86話 『神器』同盟に勝利を
ケアニスが再びサミュエル自治領へやってきて3日が経った。
まだ、俺たちはエジン公爵領へ向かっていない。
あれだけ執着していたコンウォル辺境伯の魔境城塞から、大した時間もかけずに彼がこっちにやってきたのは、俺に女の子にしてもらうため。
そのためには、女の子になった先輩であるカウフタンの様子を伺うため。
早くっ、早くっ、ともっと言ってくると思っていた。
でもそんなことはなく、こちらの準備が整ったと言うまで特に文句も言わず待っている。
どっちかというと気がはやるタイプかと思っていた。
それはきっと正解だろう。
でも急かしたりしてこない。
何故かと言うとクオンのおかげだ。
例の秘密の地下洞で、クオンとケアニスは何度も手合わせして、武術談義なのか、体術談義なのか、とにかくそういう話題で盛り上がっていた。
そこにウルシャも加わる。
ケアニスはウルシャとも手合わせし、真力の動きに合わせて隙を突く剣さばきに心打たれたようだ。
クオンと共に、ウルシャの剣技の美しさのファンになっている。
戦うことで育まれる友情というのは、見てて微笑ましい限りだ。
「イセ、なんか孫でも見てるおじいちゃんみたいな顔をしているぞ」
「慈愛に満ちてる?」
「いや、ちっちゃい子に欲情してて気持ち悪い感じの方?」
「お前の中のおじいちゃんって最低だな!?」
アイの常識、どうなってやがるっ!?
「おぬしはこっちだぞ。あっちに混ざりたいのか?」
「まさか」
かわいい子たちに囲まれてイチャイチャしたいが、俺にその資格はない。
あんなのに混ざったら生き地獄だ。
腕や足の曲がってはいけないところが曲がる。
「イセ殿、ここまでの話は理解できましたか?」
「だいたいですが、はい」
ケアニスたち3人が手合わせと体術談義をしているその近くで、俺とアイ、そしてサミュエル卿とシガさんは、魔境城塞の情報と問題、その対応について話していた。
「つまり、ケアニスさんが抜けた穴は大きすぎるって話ですね」
「ざっくりすぎだろ……まあそういうことだがな。それで私とサミュエルくんとで対策を考えた。説明よろしく」
「おまかせください」
サミュエル卿が話すことを要約するとこんな感じだ。
魔境城塞の防衛が危うい。
コンウォル辺境伯は、傭兵を雇い入れて戦力不足を補充する。
そこに通商連合が傭兵を貸し出す。
「という名目で派兵をして内部から魔境城塞を牛耳るって寸法だ」
「ずるいな、師匠」
「通商連合は、サミュエル自治領がこういうことするための便利な道具なのでね」
「だから、その後の方が重要ですね」
またサミュエル卿が教えてくれる。
亜人たちとの交流のために魔境城塞を抑えたいのはサミュエル卿たちだけじゃない。
天界の尖兵である教皇庁もそうだ。
そこからツッコミが入るので、また少し手荒くなるだろうとのこと。
「これは帝国内を二分する争いに発展する可能性があります」
「そこまで、ですか」
「ええ。この国は、大きく動き出しましたよ。アイ様とイセ殿によって」
「「…………」」
微妙な半笑いをしている俺とアイ。
なんかまずいことをした……んだよなぁ。
「なんかすいません」
「ん? 何故謝るのですか?」
「サミュエルくん。イセくんの種族は人に何かアクセスする時に頭を下げることが美徳という文化があるんだ。こっちでも珍しい変な文化だがな」
「面白いところですね」
「七面倒臭いが、だからこういうことも起きている」
「なるほど。謙遜にして不遜。虚実ではなくどちらも実。やっかいですね」
「師匠たちは何を話してるんだ?」
「俺にもわからん。けど悪い話じゃないんですよね」
「ええ。これはあなた方が作ったチャンスです」
「アイたちが作った?」
「魔境城塞はケアニス様が天界に反して占拠した状態でしたが、このタイミングでケアニス様の手から離れました。こちらが教皇庁より先に動けます。これは大きなメリットです」
通商連合が先に重要拠点を取れるチャンスが巡ってきた。
皇帝派の通商連合が先手を取り、教皇派が後手に回る。
これによって、亜人たちや天界の動きを一部コントロールも可能になる。
「国を二分する争いとは、統一の足がかりです。そのきっかけを作ってくれたあなた方には感謝していますよ」
そう言って、サミュエル卿は頭を下げる。
「こちらは私たちにお任せを。アイ様とイセ殿は、ケアニス殿と共に……」
「わかった。天界の動きはこっちに引き付ける」
アイはサミュエル卿の意図を汲んで宣言し、手を差し出した。
サミュエル卿は、その手をとって握手する。
シガさんの代わりに、握手をした。
「『神器』同盟に勝利を。ってところだな」
シガさんが、少し調子に乗った気味に言った。
反天界の『神器』同盟。
どうやら火種は、こちらが握っているようだ。




