表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塩対応のクラス委員長が俺の嫁になるらしい。  作者: 白ゐ眠子
第四章・隠れ〇〇が多すぎると思う。
106/122

第106話 思惑は妄想過多な産物だよ。

 長居したコンビニから出て脇にある階段から二階へと上がる。

 このアパートは一室目から三室目までは大学生が借りていて、そこから奥にある部屋が瑠璃(るり)達の住まう部屋になっているという。


「一応、大家でもあるのか」

「そうみたいだね。ただ、学生向けの格安らしいから、お風呂は無いみたいだよ」

「なるほど。風呂無し、トイレ有りの物件と」

「お風呂は近所にある銭湯に行ってるみたい」

「女子高生にとってはキツい面がありそうだな」

瑠璃(るり)にとってはそうだと思うよ」


 何かと男性経験があるから事後に銭湯へ向かうのは気が引けるとか言っていた。

 それならホテルで入ってくればいいのに容姿と年齢でホテルは不可なのだとか。

 私は玄関のチャイムを鳴らし、室内から向かってくるドダバタ音に耳を傾ける。


『はいはーい!』

 

 とても可愛らしい声音が足音と同時に聞こえてきた。


「い、今の声音?」

「あれが本来の瑠璃(るり)の声音だよ」

「普通に喋ることが出来たのか」

「だから言ったじゃん。興奮時だけだって」


 玄関の鍵が開き、ドアチェーンを外す音まで響く。

 覗き穴から外に私が居た事に気づいたみたいだね。

 突発的に響いてきた超音波に、


(さき)じゃん! どうしたのよ、こんな時間に」

「この落差ぱねぇ」


 (あき)君は耳を塞いだ。

 いや、分かるけど。

 本人の前でその対応は無いと思うよ?


「旦那も一緒? どうかしたの?」

「あー。ちょっと聞きたいことがあってね」

「き、聞きたいこと?」


 この時点で素の瑠璃(るり)が出てきた。

 きょとんと小動物を思わせる態度。

 その間の(あき)君は何かに反応していた。


「あ、これ……そういう」


 どういう気づきなのか知らないが私はスマホを取り出しメッセージ画面を見せた。


「実は炎上の件でね。発端となったバカが、何かやらかしたと人伝に聞いてさ」

「あ、あー。それ? あの件かぁ」


 バツの悪い表情に変わる瑠璃(るり)

 苦笑しつつ扉を開け放ち、手招きしてきた。


「ここで話すのはなんだから、中へ入って」

「「お邪魔します」」

「ちょっと散らかっているけど気にしないでね」

「ちょ、ちょっと?」

(あき)君。そこは見なかった事に」

「あ、ああ、そうだ、な」


 室内は汚部屋だった。

 女だらけの四人暮らし。

 男性の目が無いと誰であれボロボロになると。

 私達が案内された部屋だけは少し綺麗だった。

 食べかけの弁当が置かれている以外は、ね。


「お茶は……どうする?」

「「お構いなく」」


 どのみち、長居しない予定だ。

 コンビニで無駄な時間を喰ったから。


「夜食を食べていたから、片付けがまだだった」

「気にしなくていいよ」

「ごめんね」


 すっぴんの瑠璃(るり)は気にする事なく私達の前に座る。

 スウェット姿の瑠璃(るり)は普段よりも楽な姿に見える。

 瑠璃(るり)は沈黙ののち、神妙な面持ちに変わる。


「じゃ、何があったか、話すね」

「お願いします」


 普段の声音で瑠璃(るり)は語り始める。

 臨時株主総会があった日の出来事を。



 §



 それは夏季講習が始まる三十分前。

 その日は珍しく(あき)君以外の男子が勢揃いしていた。

 そして花火大会の話題を繰り出していたらしい。

 瑠璃(るり)も余裕を持って教室に入り、全員ではないにせよクラスメイトが集まっている事に驚いたそうだ。


「珍しい事もあるよね。常に何人かのクラスメイトが休んでいる夏季講習だよ」

「そうだね。私と(あき)君が休んだ日に勢揃いって、何があったんだか」

「それは分からないけどね」


 クラス内の話題は花火大会へ全員で行こうとなって、私と連絡が取れる瑠璃(るり)を幹事に持ち上げたのが、普段は沈黙している涌田(わだ)君だった。


「私だって予定があるし、常にどうこうは出来ないじゃない」

「予定って今日はバイト休みって聞いたけど?」

「誰に聞いたの?」

「下で、お母さんから」


 私がそう言うと(あき)君が大袋を瑠璃(るり)に示す。

 チラッとゴムが見えたが瑠璃(るり)の方には向いていなかった。


「買い物してくれたのね。ありがと」

「「いえいえ」」


 出来ないのに強引に話を進めていき、クラス全員から賛同された事で逃げられなくなったそうだ。

 これは普段から私が持ち込まれる状況に瑠璃(るり)が持ち込まれてしまっただけのように思える。

 面倒事は誰かに丸投げって嫌な空気があるから。


「で、黒板に記している最中、奴が呟いたの」


 気持ち悪い思惑を瑠璃(るり)の真横でボソッとね。


「花火大会で(さき)と二人きりになって告白するんだって」

「「は?」」


 これには私と(あき)君もきょとん。

 いや、そうなるのは仕方ないと思うよ。


「間男がどれだけ告白しても、受け入れられる訳がないじゃない」

「私の意中は一生(あき)君だからね」

「続けて人混みに紛れれば奪えるって呟いたからバカにしてあげたわ」

「「バカにした?」」

「御令嬢が人混みの多い場所に顔を出す訳がないってね。御令嬢が花火大会に出張ったら警備がどんな事になるのか分かっていなかったもの。そういう時に限って身代金目当ての誘拐が起きたとしても不思議ではないし。私も女子校の経験が無かったら賛同していたでしょうけど、あれを知ると有り得ないって思うわ」


 なるほど。

 女子校の経験が活きた結果、言い争いになって炎上に至っていると。


(というか、今にして思えば父親はともかく、瑠璃(るり)も令嬢だよね)


 翡翠(ひすい)さんは将来を案じて奨学生として通わせたのかもね、きっと。


「言い争いにはなったけど美紀(みき)の仲裁で男女別の集合場所を決めたのよ」

「ああ、言い争いになったから」

「キモい思惑を持つ男子に賛同する女子が数人だけ居たけど多数決で決まったわ」


 あれに賛同する女子って誰なんだろう?

 もしかすると(あき)君狙いがクラス内にも居るのかも。

 私達を別れさせて得する女子が数人か?

 何か、嫌だな。


「で、当日になって?」

「私だけは本来の予定を優先したと」

「直前でキャンセルして今に至ると」

「そうなるわね」


 瑠璃(るり)は呆れのある遠い目で夜空を見上げた。


(妹の面倒が嘘、本当は一人だけ男漁りに出かけている、か)


 瑠璃(るり)にとっては今の彼氏が意中だから他人には興味を示さないのにね。

 私もバカバカしい嘘を吐いた誰かさんを擁護するつもりは持てないね。

 狙いがまたも私だったし、キモっ。

 私はバカの事を忘れるように遠い目をする瑠璃(るり)に問う。


「それで本来の予定って?」

「妹達と花火を見る約束を先にしていたのよ。クラスメイトも大事だけど私にとってはクラスメイトより一生の家族が大事だから。但し、女を作ったクソ親父は除く!」


 クソ親父と言いつつもいつもの超音波が出ていないのは不思議だけどね。

 興奮状態のはずが普通の声音だったから。

 すると(あき)君が笑顔で、


「なら、アレクと妹達なら?」


 瑠璃(るり)に二択を迫った。

 問われた瑠璃(るり)は苦しい表情に変わる。


「難しい選択ね、それ?」

「別に二択って訳でもないぞ。全部だって取れる」

「じゃ、全部!」


 全部で良いと言われて全部を選ぶって。

 (あき)君もそういう姿を時々魅せるから。


(あき)君、やっぱり、血は争えないね」

「そうだな。今の返答で何となく分かった」

「血? どういう事よ?」


 すると(あき)君は居住まいを正して真面目な表情になった。


「一つ聞くが、甲高い声音って演技だろ?」

「!?」

「え? 演技? 演技ってどういう?」

「猫の皮。素の自分を隠す手段だよ。(さき)も良く被るが」


 私が良く被る猫の皮。

 もしかして瑠璃(るり)も普段から被っていたの?

 問われた瑠璃(るり)は声音を変えてきた。


「え、え? なんのこと?」

「今更、声音を演じる必要はないと思うが」

「演じる? でも興奮して。あ、ないね?」


 今の瑠璃(るり)は興奮していない。

 むしろ追い詰められた感が出ている。


「な、なんでバレたの?」

「玄関先で大きく叫んだあと、隣からドンが聞こえたから」

「え、あの一瞬で?」

「一瞬で。表情が曇ってトーンを変えただろ。いつもなら騒がしいのに」


 あー、だからか。

 私からドンは聞こえなかったけど。


「妹からうるさいって叩かれたんじゃないか?」

「……」

「図星と。瑠璃(るり)、どういう事かな?」

(さき)、恐い。その顔、恐いから!」


 恐いとか失礼過ぎるよ。

 私は笑顔で問いかけたのに。


「目が笑っていない笑顔だからな」

「あ、そっち?」


 私自身、怒りはないのだけど意図的に演じていた事は知らなかったからね。

 それも小学生の頃から声音を偽っていたのだから、理由が知りたかった。


「で、どういう事かな?」

「はぁ〜。分かったわよ、教えたらいいんでしょ。教えたら」


 瑠璃(るり)は渋々と語り始める。

 それは幼き日、父方の祖父母が遊びに来て、ボソボソと喋る瑠璃(るり)に対して声をハッキリ出せと何度も叱ってきたらしい。

 昔の瑠璃(るり)は引っ込み思案で言葉を口にする事が苦手だったそうだ。

 幼女に強要する祖父母は毒親かな?

 それでも声を出すようになると周囲との意思疎通が叶ったので極力、喉を労りながら日々の生活をしてきた。

 だが、妹が生まれてうるさいと言われるようになった。


「人前では演じて、家では地声で過ごすようになったと」

(さき)は興奮と言っていたが、それは突発的に出た時の話だろ」

「そうね。それ以外は意図的に発しているから」

「学校でうるさいと言われても止めないのは?」

「そういうキャラが根付いたから、今更変えようがないしね」


 高校デビューよりも前から発していた超音波。

 ここで止めると病気か何かと疑われてしまうと。


「でもさ、カラオケでは地声が出てるけど?」

「それはそれよ。音域が広いって思われるだけだし」

「なるほど」


 そうやって使い分けているのね。

 すると瑠璃(るり)は大きな溜息を吐いて、


「二人にはバレたから、二人の前では地声でいくわ。学校以外」


 観念したように宣言していた。

 (あき)君はその宣言を聞いて問いかける。


「ところでアレクは知っているのか?」

「当然、知っているわ。隠せる話でもないし」

「それもそうだな」


 (あき)君が納得したようにスマホのメッセージ画面を開く。


「そうなると、手助けしてやるか」

「手助け?」

「帰化する云々で喧嘩しているからな。馬の骨と思われているようだし」


 アレク君の両親はそれで反対しているのね。


「馬の骨」

「資産家の息子だから情報が得られない家との縁を持ちたくないだけだと思う」

「……」


 瑠璃(るり)は沈黙したが納得している部分もあると。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ