第36話 続・春の荒らし
遅れてすみません。
美味しいモノが沢山食える!そんなお祭り気分で
やって来た俺を、会場の空気が容赦無くボコる。
『オメェ何浮かれてんだ?あん!』
『遊びとちゃうんやぞ!ワレぇ!』
『お子様はお呼びじゃねぇんだよ!』
あれ?具体的に幻聴が聞こえる?どうして?
我が家はゲスト待遇で、お呼ばれしたはずだよね?
何で俺が叱責されるんだ?責任者どこだー!いた!
会場を見渡せば、ドリー兄さんことグレッグさんが
地元の猟師らしき集団と、お話合いらしきモノを
していますねぇ〜ここは1つ盗み聞きを〜
カラン!カラン!カラ〜ン!
「貴様は、この事態を静観するのだな?」
「滅相もございません、装備と罠が無ければ
私共はヤツらのエサにございます」
「そちらが装備をする必要は無い、我らが
排除する、不慣れな兵の案内をしろと言ってる」
「この辺なら、砦の方も詳しいのでは?」
「街道砦の兵の相手をせよと、言っている」
「こちらの砦の方と組んだ方が連携もとれて
宜しいのでは?今の私達には、少し計り
荷が勝ちすぎでございます」
「よろしい、ならば静観せよ」
「なっ・・・・」
「オーデはいるか?!」
「はっ!」
「部隊を編成せよ、我らが森に入る街道組は
この拠点の護衛を任せる」
「はっ!」
「グレッグ様、今少しの猶予を」
「良い!今まで苦労であった」
カラン!カラン!カラ〜ン!
うん、途中からだから全然わかんない!
取り敢えず、『ビビる猟師』と『怒りやグレッグ』
が、『押すなよ?押すなよ?ほなエエわ!』な
笑いもオチもない、ぐだぐだコントをしていた
事は理解出来た。
そりゃ嫌われるよ?猟師さん、ちゃんと落とせよ!
グレッグさんが笑いに厳しいって、どうでもよい
事は良くわかった。
そして『ビビる猟師』が逃げの一手となるモノが
この森の中に潜んでいる事も、わかった。
ならば、猟師さんに聞いてみるか?
「お父さん、ちょっと聞いても良い?」
「ん?どうした?マクート?」
この緊張感の中で、突然声を掛けたから驚かせた
みたいだ。
『ビビるブロディ』はキモいだけだぞ?
「お父さんが、この辺でコイツに逢ったらイヤだ
って、動物はいる?」
「ぅん?この辺の獲物でかぁ?そうだなぁう〜ん
猿どもは群れが厄介でも、この辺にはいないなぁ」
あっ!パパン『費用対効果』で厄介な獲物と勘違い
しているみたい、軌道修正させよう!
「コイツ狂暴だなぁ!イヤだなぁ!ってヤツは?」
「この辺で、狂暴なヤツならキュルオースだな!
特に今の時期なら、冬眠明けで更に獰猛だ」
キュルオース?始めて聞く動物の名前だ。
「キュルオースってな〜に?」
「頭と体にな、石の兜と鎧を纏った熊がいるんだ
まぁ、コイツは口か喉元に撃ち込めば徐々に
弱まって行くから、大した事は無いがな」
うわぁ、本当に意地悪なファンタジー世界だよ
そんな熊がいるのかよ!
そして、そんな熊を大した事無いって言えるのは
あんただけだよ!パパン。
兎に角、入り口に居ては邪魔になるので俺達は
『御婦人会エリア』なる、招待客の奥様方や
その御子息が集まるエリアに、通された。
此処が唯一華やいだ場所であり、緊張感は
此方まで伝わってはいない、だって子供の声が
聞こえくるからね。
子供の声って魔法の様に、緊張感を解きほぐす
からね。
でもさ、そんな子供の声が一瞬で鎮まりかえると
逆に緊張するじゃん?
あっ!左手の女の子は今にも泣きそうだ!
真ん中の男の子は、お姉ちゃん?に抱き付いて
怯えた表情をしている、お姉ちゃんも口元を
震わせているけど、目を閉じて必死に男の子を
守ってる、良いお姉ちゃんだなぁ〜。
右手の男の子達は、それぞれの母親の所に逃げ
ていく、イヤ!男なら女の子を守ろうよ?
さて、この場をこの様な惨状に変えた本人を
何とかしないと、マーシャが仲間外れにされて
しまう!
まぁ、俺達平民が貴族の御子息達とお友達に
なるのは、小説や演劇の中だけ、だけどさぁ
せめてこの場では、仲良くしたいじゃん?
俺は良いけど、マーシャはまだ同い年の子供と
全然触れあえないんだからさ、マーシャの成長
の為にも、この機会に同い年の子供と遊んで
欲しいのよ、お兄ちゃんはね!よっしゃ!
この惨状を生み出したパパンを生け贄にするか!
パパンは『まぢブロディ』って位に髭モジャで
ガタイもでかくて、分厚い体の持ち主だ。
そりゃ「怖がるな」って無理だよ、マーシャも
まだ、イマイチ懐かないくらいだしさ!
俺は、この場をどうしたら良いのか判らずに
パニクって目が泳ぎ捲ってる、パパンに抱っこ
してぇ〜と両手を掲げて持ち上げて貰う。
俺は目が泳ぎ、汗がダラダラのパパンの肩に
手を乗せて、素敵な笑顔で告げる。
「お父さん、頑張ってね!」
何を言ってるんだ?コイツ?と言いたげに
目を大きく開くパパンの腕をすり抜けて、両手で
パパンの髭を鷲掴み固く握る。
せめてもの武士の情けで、髭の根元を掴む。
「あ〜あぁ〜!」
男の子なら何故か?1度はやったことが有る
『ター〇ンごっこ』元ネタ見たこと無いのに
やっちゃうパターンって有るよね?
初めて見たヤツは81年制作だから、衝撃を受けた
『こんなにエロいの!!』って、本当にお世話に
なりました。
さて、元ネタ何てこの世界には存在しない!
突然の俺の奇声&奇行に周りの視線が一気に
集まる、そして目撃する。
髭モジャの大男にぶら下がる3歳児の間抜けな
絵面を!!
もう、コレでもか〜って位の無邪気な笑顔での
俺の奇行に驚き、目を丸くし、そして笑う。
想像してみ?強面の男に満面の笑みを浮かべた
子供がぶら下がっていたら、どんな勇ましい
ポーズも台無しだって!
マーシャが「私もやりたい」ってキラキラした
お目めで見つめています。
「マーシャもやってみる?」
「うん!やりちゃい!」
「お父さん、マーシャもやりたいってさ!」
ここでパパンに悪魔の囁きを告げる、何しろ
ここに来るまで、『生傷男』に懐かれたマーシャ
を見て来たのだ、そのジェラシーに燃えた目は
俺ですら引いたよパパン!
「どれ、しょうがないなぁ」
だらしの無い笑顔で言っても、意味無いぞぉ
キラキラ輝く笑顔で、マーシャはパパンの髭を掴み
「「あ〜あぁ〜!」」
2人の子供の無邪気な笑顔とパパンの間抜けな
絵面で場の空気が変わる。
大人達は視線を反対に向けて、肩を震わせている。
ママンも、明後日の方向を向いて笑っている。
よし!空気が軽くなった所でお友達になりましょう
作戦を発動しよう!
その生け贄になれブロディ!
きゃっきゃと笑うマーシャに「ちょっと待ってね」
軽く断りを入れて、左手の泣きそうな女の子に
明るく声をかける。
「怖がらせてごめんね、家のお父さんってさ
怖そうに見えるけど、大丈夫!怖く無いよ?」
パパンを指差し、明るく告げる俺に女の子は
ポカーンとした表情をかえすが、もう一押し!
「やってみない?」
やらないか?とは絶対に言わないよ?
視線の先には、満面の笑みを浮かべたマーシャが
笑っている、愉しそうで何よりである。
「えぇっと、 いいの?」
遠慮がちに話す、女の子に手を伸ばして笑う
「もちろん!おいで!」
女の子の手を取り、パパンの元へトコトコと連れ
て行き。
「この娘もやりたいんだって!良いよねマーシャ」
「うん!一緒にやろぉ!」
明るい笑顔で答えるマーシャは優しく成長して
いるみたいだ、良かった良かった。
パパン?拒否権が有るとでも?
2人の女の子が、明るい笑顔で笑い合う和やかな
空気が場を包む。
もう少しだけ、お友達が欲しいなー、って訳で
真ん中の男の子とお姉ちゃん?にも声をかける。
笑顔で男の子のもとへ近付き、誘ってみる。
「突然驚かせてごめんね?僕のお父さん怖い
よねぇ?」
「 怖く無いもん」
うんうん、男の子は意地を張らないとね!
「じゃぁさ、一緒に遊ぼう?」
俺はパパンを指差し、笑顔で告げる。
「えっと でも でも」
躊躇う男の子に笑顔で告げる。
「大丈夫、僕の妹や女の子も愉しそうでしょ?」
「 うん!僕もやる!」
そうそう!男の子は意地を見せて張らないとね
お姉ちゃん?にも声を掛けて置かないとね!
仲間外れ良くない!
「ボク、マクートって言います、お姉さん?も
一緒にどうですか?」
「有り難う、私はソフィアこの子とは親戚のなの
喜んで招待を受けるわ」
うわぁ〜流石貴族の御令嬢である、歳はさほど
変わらないのに、俺の曖昧な疑問に答えてしかも
完璧な受け答えである、凄いな貴族の御令嬢。
「ほら、トーマスあなたもよ?」
「 トーマス 」
たっぷり間を空き自己紹介する、トーマス君多分
同い年?普通の3歳児ってこうなのかな?
「宜しくね、トーマス君」
俺はトーマスに右手を差し出し、笑顔で挨拶を
交わし、その手を取りトコトコとまたパパンの所へ
戻って来る。
5人の子供がワイワイ騒げば、場の空気は
元に戻り、落ち着きを取り戻す。
我らがブロディを犠牲にして、現在ブロディは
3人の子供をぶら下げている、頑張れよ〜
その痛みで、変な扉は開くんじゃ無いぞぉ〜
あれ?そしたらママンが女王様?悪く無いぞ?
むしろ良い!お願いしたいぞ?
そんなどうでも良い妄想を他所に、周りの大人が
動き出し、侍女さんらしき女の人が「此方へ」
と、招きここの主人と面会させる。
連れて来られたテーブルには、知ってる顔と
知らない顔が幾つかある、マナー的には良くない
けど、この日だけはマーシャとお友達で居て欲しい
子供達がいるのだ、遠慮してはいけない!子供は
大人を良く見ている、ならば俺が先制しよう!
大丈夫!俺は3歳児だから!多分大丈夫?
「セレナさんこんにちはー」
恐らく、このテーブルでNo.2的なセレナさんに
元気な挨拶をする、そしてゴマもする。
「今日もお姉さんみたいで格好いいねー」
そう、ここにいる女性陣は皆さんワンピースの
様な軽い服に、革のコートやジャケット等の服装
に、派手なスカーフや帽子でコーディネートして
外に出るための格好をしているのだ。
セレナさん以外の女性が、目を丸くする。
ちょっとドヤ顔のセレナさん。
「マクートちゃん!待っていたのよ?
こっちにいらっしゃい!」
俺のゴマスリが功を奏して、満面の笑みで
セレナさんが俺を手招きする。
俺はマーシャの手を握って、更に追撃する
「マーシャと一緒にそっちに行っても良い?」
「ええ、勿論よ!いらっしゃい!」
よっしゃ!なし崩し的に内側に入っちまえ作戦は
成功である。
恐らく、ここの主人は威厳を以て我が家
と接しようと、するはずだ主導権を握る為に。
ならば壊そう、その計算!狙い通りにはさせない
この手の嫌がらせは、BIGに得意だぜ?
何故かルー語も飛び出す位にな!
2人で『わぁ嬉しい〜甘えちゃお』の笑みで
セレナさんに抱き着き、エヘヘと笑う。
あざといだろう?そうとも!あざといさ!
だが!効果は抜群だ!
しかし、いくら3歳児でもセレナさんに二人は
キツイ、ならば俺は隣のアレサさんにマーシャを
お願いして、セレナさんに抱っこして貰う。
この位置も計算よ!たわわなのセレナさんに
マーシャが行ったら大変である!ママンが
その点、アレサさんはママンと変わらないから
安心だ!何がとは言わないよ?絶対に!
こうして、敵陣に笑顔で突撃しましたけど何か?
と、主人らしき女性を見る。
主人は小さなタメ息と共に、こちらを見て
笑顔で挨拶をしてきた。
「可愛らしい子犬ちゃん達ね?お名前を教えて
貰えないかしら?」
「マクートって言います!3歳です!」
「マーちゃさゃんさい」指三本立てて挨拶する
マーシャを見て安心する、三までは数えられると
ここの主人も目尻を下げる、マーシャの
可愛らしさはモノ凄い破壊力だろう?
主人も目尻を下げたまま、俺達に自己紹介を
する。
「私の名前はセレーヌよここのエライ人の奥さん
なのよ?」
主人が完全に姿を現した、そうか究極英雄の
奥さんか、ならばゴマをするまでよ!
「お姉さんもエライ人なの?」
奥さん=オバサンの図式は当て嵌めてはいけない!
飽くまでゴマをすり捲る!
俺はセレナさんを見て、セレーヌさんを見る。
「お姉さん?だよね?」
えっ?何か間違えた?おかしいの?の体で
首を傾げて、セレナさんを見る。
御婦人=オバサンの図式は、不幸を招くだけである。
「ねぇ!セレーヌ言った通りでしょう!」
「ええ!お姉様!本当にこの子可愛いわ!
家に欲しい位よ!」
あら?二人は姉妹なのか?確かに髪は同じ色だ!
二人とも、薄茶に艶やかな髪と若草色の瞳である。
ややふっくらして、優しさと母性が出ている
セレナさんに対して、セレーヌさんは
『遂に出たな!ドリルヘヤー』の髪型だ
所謂?悪役令嬢見たいな?ややほっそりとして
少し、キツメの目元は姉妹でも正反対である。
そんな元・悪役令嬢は上機嫌で席を立ちこっちに
やってくる。
「可愛い子犬ちゃん、お近付きの記しにどうぞ」
小さな包みから取り出した、焼き菓子をいわゆる
「あ〜ん」のやり方で、こちらに出して来た。
宜しい!その挑戦受けて立とうでは無いか!
「あ〜ん、ぱく!モグモグ」
一連の行動を上目遣いで行い、視線は常に
元・悪役令嬢を見て、目を丸くする!
旨い!旨すぎる!馬にはならんが、旨い!
食べかけで恥した無いが、俺は両手で受け取り
半分に割り、マーシャにも「あ〜ん」と渡す
お菓子を口にしたマーシャも、驚きの甘さと旨さ
でニコニコの笑顔で呟く。
「おいちい!」
「美味しいねぇ」
俺はもう1つの割れた、お菓子もマーシャに食べ
させて元・悪役令嬢にお礼をいう。
「お姉さん、有り難うボク美味しくてびっくり
しちゃたぁ〜」
両手を挙げてボク嬉しい!のポーズである。
アレサさん、セレナさん、元・悪役令嬢撃沈!
三人とも笑顔で見悶える、危ない空間を作って
しまった。
因みに、アレサさんの赤い髪はドリー兄さんの
お母さんの遺伝である。
そんな、危ない空間も取り敢えず落ち着き
全員が席に着き、お茶会が再開される。
俺とマーシャは左右の御婦人から「あ〜ん」
の嬉しい攻撃をモロに食らい、マーシャの
頬っぺはリス見たく、膨れ上がっていた。
しかし、未だに寒い外にお茶このコンボを
されると、当然の生理現象がやって来る。
「お兄ちゃん、おちっこ」
だよね〜、いっぱい食べてごくごく飲んじゃった
もんな!しょうがないな、お兄ちゃんに任せな!
俺は近くの侍女さんに、「おしっこしたい」
と伝えて、何処でするか聞いてみると?
「彼方の茂みに入りますか?」
あっ!やっぱり野外で用を足すのですね〜
侍女さんにお礼を述べて、ママンにマーシャが
緊急事態で在ることを伝え、ママンに対処して
貰う事にした。
茂みに入って行く、ママンとマーシャの入り口に
侍女さんが立ち塞がる、こういうシステム
なんだ〜と、妙な感心をしてしまう。
しかし、本物の緊急事態など此方の事情など
全く考えずに、やって来るモノである。
ママン達の消えた茂みとは、別の茂みから
悲鳴が突如上がり、そちらの方角を見れば
木々の隙間から、熊らしき獣が見えてしまった。
パパンは『念の為』持って来ていた、弓を組み
始めるが、正直間に合わないだろう。
「ソフィア!」
突然、元・悪役令嬢が立ち上がり声のした方へ
と駆け出そうとするが、侍女さんとセレナさんが
必死に押し留めている。
ソフィアさんて、あの良く出来た御令嬢だよな?
あんたの娘だったんだ!
一瞬、彼女との短いやり取りが脳裏を掠める。
間違うなよ?俺はマーシャを守るんだからな?
ほんの少しだけの付き合いの女の子は、対象
じゃ無いからな?間違えるなよ?
「離しなさい!離して!ソフィアー!」
髪を振り乱し、涙で顔も凄い事になっているが
それを笑うモノは本物の悪魔だろう。
護衛の兵士もやって来て、元・悪役令嬢を
抑えるが、誰も茂みには入らない。
こういう時に物語では、ヒーローがやって来たり
ヒロインの姫騎士様が、やって来るのだろうが
生憎、此所はファンタジー世界のリアルだ
そんな都合の良い存在は、この場には居ない。
そんな中、震える足で茂みへ行こうとする
女の子が目に止まる、俺は彼女の肩に手を乗せて
警告する。
「この先は危ないよ?命を確実に落とす」
女の子は震える瞳を俺に向けて、震える声で
答える。
「ソフィア様はお友達なの助けてくれたの
だから私も」
全身が震えて自分も怖いのに、良く行こうと
したよね?震える目に涙を浮かべて、行こう
とする少女を母親らしき女性が抱き締めて留める
「シャーリー行ってはいけません!」
「お母様!行かせて下さい」
震えながら、自分の意見を言う少女を母親が
無言で強く抱き締めて、少女を引き留める。
ソフィアさんて、こんなに慕われて本当に
良く出来た御令嬢なんだろうな、凄いよね?
俺とそんなに歳は変わらないのにさ、凄いよ。
「じゃあさ!俺の妹とも友達になってくれない
かな?」
何を言ってるんだ俺は?相手もそう思っている
だろう?
「俺達街から遠く離れた所に住んでいるから
同い年の友達がいなくてね!困っていたんだ」
だから俺は何を言ってるんだ?止めろよ?
「俺が変わりに行くから、妹をヨロシクね?」
ちくしょう!人生ってヤツは間違いだらけだよ!
唖然とする母子を置き去り、パパンを見る。
「お父さん!後どれくらい掛かる?」
「3、いや2テイルだ!」
2分かギリギリだがやるしかない!
「僕があそこに誘き寄せるから、お願い!」
パパンが俺を強く睨む、俺も睨み返す。
ここは負けてはいけない!退いては駄目だ!
「無茶はよせよ!」
苦虫を噛んだようなパパンの表情は、正直怖えぇ
だが救うのは、本来ならばソコにいる兵士の
役目だが、奥方様も止めなくてはならない。
辛いなぁ中間管理職、俺は絶対にならないけど
パパンの超消極的賛成を貰い、テーブルを覆う
シートを『マチ〇アキ引き』で、引き抜く
幾つか上のモノは倒れたが、気にしない!
奥方様を抑える兵士の腰のナイフも拝借する。
「借りるよ!」
返事は待たない!待ってられない!
俺は茂みに飛び込む。
茂みに突入して、最初に目にしたのが
頭部が特徴的な熊だ!
骨の一部が皮膚を破り、競り出し額と鼻先迄
覆い、胸も心臓に当たる部分の骨が突き出し
心臓付近を守る様に覆う、人間側からみたら
悪夢の様な熊だ、ファンタジーは夢の中だけ
にして欲しい、こんな最悪なファンタジーに
需要はありません!お引き取りを!!
俺は熊を観察する、デカいな羆位だよな?
まだ、口元は赤く染まっていない。
間に合った様だ、ソフィアさんは侍女さんと
抱き合い震えているが、怪我はしていない
2人の無事を確認して声をかける。
「2人とも立てる?立てたらゆっくり後ろ
に振り向かず、下がって!」
熊は逃げるモノを獲物認定して襲う、振り向き
走るのは自殺行為だから止めてね?
俺が突然、熊とソフィアさんの間に入ったから
熊が立ち上がり、吼えて威嚇してきた。
その声に、ソフィアさんと侍女さんは腰を抜かした
みたいで、立ち上がるのは無理みたいだ。
うわぁ、やりたく無いけど1番俺が死ぬ確率の
高い作戦をやらねば、ならなくなったぞ!
本当に人生は、困難と失敗の連続だよね?
俺はまだ3年しか生きて無いから、見逃さない?
腹を空かせて獲物が3つ、見逃すはずが無い
熊が姿勢を戻し、鼻先を俺に向けてきた。
ソコに急かさず、俺は持って来たシートを
右手で網を放る様に投げて、拡げる。
熊は驚き、再び立ち上がり吼えた。
俺は振り向き、茂みの外へ走り出す俺に
獲物認定をさせる為に。
熊は俺の誘いに乗り、獲物認定して後を付いて
来た、飛び出す所は広場の端、人のいない所
其処に向けて飛びだし、前回り受け身で
転がり、ゴロゴロと横に転がり立ち上がる。
ほんの数瞬、俺の居た場所に熊の前足が
爪を立てて、通りすぎる。
明るみに出た脅威に、周りは騒然とし悲鳴も
上がるが、腹の底から声を出して指示する。
「騒ぐな!その場を動くな!じっとしろ!」
熊を見据えながら、大声で叫ぶ!
俺の突然の大声に、熊が再び立ち上がり吼える
熊は本来、警戒心が強く此方が縄張りを荒らす
様な事をしなければ、姿は現さない。
熊の知能は驚くほど高く、執念深い。
一度獲物認定を受ければ、死ぬまで外れ無い。
俺はその警戒心と、執念深さを利用する。
横目でパパンを見る、準備は後少しって所か?
森の熊さんに教えてあげよう!
人間は知恵を使って戦う存在だと!
さぁ、熊退治だ!
立ち上がり、威嚇する様に吼える熊を
睨み、タイミングを計る。
姿勢を戻し、鼻先が俺に向く、急かさず
また、シートを拡げる様に投げて威嚇する。
俺のやっている事はただのビックリショーだ
但し、命懸けの!
熊の知能は高い、こんな豆粒みたいな俺が
何倍の大きさに突然なるのを、警戒する。
俺はその警戒心を利用する、俺の役目は
お前をこの向きで、この場に留める事だ
倒す必要は無い、種明かしをされるまで
これを続けてやる、バレたら俺が死ぬ!
命を掛けて時間を稼ぐ、他の兵士は何処?
増援はまだかよ!震えそうな体を気合い
と根性で止める、熊を睨み気合いを入れる
為に声をあげる。
「おらぁ!コイおら!」
嘘です、来ないで下さい、死んでしまいます。
もうさ、泣きたいよ?俺、命を張るの何度め?
まだ3歳児よ?人生これから過ぎるわ!
一秒が長すぎる、後何秒稼げる?
息を静かに吐く、呼吸を見破られ無い様に
静かに息を軽く吸い込む、命懸けのメンチを
熊に極めていると、格闘教官の声が甦る。
(恐怖で固くなるな、思考を動かせ!)
教官!俺、今年でやっと4歳何ですよ?
何ですか?思考を動かせ!って!止めるな
じゃ無いんですか?それって!
しかし、今はその言葉が良く解る。
恐怖は全てを止めてしまう、体も思考も
全てを止める、本当にありがとうございます
貴方の言葉が、今の俺には良く解ります。
こんな骨の髄まで、鍛えてくれてコンチクショウ
ですよ!良くもやって下さいましたね。
思わず、口元が緩む、まだやれる!俺はまだ
心は折れていない!!
永遠に思えたメンチも、突然の終わりを迎える
「マクート!」
パパンの声に俺は体を伏せて、射線を通す。
口を開き、俺を襲おうとした熊が苦痛に
悶え、悲鳴をあげる。
パパンの弓が、
熊の下顎を貫いたのだ!
パパン!アンタ本当にスゲエな!あんな小さな
的に良く一発で通したよ!
ナイフを右手に構えて、不測に備えていると
一人の男性が飛び出し、熊の首もとに1番槍を
入れて、止めをさした。
「良くやった!珠潰し!鉄弓!」
『生傷男』オーデさんが、会心の笑みで此方を
見る。
俺はやっと、腰を抜かして尻を地面につける
「オーデさんもっと早くきてよぉ〜」
俺は感謝の言葉より先に、今更来てくれて
ナイスタイミングだよ!のクレームを入れる。
涙目で腰を抜かした俺を見て、豪快に笑う
『生傷男』はバンバン俺の背中を叩き笑う
「そう言うな!珠潰し!これでも走って来た
のだぞ?許せよ」
そう言って右手を差し出し、笑顔で俺を見る。
俺は差し出された手を掴み、立ち上がる。
「来てくれて助かりました有り難うございます」
俺も笑顔で応え、笑い合う。
何だろう?おっさんと友情を順調に育んでいる
みたいだぞ?俺!
「オーデ、礼を言う助かったぞ」
「何、当たり前の事よ、此方も礼を言う
よくぞ!時間を稼いでくれたお陰で間に合った」
パパンと『生傷男』ががっちりと握手している。
「マクートも良く耐えたな!偉いぞ」
大きな手が、俺の頭をワシャワシャ撫でる。
不思議と悪い気はしない、俺は笑ってパパンに
されるがままに、撫でられ続けた。
「しかし、コイツ小さなな?子熊か?」
おい!こら!『生傷男』余計な事は言うな!
「そうだな、多分近くに親熊がいるぞ?」
おい!てめぇ!ブロディ!何フラグを立てて
やがる!こら!
その時、俺達の後ろから茂みを掻き分ける
音がして、三人が振り返り驚愕する。
体長は軽く4m近い大きな、凄く大きな
親熊が俺達の前に立ち塞がった。
フラグの回収が早すぎるわ!
俺は心の中で叫んだ!
春の1日は未だに終わらない様だ。
できれば、昨日の17:00〜17:55迄に
上げたかった。




