第40話 power game&spy game
シェール辺境領、其所はポルト・ランケ王国
の南東に位置して、東側は開発途上の森林が
広がり、その森林の奥にはオルクス大山脈が
この大陸を、南北に縦断するように聳えたち
その大山脈がそのまま、ガラン大帝国との国境
となり、帝国からの侵攻を防ぐ天然の要塞でも
あった、実際王国史上ガラン大帝国はこの天然の
要塞を踏破出来ずにいる、菱形の大陸が縦に
2つ連なる形で存在する、ラーベント大陸の
南大陸で、東側の全てを支配下に置く大帝国で
すら、この天然の要塞を抜く事は困難を極めて
いるのだ、しかしその天然の要塞を過信せずに
防衛拠点の砦も設置して、常にあらゆる事態に
備えており、この地より侵攻するには南側に
位置する隣国、テノーラ王国の助力が必要で
あるが、テノーラ王国もまた、大山脈のお陰で
ガラン大帝国からの侵攻を防いでおり、常に
仮想敵国第2位の地位をポルト・ランケと
テノーラ王国は共有はしているが、同盟や
協定を結ぶ気配は一切無い、それはテノーラ
側からシェール領を見れば、豊富な天然資源
と豊かな自然環境、そして枯れる事のない水源
それは、テノーラ王国の大山脈側に位置する
領主達からは、喉から手が出るほど欲しい
モノで有った、特に水源は人間の生活に不可欠
なモノであり、すべての営みの根源がテノーラ
王国側は不足していた、湿地帯は存在するが
水源とするには乏しく、テノーラ王国は常時
水不足に喘ぐ生活を余儀なくされており、水源
確保が至上命題であった為、テノーラ王国と
ポルト・ランケ王国は、常に国境紛争が絶えず
立派な街道は存在するが、其所は半ば封鎖状態
が続き、お互いの国の商人が、街道の半ばで
小規模な商業取引を行う、密輸紛いの市場が
存在するという噂が、領都シェールエランに
流れる程だ。
所がその市場は実在しており、また両国の
諜報戦の最前線であり、ぶっちゃけこの地
にいる商人全てがスパイであり、情報という
鮮度命の商品も隠れて存在する。
その鮮度が新鮮なまま、シェール辺境領主の
元へ届けられたのは、辺境領主令嬢が平民の
家を訪れる、当日早朝の事で有った。
幼い女の子の鼻歌が、その子1人の為の部屋に
しては、些か広すぎる部屋に流れている。
その幼い主は「私とっても上機嫌です!」
を全身で表しており、側に使える侍女も微笑み
注意する事はしない、彼女は幼いながらも確り
しており、逆にこの屋敷に勤める人々からは
「もう少し子供らしくした方が・・」
が共通認識であり、この幼い令嬢の明るい変化
を誰1人注意するような『野暮』は存在しない
のである。
それほどこの幼い令嬢ソフィア.オム.シェール
は愛されており、また彼女もこの屋敷の人々を
愛していた。
「お嬢様、外はまだ少し肌寒くございます
上着は、もう少し厚手のコートをご用意いたし
ましょうね?」
「うん!レイリーに任せる!」
花が咲く笑顔とは、この事で有る。
レイリーと呼ばれた侍女は、思わず涙ぐむも
根性と気合いで我慢する、この幼い令嬢は
今までこの様な、心の底から喜びを表す事は
1度も無い、ならば余計な心配を掛けずに
笑顔のままでいて欲しい、そうだ!まだ我慢
出来る!将来を誓った相手が浮気相手を孕ま
して、自分が捨てられた哀しみに比べたら
コレ位の事は何でもない!
あの野郎の顔を思い出せば、涙は引っ込み
怒りが沸いてくる、そうだ!燃やせ!
憎しみの炎よ!燃え盛れ!
ちょっと所か、かなり危ない域に感情を
昂らせたレイリーは、八つ当たりも始める。
大体、同士と仰ぎ同じ独身女性として尊敬
していたアレサ嬢も、八歳年下の男の子と
早々に結婚してしまった!
何よソレ!裏切り者めっ!可愛い旦那と旨い
事しやがって!
勝手に同士認定しておいて、酷い言い草である
私だって、まだまだチャンスはあるもん!
きっとあるもん!絶対あるもん!
レイリー2X歳、結婚適齢期後半に入った
微妙なお年頃の淑女で有る。
そんな希望と怨念が渦巻く、ソフィアの部屋
から離れた別邸のゲストルーム、シャーリー
の部屋からは、焦りの声が聞こえて来る。
「あぁん!コレも駄目だわ派手すぎてあの方
が驚いてしまうわ!」
持ち出して来た、衣装をひっくり返して彼女は
自分が、明日着ていく服の選定に迷っていた。
あ〜でもない、こ〜でもない、右往左往する
令嬢を、ややふっくらして母性を感じる笑みで
眺める侍女はこの、子沢山男爵家の子息全ての
面倒を見てきたベテランであり、自分もまた
三人の子供を抱える母親でも有った。
「お嬢様、それならいっそソフィア様に服を
借りたら如何です?」
ちょっとばかり呆れて、投げ槍に話せば烈火の
如く反論が帰って来た。
「カーサ!それは駄目よ!ソフィア様は大切な
お友達ですわ!でもコレだけは駄目よ譲れ無い
の!」
カーサと呼ばれた侍女は流石に呆れる、お嬢様
はまだ4歳である、他の子息が4歳の頃は本当に
子供で目を離せば、トンでもない物を口にいれ
彼女をよく困らせたモノだ、しかしこの少女は
その様な事はせずに、与えられた本を飽きる事
なく、読み聞かせをせがむ可愛いらしくも手の
係らない良い子では有ったが、すでにこの少女
は恋の花を咲かせ、意中の殿方との一時を今か
と待ちわびる乙女でも有った。
(このお嬢様は早熟過ぎる)
奥様の血を最も濃く受け継いだのは
この少女であると、カーサは思った。
翌朝、令嬢同士の空騒ぎが水面下で行われ
ている中で、辺境領主執務室は重い沈黙が
流れていた。
「テノーラを甘く見たツケがコレか!」
辺境領主ウェイン.オム.シェールが紫丹で
拵えた机を強く叩く。
「もう少しだけでも早くこの事を知りたかった
モノだな?」
客人コンラッド・ジェンシェン男爵が左の眉を
上げて、諜報担当の部下に告げる。
別に他所の部下を叱責するつもりは、彼には更々
無いが、この日を待ちわびた男爵の末娘を思えば
流石に、この程度の愚痴は出てしまう。
既に出発準備は始まっている、ここで今日の
予定を全て中止にしても、構いはしないが
もしかしたら、四聖の1つ玄武との面会が
叶うのかもしれない、しかも玄武の従者
『森の賢者』との面会は絶対に有るのだ。
この事は王室に報告義務が生じるが、辺境領主
も男爵も王室には全く、伺いを立てていない。
2人は王室にそれ程、忠誠は誓っていない。
それどころか、憎んですらいたのだ。
王室の起こした最大のスキャンダル
『不名誉の下賜』コレにより当時の王太子は
廃嫡、その後王国は分裂寸前迄行ったのだ
その時に国境を護る辺境領が、如何に困難に
見舞われたか、王室の全員の横っ面を
張り倒してやりたい、衝動に駆られたのは
1度や2度では利かないのだ、また貴族の
横の繋がりは、婚姻関係による血族化もある
のだが、同じ戦場、同じ王立練兵場で得た
繋がりも、確かに存在するのだ。
所謂、「同じ釜の飯」の仲である、この関係
は脆弱な様で、遠い領地の領主同士でも即座に
手を取り合える事が出来、王室にも利益は
あるが、この繋がりは「反王室」の形の繋がり
が強かった、現在の王室は正に薄氷の上に
成り立っており、塩と紙の支配が終われば
簡単に瓦解する程、弱まっているのである。
ポルト・ランケ王国は、常に内乱の火種が
国内の其所かしこに存在するのである。
そんな王国の内情等、知った事では無い
我が家は、結婚披露宴が終わってから
ママンと辺境領主邸から派遣された、侍女長
と共に、御貴族!様御迎え大作戦を遂行して
いた、辺境領主邸からは侍女長と下女二人
下男三人の六人が派遣されて、準備に大わらわ
下男三人とパパンは納屋に寝泊まりして、俺は
3歳児の特権を最大限に使い、侍女長と下女の
胃袋は完璧に掴んでいたのだ。
「あら!マクートちゃんお早う」
にこやかに挨拶するのは、侍女長のエーデさん
御歳40半ばの妙齢の女性であり、2人の子供も
いるのだ、勿論俺よりも年上の子供だ。
「エーデさんお早うございます、良かったら
少し味見して下さい、塩をもう少し利かせるか
悩んでいたんです」
家族の好みはバッチリ把握しているが、派遣
された人達が我が家に来てハズレだった、等
絶対に言わせてなるものか!そんな意地で
持て成しているのだ。
「今朝も素晴らしい出来ね、塩加減は充分よ」
根菜とキノコの出汁スープの出来は合格を
いただいた。
「マクートちゃんはホントに良い子ね
お母様の教育が確りしてたのよね!」
ここでパパンを出さない辺りエーデさんは
良く見てらっしゃる。
そして、屋敷から派遣された人達は俺が
料理をする事も理解している、初日に皆
経験したのだ、お湯を沸かしただけで
毒物を作成してしまうママンの凄技を!
ホントにスゲーだろ?アレ?
逆転の発想だよね?母親の手料理で死ぬ
から、生き残る為に自立して料理を覚える
って、子供の独立性がめちゃくちゃ早く
獲得出来るぜ?マーシャも最近はお手伝い
してくれるから、この夏からは一緒に作る
事になるだろう!
生存率が益々上がって良いことだ!
目から汗が止めどなく流れるが、気にしては
いけない!
そんな朝の悲劇もソレなりに済ませ、我が家は
御迎えの支度を済ませるが、デッチが気になる
報告をしてきた。
「旦那、昨日の夜から知らねぇ人間が5人この
森に入りやしたぜ?」
「貴族の護衛って線は?」
「護衛なら堂々とこの場に入りやせんか?」
「何処ぞの暗部の類いか」
「そう判断して間違いありやせんぜ?」
暗殺特化なら毒物を所持しているだろう
格闘は下の下の戦術だな、魔力操作で確保
するか、デッチに始末させるか?
イヤ!デッチは必ずやらかす!絶対にやらかす!
デッチとタッグでやるか?オーク戦見たいに?
それなら、安心できるから最悪そうしよう。
兎に角、まずは確認したいことをしよう。
「エーデさ〜んちょっと良いですか?」
「どうしたのマクートちゃん?」
笑顔で手を振りながら無邪気に近付く!
多少忙しくてもこうすれば、対応してもらえる
事は既に学んでいるのだよ!
「お屋敷の今日の予定って、誰が知って
いるのかな?」
「そりゃお屋敷中の人が知っているわよ?」
「その中で末端、外部に漏れ安い人は?」
俺はここで声のトーンを落とし、外部に
今日の予定が、バレている事を暗に伝える。
エーデさんは流石侍女長である、ここで鈍感
ならば!この地位にはいない。
「確かなのね?」
「デッチが今、報告して来ました、森に五人
部外者が潜んでいます」
「『森の賢者』からの報告ならば間違いない
わね」
イヤ!エーデさんアイツはやらかしの常習犯
ですよ?
「不味いわ、外に報せる方法が無いわ」
「ここからなら、白鳥砦に連絡して領都に
報告するのが1番早く、確実です問題は
誰を行かせるか?なんですが」
「オイゲンさんならば、砦とスムーズに
連絡出来ない?」
「お父さんの弓は絶対に必要です、残して
下さい」
エーデさんは目を丸くして驚く。
「マクートちゃん貴方本当に3歳?」
「良く言われますが、3歳ですよ?」
中身はパパンと変わらないけどね!
「それじゃ、ビーツに行って貰いましょう
彼は兵隊上がりで、体力もあるし何より
屋敷に来る前は、あの砦にいたのだから
適任でしょう」
うん!これ以上無い位の人選だ!
「エーデさんの判断に任せます、後は外に
いる人達を家の中へ、僕はデッチと森へ
行きます」
「駄目よ!マクートちゃん!それは駄目!」
突然大声を上げたから、回りが俺達を見る。
エーデさんは泣きそうな顔で俺を見る。
「マクートちゃん貴方はまだ子供なのよ?
こんな危ない事は大人に任せなさい!」
確かにエーデさんの言う事は正しい、でもね
正しいから正解とは限らないのが、人生だ!
「エーデさん、本物の脅威って年齢も性別も
無視してやって来るんですよ?この間の
狩猟会の時もそうでしたでしょ?」
貴女は奥様の側にいたものね。
「それはズルいわマクートちゃん、反対したい
のに出来ないじゃ無い」
エーデさんは既に涙を流している。
「エーデさんには申し訳ありませんが
それでも僕は行きます、こんな子供でも
家族を守りたいんですよ?」
エーデさんの目を真っ直ぐに見つめて
自分の覚悟を伝える。
「それでは、後の事は任せます」
俺は床下に隠していた、帝国騎士のナイフを
取り出してデッチの元へ走る。
覚悟はしていた、しかしこれ程早く
『対人戦闘』を行うとは思いたくは
無かったが、仕方ない。
マーシャと家族に危険が迫るならば
排除してやる!
俺は『お兄ちゃん』だからな!




