第103話 名残惜しいひとときに思う。
たこ焼きと焼きそばを作って、カキ氷を堪能した私達の花火大会が終わった。
花火大会の後、浴衣を回収するので私の部屋へと会長達を案内したのだけど、
「碧も和もあれだけ食べたのにポッコリしてないね」
「「そうですか?」」
浴衣を脱いだ下着姿の従妹達の体型に驚きを隠せなかった。
胸囲の爆壁に違いはあれど、揃って胃が出ていないことに目が点になったから。
私自身、肥らない体質であっても食べ過ぎたら胃がポッコリ現れる。
それがこの姉妹は出てきておらず、消化の速さに驚きを隠せなかった。
会長も私と同じく胸の下に両手を添えて隠していたからね。
「凪倉君の料理の腕は相当よね。つい、食べ過ぎてしまったわ」
食べ過ぎたと言ってお腹を摩る会長。
食事中は浴衣を着ていたから気づけないが、会長も私と同じだった。
大人びた黒いブラの真下が膨れており、苦しそうだった。
「たこ焼きと焼きそば、そこへカキ氷ですからね。会長は大盛りでしたけど」
「滅多に食べられないからね。どうしても欲張ってしまって」
滅多に食べられない。
私生活では断食ではないにせよ最低限の食事制限を喰らっているのだろう。
李香ちゃんが姉を案じて食べさせていない事が「欲張って」の言葉からも理解出来てしまった。
私達の通学路の途中にはファストフード店が数店舗あり、会長だけは寄り道せず家に帰っている。
私達は碧の空腹で時々立ち寄っては食べているけどね。
「この二人に刺激されたら仕方ないですよ。フードファイターの食べっぷりですし」
「「……」」
私の一言に沈黙した従妹達。
自覚があるなら少しは自重しようね。
「そうね。驚くような食べっぷりだったわね」
「凄い食べっぷりですよね。でも、部活で運動している和はともかく碧は胸以外にも付いてきてるから、そろそろ運動した方がいいよ?」
「ふぇ?」
おや? これは自覚していないのかな?
私は碧の背後に移動して、
「こことか、パンツの上に乗っているしね」
育ったお肉を左右の指で抓んで持ち上げた。
「ひゃん!」
「本当だ! 姉さん、いい加減、運動しよう? 最近は義兄さんともご無沙汰だって聞いているし、そろそろ解禁してもいいんじゃない?」
「これは女の子としては酷いわね。いい加減、運動した方がいいわよ?」
「こ、こんなに? 全然、気づきませんでした」
本人が気づかない肉付き。
碧は意外と自分の事は無頓着なのかも。
そこで私は和の言葉に疑問を持った。
「ご無沙汰? まさか、あれからずっと?」
「例の騒ぎ以降は添い寝だけだそうですよ」
「尼河君も頑張っているのね。耐える方に」
だから時々、明君の部屋を訪れては秘蔵品を見ているのね。
あれは尼河君のガス抜きでもあったと。
(碧に似ている理由はそこにあったのね)
そうなるとしばらくの間はそれで我慢してもらうしかないね。
「夜は碧の気持ちが落ち着くまで出来ないだろうから、しばらくは廊下を往復するだけでもいいんじゃない?」
「そうですね。そうしてみようと思います」
「姉さん、走るなら私も付き合おうよ?」
「ありがとう、和」
美しきかな姉妹愛。
私にも義姉が出来たので同じように問いかけてみた。
「義姉さんも私と一緒に運動します?」
問いかけたが腰に手を添えて首を横に振られてしまった。
「わ、私は腰の調子がまだ良くないから、治ってからで」
そういえば腰を抜かせて支えられたまま以下略だと聞いたね。
年一回しか帰ってこない兄さん。
帰ってこられないからこそ、徹底して覚えさせたのかもね、きっと。
「そうなんですね。治ったら、誘ってもいいですか?」
「治ったらね。うん、治ったら……」
「なんで、遠い目を?」
「先日、渡航して追い打ちを喰らったから、早々治りそうにないのよ。私の腰」
「あ、そういう」
海外で挙式して、兄さんの追い打ちで腰が悪化したと。
会長が浮気すると思ったのか知らないけど度を超しているよ、兄さん?
会長はパンツの上から一枚の肌着を身に着けていた。
「しばらくはコルセットに浮気ですか」
「そうなるわね。浮気とは違うけどね」
訪れた時と同じく紺のワンピースを着て帰り支度を行った。
腰を痛めない服選びは大変そうだね。
「それで夜の方はどうなので?」
「それはそれで慰めているわね」
刺激が過ぎたからこそ求めてしまうと。
この点は碧と和にも通じる話かもね、きっと。
私は未経験だからそれ以上は問わないけども。
私の自室から出て四人でリビングに向かう。
そこでは明君を挟んで兄弟が課題に取り組んでいた。
「明さん。ここの設問は?」
「それこそ、兄貴に聞けよ」
「すまん。俺は写す方に手一杯だ」
「時々、自分で考えろよ」
「善処する」
夏季休暇も残すところ半月。
初日に課題を終わらせていた私達は気にしていないが、夏季休暇が終わりに近づくにつれ、こういった光景が街の至る所で起きているのかもね、きっと。
私は会長達にダイニングの椅子に座ってもらった。
「麦茶でも淹れましょうか」
「そうね。いただくわ」
「「いただきます」」
予定が無い会長はともかく尼河兄弟の終わりは遠そうだったからね。
「そういえば四人は課題が」
「焼失していますね。私は夏季講習中に友達から写させてもらいましたけど」
「私も旅行後に集中して取り組みました」
「で、あの二人は今から始めていると?」
「そうなりますが、家の件がありますので」
「こればかりは仕方ないですよ。今日の呼び出しもそれでしたし」
「呼び出しってウチに来た時に言っていた件?」
「「ええ」」
なんでも、呼び出しは学食に関する事だったらしい。
リノベーション自体は着々と進んでいるが、問題があるのは食事の方だった。
それを現役選手でもある兄弟が部員達からの各種要望を何度も聞いたうえで、要望書を纏める事になっていたそうだ。
今日の呼び出しはあくまで催促であり、無事に提出が出来たようだ。
「学業よりも家業が中心となったと」
「長男と次男だから仕方ない事でもあると」
「和も手伝ってはいたのですが」
「女バスと男バスでは食べる物が根本から違うので。野菜と肉中心的な」
女子は野菜と共にバランスを心がけるが男子は肉中心になると。
男子もバランスを心がけるだけで女バス並に強くなれそうな気がするけどね。
「碧は生徒会役員だから遠慮したの?」
「そうなりますね」
「家の事なんだから、そこは手伝っても良かったのに」
「私が手伝っても宜しかったので?」
「構わないわ。部費の融通さえ問われなければね」
「なるほど」
こういう時、会長に問うてから行動した方が良かったかもね。
来期では自分の判断で行わないといけないが。
すると会長が何かを思い出したように、
「そうだったわ。先日、事務局から預かってきた物があったから、受け取ってもらえるかしら?」
ショルダーバッグから四冊の学生証を二人に手渡してきた。
それは碧と和、尼河兄弟の学生証だった。
「四人の居住地が学校に届けられていなかったから、私の元に問い合わせがきてね。代わりに受け取ってきたのよ。生徒会に問い合わせれば、判明すると思ったようで」
居住地の届け出か。
尼河兄弟は実家に問い合わせればいいと思うのだけど、もしかすると燃えたアパートが四人の居住地になっていたのかもしれない。
表向き、兄弟姉妹で別々の家に住んだ事にしていたのかもね、きっと。
「「あ、ありがとうございます。会長」」
ちなみに、私と明君も居住地はこのマンションになっている。
私は今の部屋番号、明君は紗江さんの部屋番号で提出した。
これは不用意に同棲が知れ渡ると面倒が降ってくるので回避のための措置だった。
私達と同じように尼河兄弟も届け出自体が実家になっているね。
それぞれの同棲を隠すためとはいえ面倒に思えるよね、これ?
私は横から学生証を覗き込む。
碧の名字が異なる事に気づいた。
「あれ? 名字が……」
名字が市河ではなく白木だった。
碧達は手続き上、新学期から白木姓になる予定だが。
会長は麦茶で口内を潤したのち答えた。
「受け取った時は市河だったの。でも戸籍上は白木だから訂正をお願いしたのよ。書類の届け出も未提出だったから私が代理で取得してね」
そういえば会長も戸籍の上では白木だったね。
身内だから伯母にお願いして委任状を発行してもらったのかも。
「だから、上から白木姓のシールを貼っていると」
「「それで」」
「お陰で私もバレてしまったけどね。職員室は大騒ぎになったわ」
「もしかして会長も?」
「この際だからと思って提出して、学生証に訂正を入れてもらったのよ。そうしたら顧問が事務局に現れて、色んな意味で大騒ぎになったわね……先を越された的な」
「「「おぅ」」」
会長は私達に見えるように学生証を示してくれた。
瞼が開いた完全版とも言える証明写真はともかく。
碧達のように白木姓のシールが上から貼られていた。
「本当なら在学中は優木のままが良かったのだけどね。嫁いだならさっさと変えろと父がうるさかったから、仕方なくね。母は反対していたけど」
「それはそれで災難ですね」
「本当にね」
それこそ娘は一人だけの認識で動いているとしか思えないね。
父親との関係が冷え切っているから、余計にそうなったのかもしれないけど。
「会長でそうだとしたら、私達はどうなるのか?」
「少々恐いですね。行き遅れ勢の猛攻というのは」
「それこそ、私以上の騒ぎになるから咲さんと碧ちゃんは卒業後まで、そのままがいいわね。行き遅れ勢の質問攻めは辛いわよ?」
「「き、気をつけます」」
やっぱり、卒業後まで白木姓から離れられないと。
(会長が例外で私達は継続? でも、婚約話は伝わっているような?)
尼河兄弟の勉強会は三時間後に全て終わった。
「「終わったぁ!」」
「集中して三時間で終わらせる二人も凄まじいけどな」
明君は冷凍庫を開き、中から大容器を取り出した。
「ほれ、ご褒美だ」
「「よっしゃー!」」
兄弟の前に山盛りアイスを置いていた。
「わざわざ、ご褒美まで用意して勉強させたの?」
「そうしないと頑張れないって言ったからな」
「そうなんだ」
胸囲の爆壁。
姉妹の二つ名かな(´・ω・`)