてもトイレで四苦八苦する咲が見られるだけだ。
ワンピースとジーンズの下に穿いてどうやって致すのかって話だから。
次の買い物では咲のレーパンを買っておく方がいいかもな。
「持ってて良かったスパッツ!」
「「「「「……」」」」」
人前でスカートを捲った瑠璃はともかく、集合予定時刻をリマインドした俺達はレンタサイクルショップから最初の目的地である河川敷まで向かった。
車列は俺が先頭を進み、二番手に咲。
次いで瑠璃と樹と間仲、山田が最後尾だ。
移動中の前後のやりとりはインカムを用いた無料通話で行った。
インカムは人数分、グループ通話で会話する事になった。
『しかし、この街並みを自転車で進むとか、良く考えたな?』
「いや、最初はバス移動でも良かったんだが、同じ宿に宿泊しているお嬢様方と遭遇するとな? どうしても……各所で大渋滞が起きると予測が出来たんだよ」
これは事前に咲が誘導尋問を行って相手方の予定を聞いていた。
それらを考慮し、自転車の選択を提案して咲達が採っただけだ。
『『『大渋滞?』』』
俺の一言にオウム返しの音声が届く。
事情を良く知る咲と瑠璃を除いた三人なんだが。
「対向車線を見たら分かるけどな」
俺は信号待ちの最中、バス停で次のバスを待つ一団に指をさした。
レンタサイクルショップから本来の経路へと戻る最中、
『ああ、昨日のオマケが大量に付いてくる、か。同じ時間帯に自由行動だから』
「そういう事だ」
想定通り、我が校の自由行動と重なって、バス停前が酷い事になっていた。
『うわぁ。バスが常時満員じゃねーか!』
『セーラー服の高校生数人に警備が数十人って、マ?』
『これって以前、瑠璃が言っていたこと、だよね?』
『そうね。あれでも少ない方だけど』
『少ない方だね。お金持ちのお嬢様を護るためだから仕方ないけど』
こちらにも令嬢が二人居るが直前で逃げに転じたので感づかれる事はなかった。
もしかしたら気づいて追ってくる可能性もあるが、それこそ空気、読もうな?
「午前中に目的の場所に向かえるかどうかは、班長の判断に任せるしかないよな」
『私がこの班の班長なんだけど? ほぼ咲の判断で動いてない?』
「『気の所為、気の所為』」
今回の移動手段についてはどうしようもないからな。
突発的な他校との遭遇、予定の丸かぶり、想定外の人員移動。
一人の女子校生に対して、二人の警備員が尾行する。
とっても面倒な民族大移動を示されたようなものだ。
「目的地は班長の樹が指示してくれ」
『りょーかい。先頭の誘導は任せた!』
「あいよ」
信号待ちのあと横断歩道を渡り、並びを変えて車道脇を目的地まで走っていった。
途中途中でバスに乗る者達から指をさされるが気にしても仕方ない。
『さっきのバス。碧が乗っていたね』
気にしても仕方ないが視線というか驚いた表情が窓際から垣間見えた。
「満員バスに大玉メロンを抱えた碧が、か。大丈夫か?」
『座席に座っていたみたいだから大丈夫だと思う。出る時は大変だろうけど』
『ところで大玉メロンって言えるの明だけだよな?』
『単純に心配しているだけだからノーカンよ』
『チラッと彼氏が背後に見えたから大丈夫でしょ』
『いいなぁ。彼氏』
俺の位置からは見えていないが灯も同じバスに乗っていたのか。
「それなら安心か」
俺達はスマホの地図を頼りに目的地へと到着した。
『とっても綺麗な景色ね、ここ』
『ここ! テレビで見たよね!』
『見た見た! 涼しげでいいよね』
車速を緩め転けない程度の速度で進む。
『少し休憩でもするか?』
「そうだな。時間は大丈夫か?」
『少しくらい休んでも問題無いよ』
「りょーかい」
自転車から降り、途中の自販機で買ったペットボトルのジュースを飲みながら、景色を堪能した俺達だった。
休憩後の目的地は前日に行った寺院等ではなく、
「やっぱりこういう観光客の少ない場所を進むっていいよな」
『だねぇ。人々の生活感が溢れるっていうか、息遣いが聞こえるっていうか』
『ここが古都だから観光って気分も分かるけどね』
『あくまで修学旅行だから、学びを重点しないと』
『大概は見飽きているだけ、なんだけど。何度も訪れた事があるし』
『今回は俺達の選んだテーマがそれだから仕方ない』
地元民が過ごしている普段の街並みを眺めていく。
山田が発したように俺達の班のテーマは『古都の穴場探し』だ。
観光客が無駄に多い場所は既に見飽きている。
瑠璃が発したように訪れる機会が多いほど見飽きるのは確かだ。
そういった場所でも第二、第三の発見が得られる事もある。
だが、相当な余裕を持った状態でないと発見なんて出来ないよな。
時間は有限、昼食後は集合場所の宿に戻らないといけない。
「次の角にあるレストランで昼食にするぞ」
『『『『『りょーかい!』』』』』
早め早めに食事を採り、移動時間に余裕を持たせる。
昼食時は何処も彼処も一杯になるから油断ならない。
昼食でも足りなければコンビニでおにぎりを買って帰る事も考慮している。
「美味しかったね。あのナポリタン」
「うん。懐かしい味がしたよ。ハヤシライスのデミグラスソースも美味しかったし」
「あのレシピ、再現……出来るのか?」
「もしかして何が入っているか分かるの?」
「いや、何回か食べないと無理かもな。それくらい風味が奥深かったから」
「それこそ地元民に愛される味ってことなんだろうね」
「だな。店内には地元民しか居なかったし」
「ガチの方言には吃驚したよな」
「山田は漬物を出される事がなくて良かったな」
「そうね。騒ぎ過ぎて白い目で見られていたし」
「うぐっ」
楽しい食後は全員で自転車に乗り、宿へと向かって移動を再開する。
途中途中でクラスメイトと遭遇したが、
『あの子達、間に合うのかな? ちょっと心配になってきたよ』
『食堂の行列に並んでいたもんね。間に合わないならタクシーを使いそうだけど』
集合時間を把握している者達はどれだけ居るのやら?
終いには有名ラーメン屋にて食事を楽しむ碧達も居た。
『さっき、爆盛りを美味しそうに食べてる碧が見えたんだけど?』
『『あ、あの小柄の体型で爆盛りって、マ?』』
『普通、食べられる分量ではないでしょ?』
『何処に入るんだよ? あのカロリー?』
「『大玉メロン?』」
『『『『は?』』』』
揃ってきょとんになるのは分かるが、大玉メロンとしか言えないしな。
『あるいは……大きなお尻かなぁ?』
「小柄な割に大食ではあるよな。碧」
『なるほど。人は見かけによらない、か』
『というか、私が胸を育てようと思ったら、あの分量を食べるしかないと?』
『わ、私は無理かな。お腹が先に育っちゃうし、下手すると走れなくなるし』
『私はお尻が育ってしまうから無理かも。太ると中々痩せないし』
『碧の体質だけは、三人と一緒くたは出来ないかもね』
一部が育ちやすい体質だけは、な。
嫉妬の獣という隠れた性質は咲も被る。
当の咲も太りにくい体質で、食べる分量以外は似たり寄ったりだ。
体質については白木のお嬢様に共通する点なのかもな、きっと。
『『『羨ましい体質だぁ』』』
『胸を育てるのは彼氏に期待って事で。碧も盛大に揉まれたらしいし』
『それなら、私も彼氏に期待しようかな?』
『『う、羨ましい!』』
『ふむ』
すると山田が一人で唸りながら瑠璃に対して問いかけた。
『ところで次の文化祭、ウチのクラスは何をやるか、まだ決めていないよな?』
『そうね。一応、戻ってから話し合う予定だけど? それが、どうかした?』
『あの食いっぷりで思ったのだが、大食いコンテストを提案してもいいか?』
『『『『お、大食いコンテスト?』』』』
「大食いって。フードファイトを教室内で実施するのか?」
何を思ったのか知らないが、実施出来るのか? それ?
「いや、実施は可能か……教室内で調理する前提ではないから」
『そう、それ! 調理室で事前に調理する必要はあるが、イケると思うんだ』
教室内で調理する際には手間が掛からない物に限るとなっている。
ガスボンベは持ち込めない、電化製品も極端な物は使えないのだ。
これが教室外なら、たこ焼き屋等の店舗の出店も事も可能だが、肝心の店舗は三年に限られていて、一年と二年は教室内での出店しか行えないのだ……残念無念。
『何を作るかにも依るけど……大食いコンテスト、か。どう思う、咲?』
『私達は生徒会だから関われないけど、食中毒を注意すればどうにかなるかな?』
『食中毒対策は大前提でしょうけど……あの子、参加するかなぁ?』
『セロリさえ使わなければ、碧は参加するかもね』
『『『苦手な物ってあるんだ』』』
「それはあるだろ。とりあえず、要検討って事でいいかもな」
『そうだな。反応は分かったから、この線で企画を練ってみるよ』
「そうしてくれ」
ちなみに、咲が業務用に慣れていた経緯は女子校の文化祭にある。
今の高校では使っていないが、女子校では当たり前に使っていたとの事だ。
それはともかく、宿の近くまで戻った俺達はコンビニにて軽食を買っていった。
宿の前には腕時計を繰り返し眺める担任達が居て、生徒の戻りを待っていた。
「今、戻りました」
「一班は全員無事ね。お帰りなさい」
宿の周囲には四〜五人しか居なかった。
これ、間に合うのか?