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聖女の守護者(お兄ちゃん)  作者: 山石 土成
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第41話 I don't want to cross this wall

お待たせしました。








切欠は些細な事が始まりであった。

「突然、領主様とゲストの御息女様が湖の

周りを遠乗りするって、決まってさ!」

少し口の軽い、料理番の下男が野菜を納めに

来た使いの男に愚痴を漏らす。

「へぇ?この時期にですか?もう少し待てば

新緑鮮やかで、見頃を迎えるのにゲスト様の

御都合でしょうかね?」

野菜を納める手は止めずに、聞き流しを装い

話の続きをせがむ。

「まぁ、ソレも有るんだろうがねぇ、ゲスト

の御息女は、この間の結婚式のお婿さんの妹

だからね?我が儘を言ったんじゃない?」

「幾らゲストでも、そんな急に遠乗りをせがむ

我が儘に付き合いますかね?」

「いや、お婿さんは八歳年下の若い男を出して

貰った手前、断り辛いんじゃ無い?」

「あぁ、ソレはそれは」

御愁傷様と、両者口には出さないがやって来た

お婿さんに勝手な同情をする。

「じゃあ明日は、その仕出し準備でこんなに注文

をくれたので?」

今日の納入は何時もより、倍に近い野菜と貴重な

卵も、やはり倍近くの注文を受けたのだ。

「あぁ、御息女の二人ならこんなに頼まないけど

どうもね、御領主様とゲスト様もその遠乗りに

付き合うかもしれないから、用意しろって執事に

言われてさぁ」

正直、幾ら口が軽いと言ってもコレは不味い!

この地の最重要人物の行動を、これ程軽く漏らす

のは流石に罠を疑うが、この下男は気にせずに

続ける。

「執事様に言われちゃあ、ほぼ確定事項だからさ

明日の朝は、厨房は戦場だよ全く!」

使いの男は息を呑みたくなるが、辛うじて我慢

する事に成功し、何時も通りを心掛ける。

「しかし、幾ら娘が可愛いからと御貴族様が

2人も付き合いますかね?」

「ほらぁ、街の噂に有るじゃ無いか!アレだよ」

「街の噂のアレとは?」

正直、街の噂なぞ、ピンからキリ迄有りすぎて

ソレだけでは、話を絞れないので正直に聞く。

「湖の畔に有る岩山に住む、ドワーフ夫婦の話が

有るだろう?」

「あぁ、そんな噂を聞きましたね」

「あそこのドワーフ夫婦にゲストの御貴族様が

剣なり、鎧なりを注文するんじゃなの?」

「へぇ〜しかしドワーフの逸品はトンでもない

金貨が飛ぶんじゃ無いんですか?」

「確かに金貨は飛ぶけど、家の領主様が支払う

事になるかもね?」

「そりゃまたどうして?幾ら年下の婿を出した

からって、そこまでする必要は無いんじゃない

ですか?」

「ゲストの御貴族様って、例の狩猟会の

『熊討ち』だからさ、詫びも兼ねてじゃあ無い?」

「あぁ、凄くデカいキュルオース(石熊)が討伐

されたと、噂になりましたね」

「あれは噂じゃ無くて、ホントの話なのさ!

近々、お屋敷にその熊の剥製が飾られるそう

だよ!今、玄関前ロビーを片付けているからね」

「はぁ〜機会が有れば見てみたいですねどれ

だけデカいのか、話の種になりますよ」

「確かに、楽しみだねぇ」

「こっちの根菜は何時もの所へ?」

「あぁ、悪いね!何時も通り古いヤツを手前に

出しといてくれないかい?」

「へい!お安い御用で」


野菜を納めた使いの男は、高鳴る心臓を

抑えるように帰路に着いた。


太陽も傾き、今日も1日が終わろうとする

宵闇の少し手前、街の表通りを少し奥に

入った、コレと言った特徴の無い酒場の

カウンター席の片隅で、二人の男が1つ席を

明け、辛うじて聴こえる小声で話合う。

「正直、話が旨すぎて逆に罠かも知れねぇ」

そう言う男は、誰が見ても堅気の商売をする

男性には見えない、事実この男は違法賭博の

賭場と、娼館を手に納めた街の裏側の住人で

あり、テノーラ王国の密偵の纏め役でも有る

テノーラでは、其なりの地位に居たらしいが

派閥のボスの失脚に連座して、この地に流され

て来たらしい。

嘗ては、高位貴族で有った名残は無くなり艶の

消えたクセだらけの金髪に、無精ひげと鋭い

眼光が、裏側の住人であることを物語っていた。


「罠かどうかは知りませんがね、口の軽い男

なんですよ、警戒するのが馬鹿らしい位に」

先程、領主邸に野菜を納めた男が毒を粉して

纏め役に伝える。

「近頃は平和に慣れて箍が緩んだか?」

「そうかも知れませんね、弓の得意なヤツに

心当たりは?」

この情報を、みすみす逃す手は無い。

罠なら見過ごして、次に備えれば良いだけだ

ヤれるなら、ヤってしまえば良いだけだ。

こちらに損は無い、万が一ヘマをして捕縛

されても痛くない人物は、腐る程いる。

「今から動くとなりゃ、使い捨てで五人は

用意出来る、弓の腕は知らん」

「『街道市場』には報告をするんで?」

「降って湧いた好機だ、使わせて貰うさ

まぁ、もう帰るつもりもねぇがな」

「こっちで身を固めるんで?」

「そんな積もりはねぇよ、もう少し稼いだら

消えさせて貰うさ、こっちは水が豊富だ」

「私もこのまま、こちらに根を下ろしますよ

此処は本国よりも住みやすいですから」

二人はテノーラ王国に対する忠誠心は既に

無くなっているが、本国に残る家族が人質

にされているだけだ、ソレならいっそ消えて

しまえば良い、こうして人知れず裏の住人は

入れ替わって行くのである。


己れが繋がれた首輪を外す為の生け贄が

五人、選ばれた側は堪ったものでは無いが

逆に手柄を上げて、本国に帰れる美味しい

手段でもある、本国に忠誠があれば。


時間は限られている、実行は明日だ。

生け贄の五人には夜が明ける前に

これから、夜通し走って行くのだ小舟で

運べば楽に移動出来るが、舟を盗まなくては

ならなくなる、事を起こすのに余計な騒動は

起こしたくは無い、そうなれば白鳥湖の右翼

を、回るようにして首の付け根に移動する

しかない、こうして使い捨ての五人が夜通し

街道を走り、この地の森に潜む事になる。


「クソッタレが!」

1人の男が口汚く悪態をつく、この五人の

纏め役を任された男は、実戦経験等無い

官僚出身の男で有った、上司の横領の濡れ衣

を着せられ、この地に跳ばされた男だ。

この男がリーダーの時点で、作戦の成功は

期待されていない事が、他の四人には理解

出来ていた。

知らないのは、リーダーを任された本人のみ

で有る。


「デイガー、何か有ったのか?」

リーダーの名前はデイガー、元官僚だけあり

読み書き、計算は得意なのでソコソコ大きな

店で、番頭補佐をやらされているが、今回の

荒事には不向きな人材で有ることが、体つき

を見れば一目瞭然であり、ここに来るまでに

体力を使い果たし、配置に付かぬまま夜が

明けてしまい、五人全員がこの場に固まる

という、大失態を犯していた。

「デイガー報告しろ!」

この役不足なリーダーを補佐するのは、自分

でも損な性格だと理解している、貧乏男爵の

末っ子で、没落仕掛かっている実家を助ける

為に。テノーラ王国軍立下士官養成所を優秀

な成績で修了したが、貧乏男爵という後ろ楯

の貧弱さから、近衛師団では無く、この様な

畑違いの諜報機関に配属された、運の無い

男でグラフと言う名の男であった。


「頭にクモの巣が引っ付いただけだ!」

不貞腐れ気味に吐き捨てた言葉にグラフは

力が抜けて行くのが解る、忌々しい事に

本国での位も、年齢も上の為リーダーを

やっているが、正直この男は緊張感が決定的

に足りていない、いざと言う時はこの男を

捨てて逃げる事も選択せねばなるまい、口を

封じてから。

グラフは残りの三人を見れば、視線でグラフ

の考えを肯定しており、この作戦のリーダー

であるデイガーは、既にリスクの塊として

排除しようとした時、現場が動く。

(ちっ!運の良い野郎だ)

リスク低減の為に、デイガーを始末しようと

したグラフは舌打ちをする。

現場を見れば、ドワーフの男が作業小屋に

向かっているのが見えた。

『岩山に住むドワーフ』の噂は真実で有る事が

証明されたが、まだ、目的の暗殺対象が此方に

来てはいない、今しばらく待機せねば成らない

だろう。


この暗殺に用意された人間は、五人である

リーダーのデイガーを始め、ソレを補佐する

グラフ、元猟師だが、賭博で借金が嵩み身を

持ち崩してここに流れてきたボーグ。

短槍使いのバーツは、グラフ同様に後ろ楯の

貧弱さからここに流された、貧乏貴族の三男

である。

最後のライズはかなりの変わり種だ、ここに

流されるのは、貧乏貴族か借金で売られた者

なのだが、こいつは何処ぞ高貴の御落胤と噂

されている位に綺麗な顔だが、本性は最悪だ

本国王都で、かなりの数の女を己れの欲望に

任せて殺めたそうだ、やり方も残虐で口に

するのもおぞましい位である。

そんなクセのある五人である、体の良い厄介

払いを兼ねた任務である事が、グラフと

バーツは理解していた。


シェール辺境領は塩以外ならば、自給自足が

可能な豊かな土地だ、故に隣国から見たこの

辺境領は、奪い獲ってでも欲しい土地なのだ

辺境領主が頭を悩ます、塩の確保の問題等は

その欠点を補って余りある、資源と水源が

有れば充分過ぎる攻略対象で有る。


何度目かの国境紛争を経て、現在両国は睨み

合いの続く小康状態であり、武力より諜報を

以て、干計を巡らす魑魅魍魎が蠢く闇の都市

それが領都シェール・エランの裏の顔だ。


無論、敵国の諜報を無防備に受け入れる程

此処の領主も愚かではない、目星を付けて

いる存在には『当て身』と呼ばれる存在を

付けており、情報漏洩が阻止出来なければ

どの程度の情報が漏れているのか?其れを

確認するために、潜り込ませた者も存在し

また、逆に欺瞞情報を与えその伝達速度を

計り、その組織の錬度を調査、可能ならば

敵国の諜報員を諜略し、此方の手駒にする等

ありとあらゆる手管が用いられ、敵と見方の

区別が難しい『混沌都市』其れが裏の住人

が領都シェール・エランを表す言葉だ。


その裏側の住人より、伝達が辺境領主邸に

届く(筒抜け・虫五匹・注意されたし)

裏側を取り仕切る執事より、解読された暗号

が辺境領主の手に渡るのは、出発直前である


テノーラを甘く見ていた積もりはないが

しかし、驕りは有ったのかも知れない。

この様な突発的な行動が、四方や感知される

筈は無いと。


だが、感知されて先手を奪われた。


既に『街道側』にも情報が流れた形跡がある

此処で、今日の行動を中止にしても構わないが

相手側にも自分達が、そちらを見張っている

者の存在が暴かれてしまう、その様な事に

なれば、組織の建て直しに何れだけの時間が

何れ程の情報が筒抜けに成ってしまうか?

『判らない事』の恐怖、組織を作り育てた

時間が己れの判断を狂わせる。


「予定に変更は無い、だが行動は変更する」

「ほう?どの様になさるのかな?」

辺境領主の盟友、ジェンシェン男爵が興味本位

に聞いて来る。

「ジェンシェン卿、主と娘は残れ!行くのは

私1人だけとする」

辺境領主自ら囮となり、相手の諜報組織の人間

を釣りだす、一見勇敢であるがソレは悪手だ

護るべき存在に動かれては、危険を犯してこの

情報を伝えた意味が無くなる。


放たれた虫が、重要な情報を持っているとは

考え辛い、ハイリスクローリターンの取引だ

ならば諌めなければならない。

「失れ「ソレは却下であるなシェール卿」

執事に被せ、男爵が発言する。

「今回は四聖の存在が絡むのだ、貴殿だけの

問題とは違うのだよ?ウェイン殿?」

目上の位に不敬とも取れる発言をする男爵だが

彼は気にしない、された辺境領主も流す。

「コレばかりは駄目だ、コンラッド貴殿の

命までこの秤には乗せられないぞ?」

2人は、隣り合う領地を納める貴族として

何世代もの付き合いがあり、両当代領主が

同い年で、幼少の頃からの付き合いがあり

この程度の発言を諌める事は、既に放棄され

今日に至るのだ。

互いに『腹を割って話せる』唯一の存在で

あり、共に国境を護り殺伐とした宮廷政治

を乗り越える唯一無二の親友でもある。


「その秤をもう1つ用意出来ぬかな?」

「秤をもう1つとは?」

男爵は悩める盟友に助言をする。

「なに、馬鹿正直に陸路を行かなくても湖が

あるのだ、水路を使い2手に分けて行けば

良いではないか?どのみち賊には先手をうたれ

待ち伏せされているのだ、ならば現場を封鎖

した上で、囮を放てば良いのだ本命は飽くまで

賊が捕らえられる迄待機すれば良かろう?

情報が間違いなければ、賊は五人この分断に

対応出来る人数では無いな」


確かにその手段ならば、自分を警護すると

言う名義が成り立ち、賊を凌駕する人数の

投入を可能にする。

この様な簡単な事も思い浮かばず、危うく

賊の策に乗ってしまう所であった、想像より

上のプレッシャーは、簡単に視野狭窄に陥り

危うく自分を無駄な危険に晒す所であった。


「コンラッド、そなたの意見を使おう」

「御代はあの『熊止め』を頂こうか?」

「ソレは無理だな!アレは猟師になるそうだ

既に私は振られているからな?」

「全く、金も名誉も欲しがらずに妹の未来を

望むとは、子供故の無知か余程の阿呆か?」

「いや、『森の賢者』の弟子なのだから

賢いのか?」

「底の見えん子供であるな!」

先程までの殺伐さは失せ、普段通り笑える

余裕も生まれた、先手は取られたがまだ

挽回の余地はある、此方は人員の増強と

言う人海戦術が採れるのだ、余程の手練れ

でも無い限り、此方の不利にはならない

これを機に街を一掃しておく事も検討する

必要が有るだろう。


さて、格好良く家を出たのは良いが

何で不審者五人が、隣の家を見張って

いるのだろう?

岩山の山頂付近に陣取り、相手側の動向を

探れば「アンタらやる気あんの?」と罵声

を浴びせてやりたい位に、固まって行動し

偽装は愚か、配置にもついていない!

おまけに我が家を狙わず、隣を狙うって

間抜け以外何と呼べば良いのだ!

「なぁデッチよコレって流しても良くね?」

「あっしは小鳥達の報告を伝えただけですぜ?」

うん!確かに森に不審者五人が潜んでいる

でもね?我が家じゃ、ねぇじゃん!


既に援軍を呼びに行ったビーツさんの乗った

舟は、湖の半ばまで進んでしまった。

ゴメン!ビーツさん貴方の頑張りは無駄に

なりそうです。

全てはデッチの中途半端な報告のせいです。

帰ったら、デッチを煮ても焼いても喰っても

良い!良い!良いので許してください。

よし!コレで行こう!俺は悪く無い!

「旦那、またろくでもない考え事をしていや

せんか?」

ろくでもないとは失礼な、お前の人生いや!

猿生の終焉を偲んでいたのだ!


一方、この暗殺計画の実行犯である五人は

実行するに当たり、意見の隔たりに悩まさ

れていた、原因は実戦経験の無い男が

組織の元締めより、直にリーダーに指名

されて、肥大した自尊心が刺激されたのか

回りの人間を下に見て!意見を汲み取ろう

という意識が全く無かった。


「デイガー、此処から襲撃するのは不味い

せめて、街道からこの家に通じる小路に

移動するべきだ」

グラフは、少しでも計画が成功する確率を

高める為に、リーダーであるデイガーに提案

するが、リーダーであるデイガーは面白く

無い。

「うるせぇ!てめぇらは俺の命令に従えば

いいんだよ、口出ししてんじゃねぇ」

だが、グラフもここは曲げられない

この五人の中で弓を持っているのは、本国で

猟師をしていたボーグだけだ、暗殺計画

なのに狙撃の手段が、1人しか持っていない

魔法を使える人材も居ないのだ。

この事だけでも、練られた作戦ではなく

突発的に発生した好機に、慌てて乗った

だけの、杜撰な計画で有ることが伺える。

ならば、現場の判断で細部を詰めて計画の

成功率を上げねば、自分達が捕まる。

そんな事になれば、本国に残された家族に

累が及ぶかもしれない、ソレだけは避けな

ければならない、いざとなればこいつの

口を封じてから逃げれば良い、どうせ上は

作戦の成功等信じていない、成功すれば

儲けものとしか、考えていないのだろう

ならば、逃げる事も頭に入れるべきだ。

「デイガー静かにしろ!気付かれるぞ!」

「なら黙って俺に従え!判ったな!」

もう、こいつは切り捨てようそう判断し

行動に移そうとした時、再び現場が動く。


洗濯物を抱えて、ドワーフの女性が外に

出てきた、彼女は先程作業小屋に向かった

男の妻なのであろう、グラフは咄嗟に隠れ

デイガーにも身を隠し黙るように、指先で

無音指示を出すが、この男にソレが判る筈

も無く更に激高して、グラフに迫る。

「俺に命令するなと言ってんだろうが!」

最悪であった、この男は底無しの愚か者で

この様な任務で重要な『隠密行動』を何1つ

理解していなかったのだ、故に。


「ソコに隠れているのは誰だい!」


ドワーフの女に気付かれた!デイガーは

今更、己れの失敗をに気付いた様だか後の

祭りである、目撃者を亡き者にして逃走を

するべきだが、女の種族が不味かった。


『ドワーフは重要な隣人』これは全ての国が

掲げる政策の1つだ、ドワーフの国は北大陸

の人類の北限を越えた地域に有り、極寒の

自然環境に、痩せて穀物が望めない土地だが

鉱物は豊富に存在し、ソコで物造りの修行を

終えたドワーフは、自ら口減らしを兼ねて

他国へ渡る、ドワーフは頑固者が多いが

犯罪者は皆無で、製鉄の技術を持つ職人

集団でもある、全ての領主が腕の良い職人

を求め、厚待遇で彼らを迎え入れるのだ。

それ故に、ドワーフを殺めてしまえば

待っているのは苛烈な捜査に寄る犯人捜し

だ、自分達はこの世界の人間とドワーフを

敵に回して生きて行かねば為らない。

ソレは人類未踏の森の奥で、生涯を送る事を

意味する、自分にはムリだ大人しく引き

街に戻るべきだと判断したが、デイガーは

ドワーフ女に顔を知られた、コイツは帰る

途中で棄てていこうとしたが、デイガーは

またとんでもない命令を出す。

「ボーグあの女を殺せ!」

最悪の更に最悪だ、コイツは仲間の名前まで

あの女に教えてしまった、もう後戻りは出来

無い、コイツとドワーフを始末するしか道は

無くなってしまった、しかしボーグは抵抗

する、ドワーフをヤれば自分の命も無くなる

のだ、賢明な判断であるがデイガーは更に

愚かな行動を取る。

「使えねぇヤツだ!貸しやがれ!」

どの口が吠ざきやがる、と大声で罵りたいが

デイガーは有ろう事か、ドワーフ女に向けて

弓を引いた、ここまでコイツは愚かであった

のか?と思わずにはいられ無かった。


家に帰っても良いけど、エーデさんに顔を

合わせ辛い、格好付けて出てきて賊の標的

が、隣だったので帰って来ました。

うわぁ、格好悪ぃ〜それにボルグさんと

ルビラさんが狙われているんだから、教えた

方が良いよね?

何かあの二人なら何とかしそうだし?

しかし、懐かしさの3歩手前で込み上げる

苦い思い出、『人間発電所』並のベアハッグ

が待ち受けていると思うと、思わず涙が

込み上げてくる。


そんな苦い思い出に浸っていたら

ルビラさんが表に出てきた、洗濯でも

するんだろうね、今日は良い天気だし

俺もルビラさんに報告したら、帰って

洗濯でもしようかな?

呑気にコレからの予定を考えていたら、賊が

ルビラさんに向かって弓を構えていた!


マズイ!咄嗟に俺は飛び出し駆け降りて跳ぶ!


うん!とんでもなくマズイわ!幾ら急だから

って、50mの高さから飛び降りるのは自殺

行為だよね?3歳だから人生の走馬灯が無くて

三途の川の向こうで、前世のお婆ちゃんが

お爺さんをジャイアントスイングする体勢で

こっちを見ている、お爺さんは無事に川の

向こうに帰れたのか、良かったわーコッチに

来たら怨霊化待った無しだからね?

来ちゃ駄目だよ?


物凄く変な所で安心した俺は、兎に角生きて

帰る為の努力を始める。

セクシーなポッコリお腹に、魔力を集めて

硬化させて、弓を構える男に照準を合わせる

賊の五人はまだ、俺の存在に気が付いて

いない。

そりゃそうだ、3歳児が空から降ってくる等

常識の埒外だ、アニメも真っ青なリアルで

ある。

俺の頭の中で、『千の顔を持つ男』の入場曲

が流れる、実はアレって失恋ソング何だよね!

無駄に格好いい失恋ソングである、人力飛行

のテーマソングにも為っているから耳馴染み

の人もいるだろうが、失恋ソングって知って

いるのは、何れ位いるのだろう?


そんなどうでも良い事を考えていたら、賊が

俺に気が付いて固まっていた。

うん!解るよ?その気持ち!3歳児が空から

降ってくるって、頭が理解出来ないでしょ?

俺も自分の迂闊さを理解出来ないもん!


弓を構えた小肥りオヤジにフライングボディー

プレスを咬まして、相手の歯と顎が砕ける音が

するが、俺にダメージは無い!

すげぇな!俺の魔力操作!ちょっと自分に感動

して、回りを見ると全員口を開けて呆れている

1人潰しても、まだ4人残っている!

ならば、この奇襲を最大限利用する!

右手に魔力を纏わせたナイフを短槍を持つ男に

投擲する、短槍男の右肩に当たる!上出来だ!

次の獲物を狙うも、混乱からいち早く脱した

鉈男が俺に迫る、左手から紐状に魔力を伸ばし

斜め後方の木の枝に絡め、ウインチの様に引く

俺が先程までいた場所に、何の迷いも無く鉈が

通りすぎる。

木の枝に乗り、右手の魔力を纏わせたナイフも

同様に回収して、ルビラさんのいる所に

飛び降りる。


「あらまっ!驚いた!あんたマクートじゃ無い

かい!どうしたんだい?」

ルビラさんが突然俺が登場した事に驚いている

が、構わずに伝える。

「ルビラさん!あそこに賊が五人潜んでいるの

だから逃げて!」


いくら『人間発電所』の様に強くても、女性を

戦わせるのは違うよね?

ナイフを構えて、賊の登場を待つ。

鉈を持った男を先頭に、4人の賊が茂みから

出て来た。


「鉈はそのまま餓鬼をヤれ!猟師は槍を持って

その援護、俺はドワーフをやる!さっさと

片付けてズラかるぞ!」


リーダーらしき男が素早く命令を下す、右肩を

ヤられた男は、止血しても戦力復帰は望めない。

グダグダな5人組にしては随分とマトモな指示

を出す男だ、さては上司に恵まれ無いヤツか?


鉈を持つ男が、酷く歪んだ笑顔で俺を見ている

コイツはさっきも、俺に何の躊躇も無く鉈を

振り下ろした、きっと『人間の壁』を越えて

しまった人間なのだろう。


人には『倫理の壁』なるものが有ることを

ご存知だろうか?

基本的に人は、同種の人間や小動物等を

殺める行為を禁忌の対象と、本能で理解

しているのだ、口では「あの野郎ブッ〇す」

と威勢良く言えても、実際に行動に移す人は

ほぼいない。

この『倫理の壁』別名『人間の壁』は現代

日本に於いて、司法判断により極刑を求刑する

判断材料にもなる、良く1人は懲役2人は極刑

等と軽く言われるが、間違いである。

1人でも『人間の壁』を越えた者は極刑が下る

その判断がやたらと時間が係るのだ。

犯行時、心が壊れていたからと保護すべきと

口にする人がいるが、間違いである。

心が壊れていたから、人の壁を容易く越えた

のだ、その壁を越えた者は2通りに別れる。


1つは心から後悔して、幻覚や幻聴に悩み

人間性を蝕み、壊れて廃人となる。


もう1つが問題だ、『快楽』をその行為に

感じた者はもう、人間には戻れない。

『快楽殺人』を犯した者は、問答無用で

排除の対象となる、人では無い何かに

自分から成り下がったのだから。


その壁を越えた人間はもう、人には戻れ

無いのだ。


俺が対人戦闘を怖れるのは、その壁を越えて

しまう事が怖いのだ。

しかし、このファンタジー世界のリアルは

俺に覚悟を求める、その壁を越えて行けと

今も、歪んだ笑顔で鉈が俺に振るわれる。

それを反らし、外し、わかす。

鉈が振るわれる度に、風圧と風切り音が

恐怖を増長させる、畜生!畜生!畜生!

負けて堪るか!クソッタレ!

「うぅおぉぉぉ!!」

腹の底のから声を出し、恐怖を払拭する

周りが、一瞬俺の雄叫びに止まる。


どう考えても3歳児の声じゃないし?


この世界が神様が、俺に覚悟を強いるなら

俺も覚悟を決める『まだその壁は越えない』

いや、越えてやるものか!

まだ、俺は人間としてこの壁を越えてやる。

その為には邪魔だ!鉈男!


鉈が俺の首目掛けて振り払われる、それを

屈んでやり過ごし、がら空きになった両膝

をナイフに魔力を通して切りつける、この

手の快楽犯は、対象の反撃に滅法弱い!

己れが神の如く、絶対の強者であると錯覚

しているからだ、事実鉈男は鉈を手放して

泣き喚く、見苦しく五月蝿いので顎を踏み

抜いて黙らせる。


周りを見れば俺を見て、固まっている。

この餓鬼は何者だ?と、思っているのか?

って、ルビラさんまで驚かなくて良いと思う

僕はあなたを助けに来たのよ?

兎に角、鉈男は無力化した次はナイフか?

槍か?ナイフを構えて両方をみると

ルビラさんが不意に叫ぶ。


「あんた!!賊が子供を襲っているよ!」

作業小屋で、仕事をしているボルグさんに大声

で現状を伝える。

伝わるの?と、疑問に思えば作業中の音が止み

両手に斧を持ったボルグさんが、出て来た。

まるで『悪ぃ子はいねえがぁ』と言いたげな

風貌である、マーシャが見たら一発でトラウマ

確定である、俺だって怖いよ!


ドワーフって、なまはげの親戚なの?


「ちっ!槍はドワーフをヤれ!俺が餓鬼を

やる!」

混乱からいち早く脱したリーダーらしき男が

素早く、新たな命令を下す。

兎に角、数的不利は覆した後はナイフ使いの

リーダー、お前が俺の相手か?


得物は共にナイフだが、俺には決定的に

リーチが足りない、先手は向こうに取られ

ざるを得ない、ソレはナイフの戦いには

死を意味する事だ、何としても凌ぎ切ら

無ければ、俺がヤバい!


ナイフ使いの男が俺を静かに見る。

俺の耳の裏と首筋に、冷たいモノが走る

感覚を覚える。

『殺気』と呼ばれるものである。


良く漫画やアニメでは、『殺気』を飛ばす描写

でやたらと睨み付ける表現をするが、残念な

事に本物の『殺気』は、そんな優しいモノでは

無いのだ、まずそんな気配を飛ばして対象を

警戒させてどうするの?で、ある。


本物の『殺気』の正体は『塵を片付ける』

のに何の覚悟がいるの?であり、ナイフ使い

は俺を人ではなく、『塵はゴミ箱へ』捨てる

様な目で俺を見ている、その冷たい視線と

何の感情も感じていない表情に、俺は恐怖を

感じる、コイツも既に『人間の壁』を越えて

尚、人で有ろうと、もがく男なのだ。

何人始末したか?興味は無いが、間違いなく

鉈男よりも遥かに強敵だ。


この世界は、神様は、とことん俺を試すのが

好きみたいだ、ならば何度だって覚悟して

やるさ!


俺はまだその壁を越えてやるものか!

絶対に俺はその壁は越えない!


ナイフ使いが、前に出てナイフを突き出す

世界はスローに過ぎて行く、集中している

のが、自分でも解る。

ナイフを右に避けるが、突き出しが払いに

替わり、屈んでやり過ごすが再度突き出し

が迫り、もう一度右に跳んで避ける。

ナイフばかりに気を取られると、左足の蹴り

が飛んでくる、ソレを避けずにナイフで迎え

ると、蹴りはフェイントで本命のナイフがまた

突き出される、焦るな!恐れるな!

再度、右へ跳びナイフをかわす。

相手の内側へ廻る様に逃げて、時間を稼ぐ。


ナイフを持つ者同士の戦いは、ボクシング

に少し似ている、ソレは『相手の肩』を

見る事が共通する。

どんなに事前に準備しても、腕からの攻撃は

肩から始まり、その角度を判断すれば

突き出しも、払いも、避ける事が可能だ。

プロのボクサーが、お互いのリーチの中で

パンチを繰り出し、ソレを避ける事が可能

なのは、肩を見てコンマ何秒の世界で識別し

避けるか、ブロックか、パーリングかを判断

しているのだ、ナイフ戦闘はブロックも

迎え撃つ事もしない、避けるのみだ。


そして、逃げる方向は必ず相手の内側が

鉄則だ、後ろに逃げたら即座に詰め寄られ

相手の外側、俺が左に避けたら今度は肩だけ

で無く、肘の動きも見なくてはならなく

なり、防御の難易度がとんでもなく

跳ね上がる、故に俺は相手の内側、右へ

跳んで逃げる、時に牽制の蹴りに注意

さえすれば、良いのだ焦らす、呼吸を整え

常にその時を待つのだ、援護が来る

その時まで。


一方、相手のグラフは焦る、この餓鬼は

ナイフの戦い方を知っている。

ソレは自分が、苦労して獲得した技術を

こんな小さな餓鬼は、容易く着いて来る

事が恐ろしくも、苛立ちの原因であった。

無理に攻めて来ない、時間を稼ぎ己れの

味方を待つ、ソレは死の恐怖を抑えて

行われており、とてつもない胆力が必要

な行動なのに、この餓鬼はソレを行う。

コイツは本当に餓鬼か?

何か得体の知れない何かを俺は、相手に

しているのかも知れない。

そんな恐怖がグラフを襲う。


「ぐわぁ!」

叫び声に視線を向ければ、ボーグは

ドワーフ夫婦にヤられていた。

(潮時だ!)

バーツは既に逃げた様だ、ならば自分も

もうこの場にいる意味は無い。

逃げるべきだと判断し、奥の手を掴む。


相手の動きに変化が出た、仲間がヤられ

もう自分1人になったのだ、逃走か?

俺ならそうするが、男は左手に何かを

持っている、ソレを注視して確信する。

(コイツ、魔石を手にしやがった!)


魔石は魔力のバッテリーになる。


以前、ターブランに聞いた話だ。

こいつは魔法を使えるのか!未知の攻撃

ならば、待てない!無理にでも攻撃に移り

相手の行動を阻害してやる!

「二人とも気をつけて!コイツ魔法を

使うつもりだ!」

ボルグさんとルビラさんに注意を促し

俺は無理を承知で前に出る。

彼方も自分の動きが読まれて、動揺して

今までで、一番下手くそなナイフの突き出し

が俺に向かう、恐怖に負けるな!固まるな!

「ダアッァ!!」

腹の底から叫び、突き出された手首に

ナイフを突き立てる、骨に当たる感触を

無視して、貫く!もうナイフは使えない!

俺の力では引き抜け無い!

ならば、ナイフを手放し柄尻を殴る!

その痛みに耐えかねて、相手はナイフを

手放す、ここだ!ここで極める!


俺の頭で『燃えちゃう闘魂』が流れる

今まで散々我慢してきた反動か?

もう、止まらない顎が自然と前に出る!

「ダアッ!」叫びと共にアリキックと

呼ばれる、ただのローキックを放つ!

この野郎!耐えやがる!ならば更に

ボリュームを上げて燃えちゃうまでよ!

「ダアッおりゃ!」

「しゃぁこのヤロー!」

ついにヤツの膝が3発目で

地を着く!


俺は握りこぶしを振り、弓なりに

振り下ろす『ナックルアロー』を相手の

顎に向けて放つ!

自然と顎が斜めに突き出るが仕方ない

様式美である。

「ダアッしゃぁ!」

クソッ!このキャラクターでは俺の

敬愛する東洋の大巨人が出てきてくれない!

どうしてくれるんだ!しゃぁ!オラ!

そんな八つ当たり気味に、アリキック

ナックルアローを交互に咬ます!


ならば逝くまで!逝けば解るさ!

おんどりゃァ〜!!


この野郎!遂に隙を見せやがったな!

その無防備になった首筋に放つ!

『必殺の延髄切り』!!

ダアッ〜!!

叫び声も忘れない!

野郎!耐えやがる!ならば放つ!

ダアッ〜!!しゃっ!

このぉ!まだ耐えるのか!しぶてぇ!

ダアッ〜おりゃ!

ファイティングポーズも

忘れてはいけない!!

この野郎ぉ、まだ耐えるか!

再度、延髄切りを放とうとしたら

ルビラさんが止めに来た。

「マクート?ソイツ気絶してるわよ?」

あん?

「2発目で意識は飛んでたな」

ボルグさんが呆れ顔で指摘する。

そんな、痛いヤツを見る様な目はやめて?

このキャラクターはどうしても逝っちゃうの

わかってくれないかしら?


そんなこんなで?白鳥砦の援軍が我が家に

来たようだが、肝心の俺も賊もいない。

ママンとエーデさんは共に焦り、やって来た

生傷男は、部下に探す様に指示する。


賊を見張る為にボルグさんとデッチと俺が

残り、ルビラさんに我が家への伝言を頼ん

で深く息を吸い、吐き出す。

そしたら下半身の力が抜けて、腰が抜けた

今更、恐怖が俺の身体を巡り

震えが止まらない。

そんな俺の身体をボルグさんは、優しく

後ろから抱いて、俺に諭す様に話す。

「おめぇはまだ子供なんだからな?

こんな修羅場に来ちゃ行けねえぞ?

こんな事は大人に任せろ?いいな!」


俺は震えながら、ボルグさんの言葉に

頷く、幾ら覚悟決めて行動しても俺の

身体はまだ3歳児なのだ、心は大人でも

身体が着いてこれない、事実何度も決め手

を極めきれていない、悔しさに涙が溢れる

努力で埋められない、純粋な力不足が俺の

前に立ちはだかる、この先何度もこんな

思いをするのだろうか?

そして、越えたくない壁をいつか越えて

行かなくてはいけないのか?

この世界はファンタジーのリアルだ。

正直、ただの子供で居たいのに、環境が

許してくれない。

それでも俺は叫びたい。

「I don't want to cross this wall」

(俺はその壁を越えたく無いんだ)



越えたく無いんだ。























































やっと、投稿出来ました。

お盆って忙しいんですよ?

運送業って、特に飲料を運ぶ

人間は、このコロナ禍でも関係

無くて!

何十年振りにお盆休みを貰ったのか

解らない位に久しぶりに

今日と明日は休みになりました!

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