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塩対応のクラス委員長が俺の嫁になるらしい。  作者: 白ゐ眠子
第四章・隠れ〇〇が多すぎると思う。
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第107話 糸口は秘する部分にあると。

「ちょっと電話してくる」


 (あき)君は手助けすると言った途端、一人で玄関先まで向かった。


「電話って言っていたけど?」

「多分、国際電話じゃない」

「国際……え?」


 おそらく相手はアレク君の両親だと思う。

 なんでも(あき)君とも顔見知りだそうで、あちらでは家族ぐるみの付き合いがあったと温泉で語ってくれたのだ。

 すると瑠璃(るり)が困惑気に問いかけてきた。


「ね、ねぇ? (さき)

「どうかした?」

「改めて思ったけど、凪倉(なくら)君って何者なの?」

「何者って? 彼氏を紹介した人でしょ?」

「彼を紹介してくれた……までは分かるよ?」

「分かっているなら、それでいいじゃない」


 元々は味方に付けようとの判断で紹介したけど。

 私を誘蛾灯の如く利用する瑠璃(るり)

 逆に私が利用するのも有りとの判断でね。

 それらが上手く当てはまって今があるが。


「で、でも電話一本で解決するものなの? 彼も難しいって言っていたけど」


 ああ、不安なんだね。

 彼を紹介したのは(あき)君。

 繋がりを断たせないよう動くのも(あき)君だから。

 私はどうしようかと逡巡し、意を決して教える事にした。


「私の目から見ても、難しいと思う」

「やっぱり」


 今の瑠璃(るり)の家は貧乏母子家庭でしかないからね。

 その家庭相手に縁を結ぶ相手が情報を得ようとしても実質不可能だ。

 仮に得たとしても不幸が口を開けて待っていると思われて反対だ。

 家を継がない子供であれ、不幸を望む親は居ないから。

 そんな不利な状況を一変させる手段。

 それがコンビニ内の会話で発覚した。


「でも、瑠璃(るり)のお母さんが離婚して実家に戻れば一発で解決するよ」

「母さんが離婚? じ、実家に?」


 発覚したなら利用するのが(あき)君だよね。

 (あき)君もそれを教えるつもりで電話中だし。

 そうしないと親友達が不幸になるから。


「そうだよ。瑠璃(るり)のお母さんのご実家は白木(しらき)にとって重要な役割を持つコンサルティング企業だからね」

「そ、そうなの?」

「割とグローバルな大企業でもあるの」

「知らなかった」

「教えようにも、事情があって教えられなかったそうだけど」

「そうなんだ」


 瑠璃(るり)の顔には戸惑いと期待が交互に現れている。

 戸惑いは母の素性、期待は未来への展望。

 この戸惑いを打ち払うには関係を明かす事がベストだと思う。

 本当は翡翠(ひすい)さんの仕事だけど有耶無耶になりそうだからね。

 あの人は何故か瑠璃(るり)の勢いに負けるから。

 

「実は買い物の後に瑠璃(るり)のお母さんとお話してね。(あき)君を通じて瑠璃(るり)にとってのお爺さまが、離婚を条件に許すと言ってきたんだよ」

「な、凪倉(なくら)君を通じて? 私のお爺さま?」


 あ、これは見事に思考停止したかも。

 処理が追いついていないのか目がグルグル回っているよね。

 私は追い打ちをかけるつもりはないが、


瑠璃(るり)(あき)君の事、一時期嫌っていたよね」

「え、ええ。そうね」


 強引に理解させる方向に話を進めた。


「あの時、瑠璃(るり)のお母さんにとってはとても辛かったみたいだよ」

「か、母さんが?」

「だって、自分の実家の悪口を愛娘が大声で発したらね。明かせないでしょ」

「じ、実家?」

「うん。瑠璃(るり)のお母さんの実家は凪倉(なくら)の本家だもん」

「……」


 瑠璃(るり)は大きく目を見開いて固まった。

 呼吸は……しているから大丈夫かな。


「離婚後は親権がお母さんに移るから、結婚ではないけど騒ぎになると思う」


 ここで瑠璃(るり)(あき)君の結婚だなんだと言ったら、言った男子の股間を思いっきり蹴り上げるけどね。

 子種の死を永久に与えてあげるのだから。

 それはともかく、


「新学期からは凪倉(なくら)瑠璃(るり)って名前だね」

「ど、どう反応していいか、分からない」

瑠璃(るり)はそうでも、アレク君の両親は認めると思うよ」


 私がそう言うと(あき)君がサムズアップを示してくれた。


瑠璃(るり)のお母さんの離婚が成立したら、帰化を認めるみたいね」

「そ、そうなの?」

「うん。交渉が上手くいったみたい」

「そうなのね。えっと、ありがとう?」

「それは離婚してから言った方がいいよ」

「そうね。うん、そうする」


 瑠璃(るり)は混乱しているようだが、アレク君との結婚が現実味を帯びてきたから大丈夫だと思いたいかな。

 すると電話を切った(あき)君が私達の元に戻ってきた。


「俺も今度から柏餅(かしわもち)改め、瑠璃(るり)と呼ぶ必要があるか」


 従妹と判明した以上は渾名は使えないもんね。

 急に呼び捨てにはなるが仕方ない話でもある。


「そうか、これで柏餅(かしわもち)って言われなくなるのね」

「言っているの俺くらいだと思うが?」

「いや、(あき)君だけじゃないよ」

「そうか?」

「女子の間でも陰口の時は使っていたりするし」

「マジか」

「「マジ」」


 男子への総スカンを実行した割に自分達の間では平然と使っていたりするからね。

 その証拠に、


「これ、女子のグループの一つね」

「うぉ。マジか」


 メッセージ欄に示した女子のグループを見せると柏餅(かしわもち)の文字とスタンプが踊っているからね。

 それらは瑠璃(るり)を嫌っているA組の一部の女子だ。

 私の場合は何故かどのグループにも所属してしまっているけどね。

 これもクラス委員長だからだと思うが、閲覧しても書き込みはしない私だった。

 すると(あき)君が画面を遡った後に呟いた。


「嘘に踊らされた可哀想な連中がこいつらか」

「「え?」」

「総数で言うと四人、主に中位に居る連中か」


 中位? クラスカーストで言う中位?


「それって?」

「多分、あの子達よね」


 瑠璃(るり)美紀(みき)由真(ゆま)の周囲に必ず一人は控えている取り巻きの女子達だ。

 私の背後にも一人居るけど、いつも無視しているもんね。


「カラオケの常連、私達が向かう場所に必ず付いてくるコバンザメ」

「例外は生徒会室だけよね」


 ちなみに、A組のカースト上位は私を含めて女子が四人。

 男子は二人で過ごす事が多い。

 本音では(あき)君にも加わってほしいけど、難しい話なんだよね。

 最低位に甘んじている事とクラス内の上位に立つ事に興味が無いからね。

 (あき)君は私にスマホを返しつつ、


涌田(わだ)の不可解な行動もそうだが、新学期は荒れそうだな」


 意味深な言葉を吐いて遠い目をした。

 私と瑠璃(るり)はきょとんとしつつ首を傾げるだけだった。


「「荒れる?」」

「修学旅行の班決め、文化祭の行事決め、とかな」

「「あっ!」」


 それはクラス委員長の私を思っての一言だった。

 荒れるって事は取り纏めが面倒になるって事だから。


「生徒会で進めている文化祭の準備はともかく、クラス内行事は生徒の自主性が重んじられるから、ロングホームルームでは何が起きても不思議ではないぞ」


 これは今から覚悟しておいた方がいいかもね。

 ロングホームルームの時間内に決められるか微妙だけど。


「当日を思うと気が遠くなりそう……」

「ドンマイ、(さき)

「それなら瑠璃(るり)が交代してくれる?」

「なんで? 私、文化祭委員だけど」

「私、生徒会役員でとっても忙しい。クラス委員長との兼任はすごい辛い」

「……」


 そこで沈黙しないでよ。

 瑠璃(るり)は文化祭委員だから兼任は出来ないよね。

 何はともあれ、(かしわ)家でのやりとりは日付が変わったあとも続き、私達は朝日が昇る前に(かしわ)家から出て、自分達の家に戻った。


「伺いに行っただけなのに無駄に時間喰ったな」

「そうだね。ま、幸い……」

「だな。アレクの帰化が片付いたからいいか」


 寝間着に着替え、お風呂に入る事なくベッドへと横になった。


「本当に、濃い一日だった」

「そうだね。ところで今日の講習どうする?」

「休む。ほぼ寝ていないのに行けるわけがないし」

「だよね。私もそうする」


 本当は行ったほうがいいけど、ギスギスとした空気になっていそうなので、空気を読んで休む事を選択した私達だった。

 瑠璃(るり)も家の事で休むみたいだしね。


「会長にメッセージを打って」

(あおい)にも打って」


 私達は返信を待つ事なく揃って夢の世界に旅立った。



 §



 そうして目覚めたら夕方だった。

 (あき)君は既に起きていて、私を寝かせたまま部屋から居なくなっていた。


「暑い……」


 エアコンは動いているが室内気温は高かった。


「汗でびしょびしょだぁ。パンツは別の意味で濡れてるけど」


 私は一体、どんな夢を見たのだろうか?

 思い出せないって事は思い出したら不味い夢なのかもしれない。

 気持ち悪さが先立った私はベッドから起き上がり、


「お風呂、行こう」


 フラフラと部屋を出て廊下に向かう。

 脱衣所の前にキッチンへと寄って水分補給も済ませた。

 脱衣所に着くと作務衣姿の(あき)君が洗濯物を畳んでいた。

 自分の下着と私の下着。

 同棲してから手慣れてきたのか気にせず触れていた。


「おはよう?」

「夕方だから、こんにちは、だけどな」


 (あき)君は振り返りもせず私のパンツをチェストに収めていく。

 私はバツの悪い顔になりつつ苦笑いした。


「あはははは。つい、寝過ぎてしまいました」

「いいよ。疲れているから寝かせたのは俺だし」

「ふぁ? そ、それなら、起こしてくれても!」


 わざと寝かせておいて詰るってなんなのよ。

 片付けを終えた(あき)君は叱責する私を一瞥しつつ頬を掻いて目を泳がせる。


「一度、起こした。だが、寝相の悪さが突然現れてな、巻き込まれたんだよ」

「え? 私の寝相、治ったんじゃなかったの?」

「もしかすると、何かしらの不安を感じた時に出やすいのかもな。お陰で(さき)には悪いが、色々触れてしまったんだ。すまなかった」

「ふ、触れた?」


 私が困惑すると(あき)君の視線がパンツに向かう。

 直視ではないが、それだけで何が起きたのか分かった。


「そ、そうなんだ」

「改めて思ったが、白木(しらき)の令嬢って敏感肌なんだな」

「ど、どうなんだろう? 私はそこまでではないと、思うけど?」


 自分で触れてもここまで酷い状態にはならない。


「敏感肌なんて(あおい)の代名詞だが、少し触れただけでビクビクだったぞ」

「マジで?」

「マジで」


 それを聞くと私も(あおい)と同じなのかも。

 勿論、好きな人に触れてもらう前提があるけどね。

 すると(あき)君は風呂場の扉を開け、


「今から風呂に入るなら、ぬるめの湯を張っているから、汗を流して入るといい」


 準備が整っている事を明かしてくれた。 


「ありがとう」


 おそらく私が汗だくになっていると想定していたのかもね。


「それと今晩はそうめんだから胃に優しいと思うぞ」

「そうなんだ。ありがとう、(あき)君」


 そういえば朝食と昼食を爆睡で抜いたもんね。




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