第111話 勘違いと驚愕の大暴露かよ。
学校に着いて咲達と教室に向かう。
「「美紀、由真、おはよー!」」
「「瑠璃、咲、おはよー!」」
「今日も元気だね、瑠璃は」
「ようやく髪を染め直したからね!」
「「咲の旦那もおはー!」」
「うっす」
教室に着くと元気一杯、咲達が挨拶する。
俺は次いでだと思ったが山田から手招きされて鞄を置いたのち前に移動した。
俺の行動と瑠璃の甲高い声が無い事に気づいた一部のクラスメイトは驚愕していたけどな。
「「「「「!!」」」」」
それは涌田影と愉快な仲間達。
夏季講習中に俺を潰すと宣言した、不愉快な仲間達だ。
今日は何故か勢揃いして廊下側の一角で駄弁っていた。
「はよっす、凪倉」
「おう。ところで山田、小テストはばっちりか?」
「勿論。本日の小テストの結果が一番影響するからな」
俺は何があったのか知らないが、何となく山田の表情からそれが読めた。
咲曰く、いつもは左横に控えている涌田が居ないから。
ただな、ここで空気を読まず問いかけると面倒を招くと思ったので問わなかった。
あくまで俺は、な?
「ところで山田の隣に居た影が常に薄い君が居ないけど、何かあったの?」
新参が問うよりも古参が問う方が応じると思っていたら困り顔で沈黙した。
「「「……」」」
「瑠璃、空気読もう」
「気になるでしょ。いつもなら沈黙したまま咲の胸と顔を何度も見つめるキモい君が居ないもの」
「る、瑠璃、普段からそんなことを思っていたんだ」
「思っていたね。正直言うと咲も気づいていたよね」
「一応? でも、気にしても仕方ないから無視していたよ」
「咲からの一言が一番キツいね」
「そうかな?」
「まぁ、視姦していたのは私達も気づいていたけどね」
「まさか、気づいていながら無視していたとはね」
「そこらの有象無象と同じだったもん。席から離れたらお尻にも刺さったし」
「「「うへぇ」」」
常日頃、咲だけを注視していた事だけは分かったな。
近場に居たら叩いていただろうが、遠目では分からないからな。
「女子が視線に敏感ってマジだったか」
「マジだな。誰が何処を見ているかなんてのも分かるのは初耳だが」
山田と俺が戦慄していると苦笑する瑠璃から訂正が入った。
「誰がっていうか、私も見られていたしね。胸と顔に行ったり来たり」
すると瑠璃の訂正を聞いた間仲が、
「へぇ〜。平面な瑠璃が相手でも?」
口元をωに変え自分の胸前で腕を組んで強調した。
「こら! 由真! 平面言うなし。これでも少しは育っているわよ!」
瑠璃よりは大きいが咲ほどではないよな。
どんぐりの背比べ、目くそ鼻くそを笑う、か?
「まぁ、でも分かるかな。私達もそうだったし」
「だねぇ。胸よりも顔を見ろって思うよ。会話に参加する訳でもないのに頷くだけで顔と胸を行ったり来たりだもん」
「瑠璃よりは大きくても、ねぇ?」
「言えてる。顔は良くてもコミュニケーションが取れないなら意味はないよ」
「うんうん。自分の言いたい事だけ言って、他者を貶すとかね」
「瑠璃の事が気に入らないからって、陥れたりね」
それらは花火大会での出来事だろう。
あれ以降、クラス内の雰囲気は一部を除いてギスギスしている。
一部というのは仲間達の周囲だけ。
他は中立派として片方が良くなればそちらに加勢するだけだ。
現状は上位勢力寄りになっているかもな。
彼らは仲間達の動き次第で鞍替えする者達でもあったりする。
俺にとってはどうでもいい派閥ゲームでしかないがな。
「それがキモい君が居ない理由?」
「「そ、それだけではないかな?」」
まだ理由がありそうだな。
すると山田が左隣から俺に耳打ちしてきた。
「嫁に言うと怒られるからお前には教えるが」
「なぬ?」
それは咲が知ると股間を蹴り上げる言葉を発したからだ。
俺達が通学してくる前に瑠璃の名字が変わった事を教えると、
『これで白木は俺の嫁になったも同然だ! このまま凪倉潰しも並行して行ってやるぞ!』
大声で発してしまったのだ。
瑠璃が俺と結婚したとか思い込んでな。
周囲はそれだけで白い目に変わり、一部を除いて距離を取った。
つか、凪倉潰しも並行にって後ろ盾は誰なんだか?
「俺達はまだ婚姻可能な年齢じゃないだろ?」
「影に法律の概念が存在しないと知ったら関わりたくないって思えるぞ」
「ああ、非常識だと知ったら離れたいわな」
「捕まった地雷兄弟と同じと思うほどにな」
「確かに」
直後、俺と山田の会話が咲の耳にも入ってしまい、目の笑っていない満面の笑みに変わったと思ったら、涌田に向かって歩いていった。
「影が薄くて視線がとってもキモい君、居る?」
「!?」
碧を彷彿させる毒舌を浴びせられた涌田。
驚愕もあるが毒舌の傷つきよりも歓喜が顔に出ていた。
(俺の元に嫁が来たとか思っていそうだな)
だが、咲の言葉に反応したのは涌田ではなく仲間達だった。
「し、白木さんは何を言って?」
「誰の事を言っているので?」
「影が薄くて視線がとってもキモい君だよ。私を自分の物にするとか不愉快な言葉を発している、承認欲求の塊の変態君だけど。この場合は地雷と呼べばいいかな?」
「い、いくら、白木さんでも言い過ぎでは?」
「言い過ぎよ! なんでそこまで言わないといけないのよ」
「外野は黙って。一方的に物扱いを受けているのは私だから」
咲はそう言いつつ涌田との距離を測っていた。
その際に咲の右足を見れば何度も前後に振っていた。
つまり、咲はこれから奴に股間蹴りをお見舞いするつもりと。
俺は咄嗟に咲を追い、咲を強引にお姫様抱っこした。
「それは不味い。この変態に褒美を与えてやるな!」
「「「「ほ、褒美!?」」」」
「ちっ!」
舌打ちしたな。
やっぱりそれが狙いか、変態め。
「ちょ、明君!? け、蹴らせて!」
「足が穢れる! 汚物なんて蹴っても気色悪い感触が足に残るぞ!」
「あっ! そうだったぁ! ありがとう、明君」
「間一髪だったな。てことで」
俺は咲を抱いたまま死角から涌田の股の間に右足を入れ、
「咲を物扱いするな! いつからお前の嫁になったんだ?」
「い、いつからってお前が柏と結婚」
「してねぇよ! 男は十八まで婚姻できねーよ!」
「なっ!?」
涌田が腰を落とした瞬間にスリッパのつま先を手前に引いてやった。
擦っただけで涌田は目を見開いて股間を押さえて蹲る。
「!?」
「「「「涌田君!?」」」」
「しばらくそこで大人しくしてろ。あと瑠璃は俺の従妹だ。覚えとけ!」
「「「「い、従妹?」」」」
「……」
仲間達の中で沈黙したまま睨む涌田。
地雷の真似だけは真に迫る演技力だな。
「明君、何やったの?」
「俺のつま先が当たっただけな」
「あ、当たった?」
ちなみに、俺のスリッパの先には安全靴の鉄板を仕込んでいる。
今日の片付けでつま先が痛くならないよう昨日の内に段取りしていたが、まさかこういう形で使う羽目になるとはな。
俺は咲を抱いたまま腹を抱えて笑いを堪える山田達の元に戻った。
「股の間に足を入れて当たるか当たらないかの距離感で足を引いただけだ。蹴った内には入らないし、奴が腰を落としたからスコーンと当たっただけだろ。自業自得だ」
「そ、それだけでも効果覿面なんだね」
「手前より奥が大事だからな。同時に当たって」
「凪倉、それ、自滅してないか?」
「あっ。お、俺にはするなよ? 並の痛みじゃないから」
俺は山田の一言で察しつつ咲を降ろす。
咲は苦笑しつつ宣った。
「明君にはしないよ。大切な子種だし」
「そ、そうか」
「俺も勘弁」
「山田君は今後の発言次第だね」
「き、気をつけます」
山田に限らずクラスの男子は同じ事を思っただろう。
わざわざ蹴られるために股を開いていた変態は除くが。
そうしてショートホームルームの後、始業式に向かう。
生徒会役員だけは教職員の隣に立っているがな。
校長の挨拶の後、淡々と連絡事項が伝えられ、
「次は生徒会長の白木さんより、連絡事項があります」
会長の名前が呼ばれた瞬間、ざわめきが起きた。
「え? か、会長?」
「どういうことだ? 白木さんっていうと」
「二年生に一人だけだろ?」
「いや、二年生は二人に増えた。一年にも一人、現れた」
「なんだそれ?」
白木がスライムか何かと思われていそうだな。
俺達は会長を見送りつつ小声で話し合う。
「いや、スライムか。増えてはいるし」
「増えたのは胸部がスライムの書記と絶壁の妹なんだけどね」
「Iの次はスライムとか言わないで下さいよ」
「でも胸の弾力はスライムと相違ないわね」
「副会長まで」
「あとで私も揉んでもいいですか?」
「李香さんまで。揉むのはダメです」
「お礼に私の胸を揉んでもいいですよ?」
「仕方ないですね」
「「それならいいんだ」」
「生徒会役員、静粛に」
「「「「「……」」」」」
会長が壇上に立ち連絡事項を伝えていく。
伝えるのは今学期中に行われる行事について。
文化祭、生徒総会、生徒会選挙。
合間に中間と期末試験が入ると。
今月から文化祭実行委員会が開かれるので翌日の放課後より招集すると発していた会長だった。
但し、二年だけは今月の半ばに修学旅行が入るので、その期間だけは招集されないことになるけどな。
(旅行まであと二週間、期間は長いようで短いな)
すると会長が、
「最後に私の名字については家の事情で嫁いだだけなので気にしないように」
話の締めに盛大な爆弾を投下して大騒ぎを巻き起こしたのは言うまでもない。
「「「えー!」」」
「静粛に!」
家の事情。
優木家の事情だから何度も聞くなって意味だよな。
「これを知ると私達もギリギリまで手続きをしない方がいいですね」
「うん、それが良いと思う。会長ですらこの騒ぎだしね」
精々届け出だけは行っても大っぴらにはしない方がいいだろうな。
「独身勢からも睨まれますからね」
「槙先生以外の独身勢だね」
「生徒会顧問とか自転車部顧問とか」
現状、李香以外の全員が相手持ちだから顧問は滅多に顔を出さない。
なんでも幸せな空気にあてられて呼吸困難に陥るそうだ。
「男性教師の独身勢も居るがそちらは静かだよな」
「ほぼ諦め半分な空気ですが」
それこそ誰か良い相手を紹介してやってくれ。
独身勢にとっては酷だよな(´・ω・`)